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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
南国編 二章:マシラの闘士

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使徒の翼


 時間は数分ほど前に遡る。

 赤鬼化し暴走したエリクとゴズヴァール達が戦う中、建物の影からそれを観察する人影が二つあった。


 それは少年闘士マギルスと、復活していたアリアだった。


「――……ほら、お姉さん。無理っぽいでしょ?」


「……」


 アリアは暴走するエリクの姿を目にし、始めこそ驚きの視線を向けていた。

 しかし今は冷静な視線へ変化し、状況を見据えている。


 そして魔人と告げたマギルス自身に、アリアは尋ねるように聞いた。


「マギルス。魔人の暴走を止める手段は?」


「うーん。暴走を止めるには、殺すか落ち着かせるかの、どっちかかな?」


「落ち着かせる方法は?」


「分かんない。あのおじさんの場合、完全に自分の魔力制御を出来て無いみたいだし。落ち着くより先に、自分の魔力に脳が耐え切れずに、壊れて死んじゃうと思う」


「……じゃあ、あの牛男と狼男は、どうしてエリクを放置しないの?」


「王宮を守る為じゃないかな。放置しても暴れまわって王宮が崩れて王様と王子が死んじゃったら意味がないし。だから死ぬのを待たずに、殺そうとしてる」


「……」


「あっ、エアハルトお兄さんが赤いおじさんの首を斬った」


「!」


「あっ、でも繋がってる。しかもすぐ繋がった。ゴズヴァールおじさんが心臓を叩き潰した。……でも、生きてるね」


 ゴズヴァール達が致命傷となる攻撃を加えた後、咆哮したエリクが周囲を吹き飛ばす。

 そして前方に居たエアハルトを吹き飛ばす光景を見ながらアリアとマギルスは耳を抑えて鼓膜を守り、衝撃の余波を感じながら体を震わせた。


「うわっ、何あれ! ……エアハルトお兄さんが吹き飛んじゃった」


「……魔力そのものを、口から放出したみたいね」


「へぇ、そうなんだ。大きな声で飛んだのかと思った」


「仲間が吹き飛んだのに随分と余裕ね。助けに行かないの?」


「大丈夫だよ。エアハルトお兄さんは頑丈だし、ゴズヴァールおじさんも平気みたいだし」


「……」


「ほら、ゴズヴァールおじさんが鉄の棒を持った」


「……!?」


「凄い、一突きだね。心臓を完全に潰したよ。これであのおじさんは死んだね――……え?」


 戦いの一部始終を見ながら、マギルスはエリクの死を確信する。

 しかし死んだと思われたエリクが再び動き出しゴズヴァールの角を掴んで振り回す姿を見ると、初めて余裕ある子供の笑みが焦りに変わった。


「ゴズヴァールおじさんが……。なんであの赤いおじさん、生きてるのさ!?」


「心臓を潰したくらいじゃ、死なないってことでしょ」


「そんなのオカシイよ!?」


「王級魔獣の中には、心臓を潰してもすぐに回復する化物もいるって聞いた事があるわ。単純にエリクの今の状態は、そういう奴等に匹敵するってことでしょ」


「……お姉さん、随分冷静だね」


「そう見える?」


「そうじゃないの?」


「相棒があんな姿になってて、私もワケが分からないのよ。だから必死に頭を回して、どうしようか考えてるんじゃないの」


 そんな会話を二人は繰り広げる中で、ついにゴズヴァールがエリクに追い詰められる。

 自身の角を片膝に受けたゴズヴァールは崩れ、歩み寄ってゴズヴァールにトドメを刺そうと動くエリク。


 それを見たマギルスは思わず飛び出しそうになったが、アリアは冷静に言葉で抑えた。


「待ちなさい」


「!」


「アンタ、あのゴズヴァールって男より強いの?」


「……ううん」


「じゃあ、無駄な事は止めなさい」


「でも、このままだとおじさんが死んじゃうじゃん!」


「何の勝算も無く戦い行くのは、無能がやることよ」


「!」


「覚えときなさい。何事にも挑む為には、成功する算段が必要なの。確証も無く挑む事に意義を見出したり、確証の無い成功を信じるようなのは、自分を天才だと思いこんでる無能な馬鹿だけよ」


「……じゃあ、お姉さんはどうなのさ。何か赤いおじさんを止める手立てがあるの?」


「ええ」


「!」


「生憎と、私は天才なのよ」


 アリアはマギルスを引き退けるように肩を掴み、そのまま身を乗り出してエリクの方へ歩き出す。

 それに驚くマギルスは、慌てながらアリアを止めようとした


「お姉さん!」


「アンタはここにいなさい。出来るだけエリクに意識は向けないで。警戒されちゃうから」


「どうするのさ、いったい!?」


「決まってるでしょ」


 アリアはマギルスの制止を無視し、そのままエリクが居る場所へ歩み寄る。

 そしてエリクがゴズヴァールに拳を振り下ろそうとした瞬間に叫び、自身に注意を向けさせた。


「エリク!」


「……ガアァァ……」


 赤鬼と化したエリクがアリアの声に反応し、拳を止めて顔を向ける。

 それを見た瞬間、アリアは確信するように呟いた。


「エリクの理性は、まだ残ってる。ちゃんと自分を『エリク』だと認識してる」


「ガァア……!!」


「だったら、エリクを戻せる。絶対に」


 エリクはゴズヴァールに対する攻撃を止め、歩み寄ってくるアリアに注意を向ける。

 するとアリアは深い呼吸を行いながら手汗を隠すように拳を握り、エリクを目指して歩き始めた。


「……可能性があるって言っても、百分の一単位でしょうけどね」


 自分が考える事に対して皮肉を込めた呟きを見せるアリアは、僅かに微笑みを浮かべる。

 そして穴が空いていた服の胸部分に右手を置き、呟くように魔法の詠唱を開始した。


「――……『我が閉ざされた門よ。我が応えに従い開け放て。封じられし魂の力よ。我が血肉を通い、ここに姿を見せろ』」


「ガァ、ガアアァァァ――……!!」


「『神の使徒たる我が魂の翼。顕現せよ』」


 アリアが詠唱を開始したと同時に、赤鬼と化したエリクが何かを察知したかのように走り出す。

 そしてアリアに向けて拳を振り、叩き潰そうとした。


 すると拳が直撃する寸前、詠唱をし終わったアリアの肉体が眩い光に包まれる。

 それと同時にその光がエリクの拳を防ぎ、その巨体ごと弾き飛ばした。


「!!」


 空はまだ昼の日差しを宿す晴天にも関わらず、その空の光さえ遮る極光がアリアを包むと同時に花開くように咲き誇る。

 そしてアリアは全ての詠唱を終える、咲き誇った光を背負いながらこう告げた。


「――……『魂で成す六天使の翼(アリアンデルス)』。神の使徒の秘跡に刻まれた、古代魔法よ」


 極光が抑えられた光景によって、アリアに起きた変化が周囲にも認知される。


 それは光を帯びた、六枚の魔力で編まれた白き翼。

 まるで絵画で魅せられる天使のような白き翼がアリアの背後に大きく展開して広がり、青色と白色が混じる光を放っていた。


 それは樹海の守護者(センチネル)達が称えた『神の使徒』。

 まさにその姿だった。


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