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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 八章:冒険譚の終幕

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憎悪の淵に


 輪廻に留まるリエスティアの魂に入ったウォーリスとカリーナだったが、そこで見える景色(ゆめ)は彼等が共に暮らしていたゲルガルド伯爵領地の本邸がある場所だった。

 その夢の中で夥しい瘴気に襲われる二人は本邸である屋敷に逃げ、ある部屋に辿り着く。

 そこには幼少時(しょうじょ)の姿をしたリエスティアと、滅ぼしたはずのゲルガルドが存在していた。


 そうした状況に陥っている一方で、場面は現世に戻る。


 ウォーリス達と共に輪廻へ向かったマシラ王は、突如として現世の肉体に魂を戻しながら息と意識を戻す。

 しかしその様子は動揺した面持ちを浮かべており、傍に控えていたゴズヴァールが驚きを浮かべながら問い掛けた。


「――……ハッ!! はぁ……っ!!」


「ウルクルス様、戻られたのですかっ!?」


「……っ、強制的に……現世(ここ)に戻された……っ」


「!!」


「恐らく、術者である私に害が及ぼうとしたせいだ。それで秘術の安全弁(セーフティ)が働いたんだ……っ」


 ウルクルス王はそう呟き、自身が現世に戻された理由を伝える。

 それを聞いた周囲の者達は驚愕を浮かべ、同じように輪廻へ向かったウォーリスとカリーナを見た。


 しかしその二人は目覚める様子が無く、アルトリアが訝し気な表情を強めながら尋ねる。


「どういうこと、輪廻(むこう)で何があったの?」


「……彼女(リエスティア)の魂までは導かれた。だが私達がその魂の理想(ゆめ)に入ろうとした時、黒い霧のようなモノが私達の精神体(たましい)を強制的に飲み込もうとした」


「なんですって……!?」


「それでも私は、安全弁(セーフティ)(のが)れられたが。……二人の精神体(たましい)は、恐らく……」


「……!!」


 輪廻で起きた状況を話すウルクルスの言葉で、その場に居る全員が唖然とした様子で言葉を失くす。

 するとアルトリアはその話を聞き、寝台(ベッド)に横たわるリエスティアに視線を向けながら何かに気付いた。


「……しまった、そういう事ね……っ!!」


「えっ!?」


「迂闊だった、まさかこんな手段()を打ってたなんて……!!」


「どういう事なんだっ!? いったい、何が起きて……!」


 思考しながら呟くアルトリアの言葉を聞き、ユグナリスが慌てる様子を見せながら問い掛ける。

 すると彼女は改めて、今の状況を自身が導き出した推測によって述べた。


師匠(あお)から聞いた事があるのよ。秘術を用いて魂を別の肉体(からだ)に憑依させるのには、必要な因子(こと)がある。……それが、術者と対象者の血よ」


「!」


「特に生者の肉体に憑依するには、対象者が血縁者である事が不可欠のはず。……ゲルガルドはそれを利用して、ずっと生き永らえていた」


「そ、それが……?」


「ゲルガルドは自分の血を継ぐ息子(ウォーリス)に憑依してた。……なら、リエスティアは?」


「!」


「リエスティアは幼い頃に『(くろ)』の精神を消されてた。だから幼少時の記憶が無くなってる。……でも記憶が消された時、リエスティアがウォーリスと同じ事をされていたとしたら?」


「……まさかっ!?」


 アルトリアは自身の推測を伝え、その場に居る全員を再び驚愕させる。

 すると全員の視線がリエスティアに移り、今の状況が何の原因で起きたかを察する事が出来た。


 しかし動揺するユグナリスは、何かを思い出しながらアルトリアへ反論を向ける。


「だ、だけど! リエスティアには、魔法が効かないんじゃ……!?」


「昔はね。……でも、今は違う」


「!?」


「リエスティアの身体に私の魂が入った事で、創造神(オリジン)の肉体だけは完全に復活した。その影響で、魔力が通じる状態になってしまったのよ」


「そ、それじゃあ……!」


「ゲルガルドは自分の魂が完全に消される前に、ウォーリスから魂を移動させた。……そして奴とも血が繋がっている、リエスティアに憑依したんだわ」


「!?」


「奴は今までずっと、リエスティアの身体(なか)に隠れ潜んでたのよ。……しかもその身体に繋がってるリエスティアの魂に、ウォーリス達が接触した……」


「まさか、ゲルガルドの狙いは……!?」


「……リエスティアの魂にウォーリス達の魂を誘い出して閉じ込める。そして、裏切った復讐をするつもりよ」


「っ!!」


 推測ながらも状況を見てそう考えるアルトリアの言葉に、反論していたユグナリスは絶句する。

 そしてこの状況が如何なる結果を齎すのか、全員が予想し危険を感じずにはいられなかった。


 すると視点は、再びウォーリス達に移る。


 夢の中に居るリエスティアを発見したウォーリスとカリーナだったが、その傍に立つゲルガルドの姿に唖然とした様子を浮かべる。

 死んだはずの父親(ゲルガルド)が再び目の前にいる状況に、流石のウォーリスも動揺を強めながら過去の恐怖を蘇らせて荒い呼吸を吐き出していた。


 そんな息子(ウォーリス)に対して、父親(ゲルガルド)は話し掛ける。


「――……どうして消滅(ころ)したはずの私が、ここにいるのか。そんな顔をしているな?」


「!!」


「愚かな息子だ。貴様の浅はかな計画で、私を滅ぼせると本気で思ったのか?」


「だ、だが……確かにお前は……まさかっ!?」


 目の前に居るゲルガルドが夢ではなく実際の精神体(そんざい)だと気付き、ウォーリスは思考を巡らせながら目の前の状況に繋がる可能性へ考え至る。

 それを察するように口元を微笑ませたゲルガルドは、影のある笑みで答えた。


「そう、お前の小さな頭でも簡単に分かること。……私は既に、お前の娘(リエスティア)とも魂の回廊を築いていたのだよ」


「……だ、だが……リエスティアには魔力を用いた秘術は効かないはず……!」


「愚か者め。そもそも憑依の秘術が媒介とするのは、互いに持つ同じ因子……つまり『血』だ。血の繋がりによって魂に繋がる回廊を築き、対象者の肉体を乗っ取る事が出来る」


「!!」


「確かに『(くろ)』の肉体には、魔力を用いた方法で効果を及ぼす事は出来ない。……だが肉体から離れた血を媒介とすれば、魂の回廊だけは築けるのだよ」


「……そうか、だから……っ!!」


 ゲルガルド自らが生きている理由を説明し、ウォーリスはそれを聞いた事で過去の出来事を思い出す。

 それはまだ『黒』の精神だったリエスティアが魂を消されていた状況であり、その後にゲルガルドが魔力の効かない彼女の肉体に秘術を施して憑依するつもりだったのかという、誰もが考え至れていない疑問だった。


 既に十数年前(そのとき)からリエスティアへの憑依を考えていたゲルガルドは、血の繋がる二人に魂の回廊を設置している。

 その答えを聞いたウォーリスは、自分の策謀(うらぎり)がゲルガルドの周到な準備によって看破されていた事を改めて認識した。


 すると愕然としながら絶望の色濃い表情を浮かべ、精神体(からだ)を震わせながら怯える様子を見せる。

 しかしそんなウォーリスに対して、ゲルガルドは影のある微笑みを向けた。


「だが私も、流石に焦ったぞ。創造神(オリジン)に殺されそうになった時、まだ創造神()の肉体には入れなかったのだ。しかし私が消されそうになった時、予め築いていた魂の回廊に逃げ込ませる事が出来た。……するとどうだ? (しばら)くすると、私は創造神(オリジン)の肉体に侵入できるようになっていた」


「……っ!!」


「その肉体には、創造神(オリジン)の憎悪とも言うべき瘴気が溢れていたのでな。それを奪い吸収しながら消失し掛けた自らの魂を復元し、ここまでの復活が叶った。……貴様の娘には感謝せねばなるまい、ウォーリスよ」


「そんな……」


「だが。私を(たばか)り裏切った貴様は、相応に罰せねばならないな」


「っ!!」


 リエスティアの傍から離れるように歩き出したゲルガルドは、無造作に息子(ウォーリス)へ近付いて行く。

 それに気付き強張る表情と精神(からだ)を無理矢理に動かしたウォーリスは、右手に形成した生命力(オーラ)を収束し放出しながら迎撃した。


 しかしゲルガルドの精神体(からだ)から溢れ出る瘴気がその生命力(こうげき)を瞬く間に飲み込み、何事も無かったように無力化してしまう。


「な……馬鹿なっ!? 瘴気に対して生命力(オーラ)は有力なはず……!」


「言っただろう、ここは私の理想(ゆめ)だと。それに招かれた客人(だけ)でしかない貴様が――……私に抗えるはずがないだろうっ!!」


「カリーナッ――……グァアッ!!」


「ウォーリス様っ!!」


 ゲルガルドが激昂すると同時に身に纏わせる瘴気を向けると、ウォーリスはカリーナを庇いながらそれを浴びる。

 更に彼を捕らえた瘴気は強引にその精神体(からだ)を持ち上げ、真横に広がる壁に叩き付けた。


 瘴気に拘束され精神体(からだ)に傷を負ったウォーリスは、口から血を吐き出す。

 しかし辛うじて意識を残していると、彼の視界にカリーナへ近付くゲルガルドの姿が見えた。


 それを見たウォーリスは、ゲルガルドが何をする気かを察してしまう。


「や、()めろ……ッ!!」


「言っただろう。これが愚かな貴様に相応しい罰だ」


「……()げろ、カリ――……っ!!」


 そう言いながらカリーナの前に立ったゲルガルドは、素早く右腕を伸ばし彼女の首を掴み取る。

 そして彼女の身体を持ち上げながら、徐々にその精神体(からだ)を瘴気で黒く汚染させられ始めた。


 するとゲルガルドは影のある笑みを浮かべ、ウォーリスを見ながら話を続ける。


「この女には創造神(オリジン)の肉体を生んだ褒美として、私の瘴気(ちから)を与えてやろう」


「カリーナ……!!」


「その後は、貴様の魂も私の瘴気で塗り潰してやる。そして貴様の魂と肉体を完全に支配し、現世(むこう)にいる者達を殺して創造神(オリジン)の肉体を使い、再びを世界を手に入れる機会(チャンス)を待つとしよう」


 瘴気で拘束されたまま壁に貼り付けにされたウォーリスは、この状況に絶望しながら言葉を失くす。

 しかし精神体(たましい)を汚染されているカリーナは、抗うようにゲルガルドの右腕を両手で掴んで掠れた声でウォーリスに呼び掛けた。


「……ウォーリス様……。……あの子と、逃げて……!」


「!?」


「私は、大丈夫……ですから……。……早く……!」


 瘴気に汚染に耐えようとするカリーナは、二人で逃げるように伝える。

 それに聞き驚くウォーリスに対して、ゲルガルドは高笑いを浮かべながら言い放った。


「クッ、ハハハハハッ!! ……馬鹿な女だ、このまま自分がどうなるかも分からないらしい!」


「……!」


「瘴気に汚染させた程度で、私が許すはずなかろう。……お前の精神を根底から変えてやる。そして私に、永遠に隷属させてやろう」


「な……っ!!」


「現世に戻った時、この女は私を愛し尽くす事になる。死ぬまでな。……どうした、喜べ。これは名誉なことだぞ?」


「……い、イヤ……ッ!!」


 精神を汚染された先の未来を教えたゲルガルドに、カリーナは青褪めた表情を浮かべながら暴れようとする。

 しかし首を掴む右手は剥がれず、更に瘴気の進行は両腕や腹部を覆うように拡がり続けた。


 それを聞いているウォーリスもまた、精神体(からだ)に纏わり付く瘴気が徐々に汚染を広げている。

 そうして二人は身動きも取れぬまま意識を薄れさせ、ゲルガルドに支配から逃れられなくなった。


 この状況になり、ゲルガルドは勝ち誇った高笑いを浮かべる。


「どうだ! 自分の大事なモノを奪われる気分はっ!!」


「……ゲルガルド……ッ!!」


「これが貴様の罰だ、ウォーリス。……安心しろ。お前も隷属させてやる。現世に戻った時には、親子で仲睦まじくしようではないか! ハハハ、ハハハッ!!」


「……クソッ、クソォ……ッ!!」


 汚染する瘴気によって生命力を奪われ精神体(からだ)を動かすことも難しくなったウォーリスは、ただこの状況を見る事しか出来ない。

 自分が大事にしていた者達までも踏み躙ろうとするゲルガルドに憎悪こそ沸きながらも、それを行動に移す事が出来なくなっていた。


 そうして何も出来ぬ絶望(じょうきょう)に顔を伏せそうになった時、ウォーリスの精神体(からだ)に赤い光が発せられる。

 すると次の瞬間、ウォーリスの身体に赤い炎が灯り、精神体(からだ)を汚染し拘束している瘴気が全て焼き払われた。


「!?」


「なにっ!?」


 ウォーリスに起きた異変に彼自身やゲルガルドも気付き、大きく瞳を見開く。

 そして彼を纏う炎が赤い閃光となって、ゲルガルドに襲い掛かった。


 ゲルガルドはそれを回避する為に飛び退くと、カリーナの首を掴んでいた右手が切断される。

 更に首に残る右手が赤い炎で燃やし尽くされると、彼女にも纏いながら精神体(からだ)を汚染していた瘴気を瞬く間に消滅させた。


 それを見たゲルガルドは憤怒の表情を浮かべ、カリーナの傍に立つ炎を見ながら怒鳴る。


「貴様……誰だっ!?」


「――……お前を滅ぼす者だ、悪魔ゲルガルドッ!!」


「……皇子……!」


 カリーナを包むように守っていた炎が人の姿を模り始め、その真の姿を見せる。

 それはウォーリスの(なか)に留まっていた、『赤』の聖紋を宿す右手で聖剣を握りながら『生命の火』を纏う未来のユグナリスだった。


 こうして生き延びていたゲルガルドの策に嵌ったウォーリス達は、その魂も肉体も支配されそうになる。

 しかしそれを阻む事に成功したのは、ゲルガルドの思惑に反する形で相対する未来のユグナリスだった。


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