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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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断ち切れぬ願い


 到達者(エンドレス)としての能力(ちから)を失い欠けているウォーリスは、契約する悪魔ヴェルフェゴールの能力(ちから)を借り受ける。

 そして自らの肉体を媒介に悪魔(デビル)化したウォーリスは、同じように鬼神(フォウル)能力(ちから)を使うエリクとの勝負(たたかい)に決着を付けようとした。


 それに対抗するエリクは、自らが持つ力を全て使ってウォーリスに挑む。

 すると赤鬼(オーガ)化して纏わせていた鬼神(エンドレス)の力を全て黒い大剣に込め、見事にウォーリスを討ち取る事に成功した。


「――……はぁ……はぁ……っ」


 背中から倒れ顔を横に傾けるウォーリスを見下ろしたエリクは、自らの勝利を確信しながらも崩れるように地面へ膝を着ける。

 そして大剣を支えにしながら疲弊した息を荒々しく吐き出すと、そうした様子を上空から見ていたケイルが不可解な表情を浮かべながら隣に浮かぶアルトリアに聞いた。


「――……エリクの奴、いつの間に相手(ウォーリス)の死角に……!?」


「土属性の魔法で大岩(かべ)を出した時に、自分の身代わりとなる土塊(つち)も瞬時に作り出したのよ。土塊(それ)に闇属性の幻影魔法で自分の姿を瞬時に投影して、岩壁(かべ)が破壊されると同時に飛び散った破片に混ざるように大きな岩片(いわ)に化けて、ウォーリスの視界から外れて移動したのね」


「じゃあ、あの右手と大剣も……!?」


「その時に落ちてた場所まで回収に向かって、右手をすぐに繋げたんでしょうね。そしてウォーリスが大きく油断して動揺した一瞬の隙を突いた。……あの一瞬でウォーリスに勝つ為の手段を考えて実行できるなんて、流石はエリクだわ。私よりずっと、魔法を使った戦い方が上手い」


 魔法を上手く使った囮と奇襲を仕掛けたエリクに対して、アルトリアはそうした称賛を向ける。

 すると二人を取り込みながら浮遊させている球体状の結界を徐々に降下させ、エリク達がいる場所に降りようとした。


 それに気付いたエリクは、大剣を支えにしながら両足を立たせて上空(うえ)を見る。

 そして降下する二人の声が届く距離になった時、アルトリアはエリクに微笑みを向けながら言葉を向けた。


「――……ちゃんと勝てたわね、エリク」


「……君に教わった、魔法のおかげだ」


「違うわね。これは、貴方だからこそ掴めた勝利(もの)よ」  


「……そうか」


 互いに相手の事を称賛する声を向けると、エリクは素直に受け入れながら口元を微笑ませる。

 そんな二人のやり取りを隣で見ていたケイルは、僅かに複雑な表情を浮かべながらも首を横に振ってそれを振り払った。


 そしてアルトリアとケイルは地上へ足を着けながら、二人の周囲を覆っていた結界が解ける。

 すると傾き倒れようとする創造神(オリジン)の肉体をアルトリアは支えるように両腕で持つと、それを確認したケイルはエリクに歩み寄りながら話し掛けた。


「エリク、身体の傷は大丈夫なのか?」


「ああ」


「右手は? 無理矢理くっ()けたんだろ」


「……少しすれば、元に戻るとは思う。大丈夫だ」


「そうか。……ウォーリスは、()ったのか?」


「……」


 そう尋ねるケイルの言葉に呼応するように、アルトリアとエリクの視線を動かす。

 三人は同じ方向へ目を向け、そこに倒れているウォーリスの様子を確認した。


 悪魔(デビル)化し纏わせていた瘴気を完全に失ったウォーリスは、人間の姿に戻っている。

 しかしその髪色は黒色から白髪へ変化し、肌は生気を感じられない程に白く染まっていた。


 そうしたウォーリスの姿を見た三人は、ある人物の姿を重ねるように思い出す。

 それはルクソード皇国での戦いにおいて、神兵の心臓(コア)を取り除かれた後のランヴァルディア=フォン=ルクソードが絶命する寸前の姿だった。


 またエリクの与えた傷が左肩から腹部を深々と切り裂き、常人であれば死に達する致命傷となっている。

 傷口が治癒する様子も無く、そんな状態で生きているはずがないと思いながらも、ケイルは改めて二人に尋ねた。


「……本当に、死んでるのか? コイツ」


「死んだ、はずだが……」


「信仰を失って大幅に弱体化していたけれど、ウォーリスはまだ到達者(エンドレス)だった。同じ到達者(エンドレス)だった貴方(エリク)の攻撃は、間違いなく致命傷になったはずよ。……ケイル、この子を御願い」


「えっ」


 そう言いながら二人に歩み寄るアルトリアは、ケイルに創造神(オリジン)の肉体を傾けながら預ける。

 それを応じるように腕で抱えたケイルは、自らウォーリスに歩み寄るアルトリアに動揺の声を向けた。


「お、おい……!」


「大丈夫よ」


 ケイルの心配を他所に、アルトリアは物怖じする様子も無くウォーリスの傍まで歩み寄る。

 そして身を屈めながら片膝を地面に着くと、首筋の脈を確認するように右手の指を添えた。


 すると次の瞬間、横に傾いていたウォーリスの顔半分から覗き見える青い瞳が開かれる。

 そして首筋に添えられているアルトリアの右手へ、自分の右手を伸ばして掴み取った。


「!?」


「アリアッ!!」


 ウォーリスがまだ死んでおらず、更に近付いたアルトリアに危害を加えようとしていると咄嗟に察したエリクとケイルは、互いに武器(けん)の柄を強く握り締めながら構えようとする。

 しかしそんな二人に対して、アルトリアは左手を翳し向けながら制止した。


「いいのよ、二人とも」


「お前、なに言ってんだっ!?」


「大丈夫。……少し、コイツと話がしたいだけだから」


「……!!」


 落ち着いた様子でウォーリスの顔に視線を移すアルトリアに、ケイルは困惑した様子を更に強める。

 しかしアルトリアの言葉を聞いたエリクは、警戒を残しながらも二人の話に耳を傾ける事を選んだ。


 そうして静観する二人に呼応するように、ケイルも深い溜息を吐きながら構えを解く。

 すると右手を掴んだままのウォーリスに対して、アルトリアは顔を覗き込むように話し掛けた。


「アンタの負けよ、ウォーリス。……潔く、負けを認めなさい」


「……私は、まだ……っ」


「そう思ってるのは、アンタだけ。……アンタの身体は、既に限界を迎えてる。そのくらい、自分でも分かってるんでしょ?」


「……ッ」


循環機構(システム)の制御権を得る為にマナの実を食べて、その膨大なエネルギーを取り込んだのね。でも信仰を失って到達者(エンドレス)としての能力(ちから)も衰えれば、取り込んだ膨大なエネルギーに身体が耐えられない。……貴方は自分自身が取り込んだマナの実のエネルギーで、自壊しようとしている」


「……アルトリア。やはりお前は、創造神(オリジン)の知識を……記憶が、戻っているのか」


「!」


 状況を理解するように説くアルトリアに対して、ウォーリスもまた口にしていなかった疑問を問い掛ける。

 それと同様の疑問を抱いていたケイルは、アルトリアが口を開きながら伝える言葉に注目した。


「さぁ、どうかしら。……こういう知識()は、昔から知っていた気もするわね」


「……?」


「でも、昔じゃ分からなかった事もある。……例えば、アンタの気持ちとかね」


「……なに?」


「昔の私なら、自分を弱者なんて言う奴の言葉なんか理解できなかったし、しようとも思わなかった。でも、今は少しだけ分かる気もする。……アンタはただ、自分の大事なモノだけを抱えて、この世界から逃げたかったってことをね」


「……ッ」


「だからアンタが、それを(あわれ)まれたくない事も分かる。そんなアンタに私が言える事は、ただ一つだけ。……自分の負けを、認めなさい」


 落ち着きながらも口調の強い言葉でそう伝えるアルトリアに、ウォーリスは傾けていた顔を動かしながら正面を向く。

 そして青い両目を向けながら二人の視線が重なると、僅かに歯を食い縛っていたウォーリスが小さな息を吐き出しながら掴んでいたアルトリアの右手を離した。


 すると右手を地面へ再び戻し、ウォーリスは口を開く。


「……認めよう。……私の負けだ」


「そう」


「……だが、それでも……。……私は、彼女との……カリーナの約束を……叶えなければならない……っ!!」


「!」


 自らの敗北を認めたウォーリスだったが、それでも自分が叶えるべき願いの為に死に体の身体を動かし始める。

 そして半分に切れかけている上体を起こし、右腕を支えにしながら膝を立たせて起き上がろうとした。


 そうしたウォーリスの様子にアルトリアは驚きながらも後退り、ケイルとエリクは再び身構える。

 しかしそうした状況で周囲から数々の物音が発生すると、彼等の視線と意識は周りに向けられた。


「お、お前等……!」 


 その場に現れたのは、この聖域(ばしょ)に来ていた者達。

 

 帝国皇子ユグナリスや、特級傭兵のスネイクやドルフ。

 そして『青』の七大聖人(セブンスワン)と、青馬の背に倒れ乗る形で訪れたマギルス。

 更にケイルの師である武玄(ブゲン)とそれを支える(トモエ)、そして重傷だった身体を治しているシルエスカと、重傷のままゴズヴァールの左手で抱えられているエアハルトが姿を現したのだった。


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