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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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我儘な望み


 『緑』の七大聖人(セブンスワン)である老騎士ログウェルと共に現れた最愛の女性カリーナと再会したウォーリスは、自らが果たそうとする世界の変革を止めるよう説得される。

 それを受け入れたウォーリスはその願いを果たす為に契約していた悪魔ヴェルフェゴールに、契約を破棄する事を告げた。


 その瞬間、ヴェルフェゴールはウォーリスの魂を得ようと内部に存在する精神体(からだ)で掴もうとする。

 しかし到達者であるウォーリスの魂を得る為には肉体に蓄積している膨大なエネルギーが邪魔であり、それを体外に放出し始めた。


 その放出現象の間近に立つエリク達は、徐々に崩壊していくウォーリスの身体を確認する。

 エリクはそれを見ながら、傍に立ちながら金色の長髪だけを揺らすアルトリアに問い掛けた。


「アリア、これはっ!?」


「……ウォーリスの奴、悪魔(ヴェルフェゴール)との契約を切ったわね」


「!」


悪魔(ヴェルフェゴール)の奴、アイツの魂を奪おうとしている。……悪魔との契約を破棄するということは、こういう代償(けっか)が伴うのよ」


「――……そんなっ、ウォーリス様っ!!」


「!」


 アルトリアの返答を聞いていたエリクだったが、その左腕で吹き飛ばぬように支えているカリーナが強く動揺しながら歩み出ようとする。

 しかしウォーリスから放たれる凄まじいエネルギーの突風によって再び押し戻され、エリクは再び左手でカリーナの背中を支えながら受け止めた。


 すると再び、エリクはアルトリアへ声を向ける。


「アリア、どうすればいいっ!?」


「……私達では、どうも出来ないわ」


「!」


「幸い、エネルギーは放出されてるだけ。アイツの身体から全て抜けきれば、この状況も(おさ)まるわ。……ただそれと同時に、ウォーリスは魂を奪い取られるけどね」


「君は、それでいいのか?」


本人(ウォーリス)が選んだ結果よ。……でも、この状況で何か出来る奴がいるとしたら、たった一人しかいないわ。……いえ、厳密には二人かしら」


「!」


 そう言いながら顔を横に向けるアルトリアに、エリクも応用に視線を追うように顔を振り向かせる。

 するとそこには、突風で赤髪を靡かせながらアルフレッドの話を聞いていた帝国皇子ユグナリスの姿が在った。


 そうして視線を向けられている事にも気付けないユグナリスは、同じようにアルフレッドからウォーリスが悪魔との契約を破棄して魂を奪われそうになっている事を知る。

 それを聞かされたユグナリスは、エネルギーの突風を受けながらも前に踏み出しながら口を開いた。


「――……こんなの駄目だ! ウォーリス殿の魂を、悪魔に渡すなんて……っ!!」


「おい、皇子っ!?」


「何する気だっ!?」


「俺の『生命の火(ほのお)』で、ウォーリス殿の身体にいる悪魔を殺しますっ!! そうすれば、魂を奪われないはず――……ッ!!」


 前に歩み出たユグナリスを止めるように、傍に立っていたドルフとスネイクが呼び止める。

 しかし彼等の制止を聞かないユグナリスは、ウォーリスの魂が悪魔によって奪われているのを阻止する為に腰に携えていた剣を引き抜きながら『生命の火(ほのお)』を宿した。


 しかし凄まじい量の生命力(オーラ)魔力(マナ)を受けた『生命の火』は、それに耐え切れない様子を見せながら吹き消される。

 それを見て驚きを浮かべたユグナリスだったが、それでも諦めずに『生命の火(ほのお)』を剣に灯そうとした。


 しかし幾度も吹き消されてしまう状況に焦りを浮かべると、その背後から様々な者達の声を向けられる。


「――……止めろ、ユグナリスっ!!」


「!?」


「奴がこうなるのは、言わば自業自得だ! それを無理に止める必要は無いっ!!」


「それに帝国の帝都(しゅと)を滅茶苦茶にして皇帝(ちちおや)を殺したのは、俺も含めてそこに居る悪魔野郎(ザルツヘルム)人形野郎(アルフレッド)だ! そいつ等に指示を飛ばしてたのが、野郎(ウォーリス)なんだぜっ!?」


「このまま生かしておくのは、危険過ぎる相手ですっ!!」


「確かに奴には、同情できる過去(ぶぶん)もある。だがここまでの事を行って来た男ならば、このまま消えてもらったほうがいい。それで、全てが終わるのだ」


 シルエスカを筆頭に、ドルフや(トモエ)、そしてゴズヴァールがそれぞれに声を向けてユグナリスの行動を止めようとする。

 過去の事件と今回の大規模な天変地異(できごと)を起こした者達、それを統率していた首謀者(ウォーリス)が自滅するのであれば、このまま事態を放置するのが得策である事を彼等なりに考えていた。


 しかしそうした声を聞いたユグナリスはその場で振り向きながら厳しい表情を浮かべ、声を向けた者達に対して言葉を返す。


「……そんな事、馬鹿な俺にも分かりますっ!!」


「!」


「でも、もし俺だったらっ!! ……俺も、愛する女性(リエスティア)の為に世界を変える必要があると思ったら。そして、その手段を知っていたら。……やっぱり、彼と同じ事をしてしまったと思うんですっ!!」


「!?」


「確かに俺の父上も、そして多くの帝国民(たみ)が彼等によって殺された。それは憎いし、とても許せない……。……でもそれ以上に、俺は彼を見捨てたくないっ!!」


 今までウォーリスがして来た事が最愛の女性(カリーナ)を守る為だと知ってしまったユグナリスは、彼が今まで抱き続けたであろう心情と自分自身の感情を重ねてしまう。

 それ故に見捨てる事が出来ないとはっきり告げるユグナリスの言葉に、それぞれの者達が僅かに言葉を詰まらせた。


 そんな彼等の中から、一人の人物がユグナリスに歩み寄る。

 それはユグナリスの師を務めている、『(みどり)』の七大聖人(セブンスワン)である老騎士ログウェルだった。


 すると歩み寄り傍で立ち止まったログウェルに、ユグナリスは僅かに強張った表情を見せながら声を零す。


「ロ、ログウェル……」


「――……お前さんがそうしたいのなら、そうするといい」


「!」


「お前さんの父親(ゴルディオス)も、その選択を責めはせんだろう。……呆れるとは、思うがのぉ」


「……ありがとうっ!!」


 自分の意見を認めて反対しない師匠(ログウェル)に、ユグナリスは青い瞳を輝かせながら感謝を伝える。

 すると改めてウォーリスの方へ振り向きながら、全身に纏わせている生命力(オーラ)を『生命の火』として発現させた。


 そして以前と同じように、赤い炎を纏わせた閃光となって押し寄せるエネルギーの突風を掻い潜ると、ユグナリスはウォーリスの傍まで辿り着く。

 更に『生命の火』を灯した剣の矛先を向け、赤く変化した瞳の視界から見えるウォーリスの内部に蠢く黒い影を発見した。


「この影を消せば――……グッ!?」


「!」


 黒い影が映る胸に『生命の火』を纏わせた矛先を突き立てようとしたユグナリスだったが、突如として膨大なエネルギーが結界の形となってウォーリスが覆われる。

 すると突き立てようとした剣が弾かれ、更にユグナリス自身も吹き飛ばすように更に強いエネルギーが放出された。


 しかし『生命の火』で飛翔しながら少し離れた位置で留まるユグナリスは、地面に着地しながら目を見開いて変化したウォーリスの状況を確認する。


「あのエネルギーが、俺の邪魔をした……!?」


『――……恐らく、悪魔の仕業だ』


「っ!?」 


『奴がウォーリスの魂を奪うのを邪魔しないように、放出されているエネルギーを操ってお前を妨害したんだ』


「えっ!? な、なんだこの声……!?」


 突如として身体の内側から響くような声を聞き、ユグナリスは困惑しながら周囲を見渡す。

 しかしその近くには誰も居らず、エネルギーの放出によって周囲の人々は視界から遮られており、ユグナリスは声の正体が分からずに動揺を浮かべていた。


 そんなユグナリスに対して、声の主は落ち着いた面持ちで話し掛ける。


『おい、落ち着け。……昔の俺は、こんなに落ち着きが無かったのか』


「だ、誰なんだ! いったい何処から……!?」


『俺は……。……いや、そんな事はいい。それより、俺の話を聞け』


「は、話……?」


『ウォーリスから放出されているエネルギーを利用して、悪魔は壁を張っている。お前の剣と炎だけでは、それを突破できない。もっと強力な攻撃で、奴のエネルギーを突破して悪魔を浄化する必要がある』


「……で、でも。俺にはこの剣以外に、武器が……」


『いや、ある。――……俺達の祖先、ルクソードが(のこ)してくれている武器が』


「!?」


 そう告げる声の主と同時に、ユグナリスの意思に関わらず身体から『生命の火』が放出される。

 すると『生命の火』からあるモノが取り出されるように出現し、地面に刺さりながらユグナリスの前に姿を見せた。


 それはセルジアスが持っていた赤い槍と、ケイルが持っていた赤い刀身の剣。

 その一つである赤槍に見覚えがあるユグナリスは、僅かに驚きを浮かべながら声を漏らした。


「これは、セルジアス従兄上(あにうえ)の槍……!? それに、こっちの剣は……?」


『どちらも、ルクソードが過去に使っていた四つの武器の一つだ。覚えているだろう?』


「……確かに、そういう話は聞いた事が。俺の剣も、『赤』の七大聖人(セブンスワン)だったルクソードという人が使っていた剣だとは聞いていたけど……」


『この三つの武器と、もう一つの武器を使えば、あのエネルギーの壁を打ち破れる』


「も、もう一つ? それは、何処に……?」


『お前の後ろに落ちてるだろ、よく見ろ』


「え――……っ!!」


 ユグナリスは内側から聞こえる声に従い、後ろを振り向く。

 するとそこには、ウォーリスと戦ったシルエスカが吹き飛ばされた際に落とした赤い短槍と長槍があった。


 正面(ウォーリス)ばかりを見ていたユグナリスは、自身の剣を地面へ突き刺しながら改めて後方(うしろ)に落ちている短槍と長槍を両手で拾う。

 そして剣と槍が刺さっている場所まで戻ると、両手で握っている槍を眺めながら困惑の声を零した。


「……こ、この武器を、どうやって使えば……?」


『それが難しい。俺もルクソードの武器を使いこなせるようになるまで、十年以上の修行が必要だった』


「えぇっ!?」


『だから、俺がお前に使い方を教える。ルクソードの武器を使いこなして、一度くらいは自分で我儘(のぞみ)を叶えてみろっ!!』


「……お前が誰なのか、よく分からないけど……。……それしかないなら、やってやるさっ!!」


 ユグナリスはやる気を見せながら立ち上がると、手に持っている短槍と長槍の柄を繋げながら一つの長槍にする。

 そして二つの赤い剣と赤い槍を地面へ突き刺し、ウォーリスに向き合いながら自分の我儘を叶えるべく内側(うち)から響く声に従った。 


 こうして悪魔に魂を奪われるウォーリスの自滅を望まないユグナリスは、内側(うち)から響く未来の自分(ユグナリス)に従い悪魔を討つ事を選ぶ。

 それは別の未来を辿った彼自身(ユグナリス)もまた、復讐の対象であるウォーリスに対して現在の自分自身(ユグナリス)と同じ想いを抱いている証明にもなっていた。


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