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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 八章:冒険譚の終幕

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希望の少女


 輪廻に留まるリエスティアの(ゆめ)へ入ったウォーリスとカリーナだったが、そこでは生き延びるゲルガルドが待ち構えていた。

 その憎悪に満ちた瘴気によって窮地に追い込まれた二人だったが、ウォーリスの魂に留まっていた未来のユグナリスが窮地から救い出す。


 しかし事態は最悪を極め、リエスティアの魂に憑依したゲルガルドが彼女の精神体(たましい)を操り、夢に閉じ込めた彼等へ襲い掛かる。

 愛する女性(リエスティア)を人質を取られた未来のユグナリスは、ゲルガルドを倒せない状況となって徐々に追い詰められていた。


 そうした最中でも、彼が着火させた『生命の火』は瘴気に塗れた屋敷を燃やし続ける。

 この炎によって瘴気を阻まれ、意識の無いカリーナを抱えるウォーリスは生き永らえていた。


 しかし上空(そら)に見える二人の戦いを確認すると、ウォーリスは状況を理解する。


「――……リエスティアの精神体(たましい)を人質にされたのか、あの皇子(ユグナリス)が防御ばかりで攻撃できてない。……やはり空間転移が使えない。(ここ)からの脱出は不可能なのか……」


 自分達が陥った状況を改めて理解し、ウォーリスは絶望の表情を色濃くさせる。


 リエスティアの精神体(たましい)を支配し自分自身の理想(ゆめ)に閉じ込めたゲルガルドの魂を屠らない限り、逃げる事も不可能。

 かといってゲルガルドの魂を屠れば、憑依されているリエスティアの魂も道連れにされてしまう。


 しかし三人が生きて現世に戻る為には、リエスティアの魂を犠牲にしてゲルガルドを倒すしかない。

 それが出来ないからこそ未来のユグナリスは苦戦している事を理解し、ウォーリスは腕に抱える意識の無いカリーナに呟いた。


「……私は、どうすればいい……。……リエスティアを犠牲にしてでも、君を救うべきなのか。……それとも……っ」


 二つの内一つしか救えないという選択肢に追い込まれてしまったウォーリスは、何か別の方法が無いかと考える。

 すると脳裏に(よぎ)ったある知恵が、彼の中で明確な手段として三つ目の選択肢へと導いた。


 しかしその方法を思い付いたウォーリスは、腕に抱えるカリーナに謝る。


「……すまない、カリーナ。……やはり私は、君との約束を果たせないようだ」


 そう言いながらウォーリスは『生命の火』が囲む場所に自ら歩み、隠すようにカリーナを横に寝かせる。

 すると二人が戦う上空(そら)に目を向け、自らの精神体(からだ)を浮かせながら飛翔した。


 そして真下から強襲するように、右手から生命力(オーラ)砲撃(たま)を放つ。

 それに気付いたゲルガルドと未来のユグナリスは、間を割るように放たれた生命力(オーラ)の砲撃を避けた。


 すると未来のユグナリスが浮遊する傍にウォーリスが来ると、ゲルガルドがリエスティアの声と姿で声を向ける。


「なんだ、愚息(ウォーリス)よ。今更になって何をしに来た?」

 

「……」


「まさか、私に勝てるとでも思っているのか? 子供の頃から父親(わたし)に恐怖し、怯える事しか出来なかった貴様が」


「……っ」


「……ウォーリス……!」


 改めて相対する様子を見せるウォーリスに、ゲルガルドは不敵な笑みを向けて言い放つ。

 そして傷付きながらも傍に居る彼へ声を掛けた未来のユグナリスは、僅かに身を震わせている事に気付いた。


 その震えがゲルガルドに対する怒りではなく、恐怖から来る怯えだとウォーリス自身も理解している。

 だからこそ、彼は今自分がやるべき事を自覚しながら未来のユグナリスに話し掛けた。


「……皇子。奴を倒す為に、一つだけ策がある」


「!」


「私は今からそれを実行する。それが成功した時には……私諸共に、ゲルガルドの魂を燃やし尽くせ」


「……まさかっ!?」


 小声ながらもそう伝えたウォーリスの言葉を聞き、未来のユグナリスは驚きを見せる。

 しかしその返事を待たず、ウォーリスは自らの意思によってゲルガルドが憑依するリエスティアの魂へ向かって行った。


 それを見たゲルガルドは口元をニヤけさせ、精神体(からだ)から大量の瘴気を放ちウォーリスを迎撃する。


「馬鹿め、自ら飛び込んで来るとは!」


「――……グッ!!」


 数百を超えるであろう瘴気が鞭のような形状に変化し、向かって来るウォーリスを襲う。

 それを避けずに両腕と身体で受け止めるウォーリスは、そのままリエスティアの精神体(からだ)へ近付いた。


 しかしその途中、鞭のような瘴気がウォーリスの精神体(からだ)を拘束するように各所へ纏わり付かせる。

 それにより動きを止められると、鞭の瘴気によって彼の精神体(からだ)は汚染されていき、ゲルガルドは下卑た笑いを浮かべながら言い放った。


「何をする気だったが知らんが、こうなれば身動きすら出来まいよ」


「……そうだ。これでいい」


「ぬ?」


「お前の魂から発せられる瘴気、それを待っていた――……っ!!」


「……なにっ!?」


 ウォーリスはそう呟き、次の瞬間に驚くべき行動に移る。

 それは自らの精神体(からだ)に纏わり付く瘴気を、逆に自分自身の精神体(たましい)へ取り込み始めるという尋常ではない手段だった。


 しかも吸われ続ける瘴気がリエスティアの精神体(からだ)から流れ込み、ウォーリスの精神体(からだ)を更に汚染させていく。

 するとゲルガルドはその手段に因る目的を素早く理解し、驚愕しながら瘴気の鞭を自らの意思で引き千切った。


「貴様、まさか……っ!!」


「っ!!」


 瘴気が吸収される状況を(きら)ったゲルガルドは、ウォーリスから距離を取る為に離れようとする。

 しかしウォーリスはそれを許さず、汚染されながらもまだ動ける精神体(からだ)でゲルガルドを追った。


 その姿を目で追うゲルガルドだったが、一筋の赤い閃光が正面から真横に伸びるように向かって来るのに気付く。

 それは未来のユグナリスであり、逃げようとしていたゲルガルドを止めるように衝突して来た。


「グッ!! ……き、貴様等(キサマラ)ァ……ッ!!」


「今だ、ウォーリスッ!!」


「――……オォオッ!!」


「ッ!!」


 そのままゲルガルドを背後から掴み止めた未来のユグナリスは、逃走を阻む。

 するとウォーリス自身も二人に近付き、両腕を挟む形でリエスティアの精神体(からだ)に両手を触れさせた。


 それと同時に、ウォーリスは間近で抱くゲルガルドに向けて言い放つ。


「……お前に、その精神体(たましい)は不釣り合いだ」


「ウォーリス、貴様……!!」


「もっと相応しい場所へ案内してやろう。……私の精神体(たましい)になっ!!」


「ッ!!」


 ウォーリスはそう言いながら、抱き締める事で触れるリエスティアの精神体(からだ)から急速に瘴気を吸い出していく。

 それは同時に、瘴気を発生させているゲルガルドの魂も喰らい突くように吸い込み始めた。


「き、貴様……この吸引力、まさか私が繋げた魂の回廊を利用して……っ!!」  


「お前だけが、回廊(それ)を利用できるわけではないぞ!」


「クソ……この愚息(クソガキ)ガァアッ!!」


 瘴気ごと魂を吸収される事を理解したゲルガルドは、それに抗う為に必死にリエスティアの精神体(からだ)から放つ瘴気を暴れさせる。

 しかしウォーリスは、精神体(からだ)を傷つけられながらも耐え続けた。


 するとゲルガルドは急速に引き抜かれる瘴気によって彼女(リエスティア)精神体(からだ)に及んでいた汚染も解かれ、その動きは鈍くなっていく。

 それから暫くすると、全身に及んでいた瘴気の汚染がリエスティアの精神体(たましい)から消え失せた。


 逆に精神体(からだ)を瘴気によって汚染され尽くしたウォーリスは、辛うじて自我を保ちながら傍に浮かぶ未来のユグナリスへ声を向ける。


「……皇子、この子を……!」


「!」


 リエスティアの精神体(からだ)から離れたウォーリスは、未来のユグナリスに彼女を委ねる。

 そして確認するように『生命の火』を使い、リエスティアの精神体(たましい)にゲルガルドの魂と瘴気が残っていないかを確認した。


「……大丈夫だ。瘴気も、ゲルガルドの魂も消えてる!」


「あぁ……グ、ァ……ッ!!」


「ウォーリス!」


 僅かに安堵の息を漏らしたウォーリスだったが、次の瞬間に苦しむ声を漏らしながら見悶える。

 しかしウォーリスの青い瞳は強い意志を持ったまま、未来のユグナリスへ声を向けた。


「……さぁ、私ごとゲルガルドを()れ……皇子……っ!!」


「!!」


「魂の回廊は塞いだ、今なら奴は逃げられない……っ!!」


「……だ、だが……!」


「例え奴が、私の肉体(からだ)へ逃げたとしても……今なら傍に、アルトリアやエリクがいる。彼等ならこの異変に気付き、私をゲルガルドと判断して消滅してくれるはずだ……っ!!」


「……これしか、方法は無いのか……っ!!」


 ウォーリスは自らの魂と肉体を犠牲にし、ゲルガルドを消滅させる事を目論む。

 その意思を確認した未来のユグナリスは表情を強張らせながら、右手に握る聖剣に『生命の火』を纏わせながら矛を向けた。


 苦しみながらもそれを見たウォーリスは、僅かに微笑んで呟くように頼む。


「そうだ、それでいい。……その子と、カリーナを頼む……」


「……ッ!!」


 後の事を託すウォーリスに対して、未来のユグナリスは渋い表情を強めながらも聖剣を振り上げる。

 そして『生命の火』を用いて、ゲルガルドごとウォーリスの精神体(たましい)を切り裂き燃やし尽くそうとした。


 しかしその聖剣が振り下ろされる前に、更なる異常事態が発生する。


「!?」


「……な、なんだ……!?」


 次の瞬間、真っ暗だった夢の景色に巨大な亀裂が発生する。

 その亀裂から暗闇とは真逆の極光が差し込むと、夢の暗闇に巨大な穴が開けられた。


 するとその穴から、三人の人影が現れる。

 それを見たウォーリスと未来のユグナリスは、互いに驚愕を浮かべた。


「なっ!?」


「……何故、ここに……!?」


 二人は光の穴から飛び入るように入った人物達を見て、驚愕を浮かべる。


 その内の一人は、長い金色の髪を輝かせながら降下するアルトリア。

 更に彼女の隣に赤髪を靡かせる現世の帝国皇子ユグナリスが共にいた。


 そうして現れた二人の間には、五歳にも満たない容姿の小柄な少女がいる。

 その少女はリエスティアを見ると、微笑みを浮かべながら可愛らしくも大きな声を発した。


「――……お母さん! お父さんと一緒に、迎えに来たよ!」


「!!」


「……まさか、あの子は……!?」


 自分に向けられた少女の声に、未来のユグナリスは驚愕する。


 その少女の髪色は、主に黒に染まっている。

 しかし前髪の一部は僅かに父親と同じ赤い色を有し、その瞳は左右が異なる青と黒の色をしていた。


 この少女こそ、三年前にリエスティアが生んだ皇子ユグナリスとの子供。

 赤子から幼い少女へと成長した、シエスティナ=フォン=ガルミッシュだった。


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