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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 八章:冒険譚の終幕

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目覚める為に


 現世に帰還したエリク達は、眠り続けているウォーリスとそれに付き添うカリーナと再会する。

 そしてアルトリアは自らウォーリスの狸寝入(ねむ)りを起こす為、その(なか)に入り彼へ激怒の声を向けた。


 それを終えて言いたい事を告げた彼女は、再び現世へ意識を戻す。

 瞼を開き青い瞳を見せながら振り返ると、そこで不安気な様子を見せているエリク達へ声を向けた。


「――……ウォーリスの奴、やっぱり自分自身で起きる気が無かっただけだわ」


「そうなのか」


「ええ。……貴方に顔向けが出来ないんですってよ、この男は」


「……そうですか。……ウォーリス様……」


 ウォーリスが自分自身の意思で眠り続けている事を明かしたアルトリアに、その場の全員が神妙な面持ちを浮かべる。

 ただカリーナは僅かに安堵の息を漏らしたが、その身に施されている制約によって苦痛の表情を隠しながらも疲弊の濃い様子を見せた。


 そんな彼女を見ながら、アルトリアは敢えて厳しく強い口調で問い掛ける。


「本当に分かってるの? このままコイツが眠ったフリを続けたら、貴方は近い内に死ぬわよ」


「……」


「無理矢理に起こす事も出来るけど、そんな事をしてもコイツは自分のやった事と向き合う気が無い。……なんでこんな自分本位の根性無しに、貴方は自分の命を賭けられたの?」


 僅かに怒気を宿すアルトリアは、そうした言葉でカリーナに問い掛ける。

 すると彼女は僅かに両拳を握り、意思の強い瞳をアルトリアへ向けながら答えた。


「ウォーリス様は、根性無しなんかじゃありません」


「!」


「この方が本当に自分本位なら、異母弟君(おとうとぎみ)のジェイク様や親友のアルフレッド様、そして私を見捨てて御自分だけで御父君(ゲルガルド)から逃げる事も出来たはずです。……でもウォーリス様は、一度としてそんな事はなさらなかった」


「……」


御父君(ゲルガルド)に服従された時にも、奴隷だった私が御父君(ゲルガルド)の命令以外の事で行動した事を御自分の責だと庇ってくださった。殺されてしまうかもしれないのに。……ウォーリス様は誰かの為に、御自分の恐怖に負けずに立ち向かえる強く御優しい方なんです」


「……っ」


「でも、ウォーリス様だって人間です。心が挫けてしまう事も、弱くなってしまう時もあります……。……今はただ、そういう時期(とき)なんです。でもいつか、ウォーリス様は御自分の弱さも乗り越えてくれます」


 幼い頃からのウォーリスを知るカリーナは、彼が立ち直り自らの罪と向き合えることを告げる。

 それを聞いた一同は困惑した表情を浮かべながらも、アルトリアだけは表情を厳しくさせたまま小さな溜息を漏らした。


「そう。……貴方も、相当(まっすぐ)馬鹿(ひと)ってことね」


「!」


「そういう()、嫌いではないけど。……ただこの男がさっさと起きてくれないと、次の問題に移れないのよ」


「……次の、問題?」


 腕を組みながら苛立つような声を漏らすアルトリアに、カリーナは意味が分からず首を傾げる。

 すると後ろに立っていたユグナリスが歩み寄り、彼女に向けて説明を始めた。


「アルトリア達と一緒に、リエスティアが戻って来たんです」


「リエスティアが……!」


「しかしアルトリアの話だと、彼女の魂は完全に肉体から消されてしまっているそうです。……だから、彼女の意識も戻っていません」


「そ、そんな……」


 自分の娘(リエスティア)も帰還した事に喜びを見せたカリーナだったが、その現状が語られると再び気落ちした表情を浮かべてしまう。

 するとその話を聞いていたアルトリアが、口を挟む形で説明を加えた。


「リエスティアの魂を肉体に戻す方法なら、あるわ」


「そ、そうなんですかっ!?」


「その為には情報も必要だし、もっと重要なのは彼女の両親であるアンタとウォーリスよ」


「えっ」


「正直、やるだけなら母親のアンタだけでもいいんだけど。ただもしもの場合、ウォーリスに確認したい事があるから。いちいち魂の中に行って聞くのも面倒臭いし、だから起こすという話をしてるわけ。分かった?」


「……リエスティアを起こす為に、ウォーリス様が必要なんですね」


 面倒臭そうな表情を浮かべて話すアルトリアの説明を聞き、カリーナは辛うじて状況を理解する。

 すると身を屈めながらウォーリスの左手を両手で覆うように握ると、瞼を閉じて祈るように語り掛ける言葉を呟いた。


「ウォーリス様、お願いです。起きてください」


「……」


「約束を守れなかった事を御気にされているのなら、私は気にしません。……でもウォーリス様とリエスティアが微笑んでくれない世界に居るのは、とても寂しいです……」


 そう零す言葉と共に、カリーナは瞳から涙を流す。

 するとウォーリスの手を持ちながら自分の右頬に触れさせると、伝う涙が彼の右手に触れながら言葉を続けた。


「ウォーリス様、起きてください。……私を、一人にしないでください……っ」


「……ッ」


「!」


 自らの意思で眠り続けているウォーリスを説得するように、カリーナは涙と言葉を見せる。

 すると次の瞬間、カリーナの頬に触れている右手が僅かに反応するように震えると、それに気付いた彼女は涙を溢れさせている瞼を開いた。


 そして眠るウォーリスの顔を見ると、今まで閉じられていた瞼が開き青い瞳が覗き見える。

 更にその顔が僅かに動き、カリーナに顔を向けながら掠れた声で呟いた。


「――……カリーナ」


「ウォーリス様……!」


「……すまない、カリーナ。私は……」


「いいんです。……もう、いいんです……!」


「……ごめん」


 謝ろうとするウォーリスの言葉を遮り、カリーナは大粒の涙を流したままウォーリスの胸へ飛び込むように抱き着く。

 そして小さく謝罪の言葉を呟いたウォーリスは、彼女と(しばら)く抱き合う様子を見せた。


 しかし一つの咳払いが飛び、改めて再会を果たしていた二人に対してアルトリアが苛立つような声を向ける。


「――……感動の再会をしてるとこ、悪いんだけど」


「!」


「ウォーリス、アンタに聞きたい事があるわ。正直に答えなさい」


「……何を聞きたい?」


「ゲルガルドがリエスティアの魂をどうしたのか、それを話して」


「……リエスティアは?」


「身体は無事よ、でも魂が無い。……ゲルガルドは、リエスティアの魂を消失させたの? それとも、何処かに保管してるの?」


「……」 


 アルトリアの問い掛けを聞いたウォーリスは、抱き着いていたカリーナを離しながら上体を起こす。

 そして襲撃事件後に誘拐したリエスティアが、どのような状況で魂を身体から抜き取られたかを伝えた。


「ゲルガルドは魂の吸引装置を使い、リエスティアの魂を吸収し消失させた――……ように、見せかけた」


「見せかけた?」


「私はゲルガルド討伐の計画として、創造神(オリジン)を復活させる事を考えた。それが成功した後、細工した装置から回収したリエスティアの魂を創造神(オリジン)の肉体に戻す予定だった」


「!!」


「私が目的としていたのは、世界の再始動(リセット)だ。だがカリーナとリエスティアだけは、再始動(リセット)した世界で共に生きようと思っていた」


「……だから彼女(カリーナ)に自爆術式と偽った防御術式を刻んで、転移魔法の魔道具を持たせて別の場所に避難させたのね」


「そうだ」


「それで、リエスティアの魂は何処に保管したの?」


「……天界(エデン)へ来た時に我々が用いた、塔の中だ」


「!」


「ゲルガルドが傍にいる状態で、別の場所に保管できなかった。ただアルフレッドが奴の目を誤魔化し、秘かにリエスティアの魂を保管しているはずだ。……だが……」


「?」


「……アルフレッド殿っ!?」


 ウォーリスはそう言いながら部屋の扉側へ目を向けると、その扉が開く。

 するとそこには黒い魔鋼(マナメタル)の義体であるアルフレッドが存在し、ユグナリスの驚きを無視するように彼も話に加わった。


「話は聞こえていました。……ウォーリス様、申し訳ありません」


「……やはり、そうか」


 唐突に現れて謝罪するアルフレッドに、ウォーリスは表情を厳しくさせながら俯く。

 すろと事情を把握していないアルトリアは、改めて問い質した。


「どういう事よ?」


「……お前達が塔を離れてあの聖域(ばしょ)に来た時、もしやと思ったが。……あの塔は破壊されたんだな? アルフレッド」


「はい。……その時に、リエスティア様の魂を保管していた容器(いれもの)も……」


「!」


「……まさか、リエスティアの魂も一緒に……!?」


 アルフレッドとウォーリスの話を聞いていた一同は、リエスティアの魂が破壊した敵拠点の塔に存在していた事を知る。

 しかしそれが容器ごと破壊されたと聞くと、特にユグナリスが青褪めた表情を浮かべながら膝を崩した。


 するとアルトリアを腕を組んだまま思考し、アルフレッドに問い掛ける。


「アンタ、容器(いれもの)が破壊されたって言ったわね?」


「そうです」


「なら魂は消失したわけじゃなくて、保管していた壊れた容器から無くなっていた。そういう事でいい?」


「はい」


「そう、だったら良かったわ」


「!?」


「な、何が良かったなんだ! リエスティアの魂が消えてしまったんだぞっ!?」


 問い掛けた後に安堵するような息と言葉を見せたアルトリアに、ユグナリスが動揺した面持ちを浮かべる。

 すると再び苛立ちの表情を浮かべながら、アルトリアは強い口調で話した。


「魂が消失したって言う話だったら絶望的だけど、ただ単に現世(こっち)から消えたって話なら、どうにかなるって事よ」


「えっ!?」


「肉体から乖離し現世に留まらなくなった魂が何処に行くのか、魔法学院の基礎講習で学んだでしょ? まさか馬鹿だから忘れたって言うんじゃないでしょうね」


「……確か、死者の世界? でも、そんな世界が……」


「あるわよ。そしてリエスティアの魂も、保管されていた容器から輪廻(むこう)に逝ったのね」


「じゃ、じゃあ……リエスティアは死んだって言いたいのかっ!?」


「違うわよ。なんで創造神(かのじょ)身体(からだ)は今も生きてるのか、考えられないワケ?」


「!!」


「魂が無い身体が今でも生きてる。ならリエスティアの魂も同様に、まだ輪廻(むこう)で生きてる可能性が高いわ。それを現世(こっち)の肉体に戻す為に、血の繋がりがある両親(アンタたち)の協力が必要なのよ」


 アルトリアはそう述べ、輪廻へ留まっている可能性が高いリエスティアの魂を取り戻す事を伝える。

 それを聞いた各々は驚愕を浮かべたが、傍で聞いていた『青』はその手段を知るように納得しながら頷いた。


 こうして目を覚ましたウォーリスの情報により、リエスティアを再び呼び戻す手段が提案される。

 それはアルトリアが伝えた通り、ある一族の秘術を必要とする方法だった。


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