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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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勝利の布石


 ウォーリスとエリクの決闘(たたかい)に乱入する形で現れたエアハルトは、瞬く間に一蹴されながら倒れる。

 しかし次に現れたゴズヴァールとシルエスカが現れ、ウォーリスと対峙しながら襲い掛かった。


 その中で真っ先にウォーリスへ攻撃を仕掛けたのは、元『赤』の七大聖人(セブンスワン)であるシルエスカ。

 自身の生命力(オーラ)魔力(マナ)の炎を取り込みながら『生命の火』を纏ったシルエスカは、右手に握り持つ長槍を突きながらウォーリスの喉元を狙った。


 しかしウォーリスは冷静にその槍先の射程を見切り、炎を纏った刃部分を避けるように前へ踏み込む。

 そして長剣を振り薙ぎながら長槍を叩き伏せ、シルエスカの姿勢を崩した。


「クッ!!」


 長剣(ウォーリス)に抑えられた長槍を動かせくなったシルエスカは、それでも左手に握る短槍を薙ぎながらウォーリスを斬ろうとする。

 しかし短槍を握る左腕に右の脚撃を叩き込んだウォーリスは、シルエスカの左腕(うで)を叩き折った。


「ぐあ……っ!!」


「やはり、七大聖人(セブンスワン)()てにしなかったのは正解だったな」


「が――……っ!!」


 僅かな時間でシルエスカの実力を見切ったウォーリスは、元七大聖人(セブンスワン)に対する皮肉を呟く。

 そして蹴り込んだ右足でシルエスカの腹部を強打し、長槍と短槍を手放させながら凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


 二秒にも満たない時間でシルエスカを完封したウォーリスに対して、僅かに遅れるゴズヴァールが右腕を振るう。

 三メートルに届く巨体を生かした剛腕はウォーリスを捉え、その顔面に凄まじい炸裂音を鳴らしながら強打を浴びせた。


 しかしエアハルトの時と同じように、ゴズヴァールは自身の右拳を通じて悪寒を全身に走らせる。

 すると強打を浴びたはずのウォーリスは僅かに地面を削りながら微動しただけで、無傷の顔に拳を押し付けられながら呆れの言葉を口にした。


「名高い魔人の実力も、この程度か」


「!!」


 そう言いながら突き込まれた右拳に、ウォーリスは自身の左手を置く。

 するとゴズヴァールの右拳の上から自身の左手を握り重ね、逆にその拳を押し返し始めた。


 剛腕勝負に持ち込まれたゴズヴァールは、全体重を左足の踏み込みに乗せながら拳を突き返そうとする。

 しかしその試みも虚しく、腕を真っ直ぐにしながら伸ばすウォーリスの左手や身体を押し退ける事すら出来なかった。


 逆にゴズヴァールの踏み込んでいる地面から徐々に足が後方へ後退(あとずさ)り始め、ウォーリスに押されていく。

 圧倒的な体格と膂力を誇る牛鬼族(ミノス)すら諸共しない到達者(エンドレス)能力(ちから)を直に感じ取り、ゴズヴァールは歯を食い縛りながら体毛の下に冷や汗を溢れさせていた。


「ク……ここまでとは……ッ!!」


「それが貴様の限界か。――……ならば、この場から消えろ」


「ッ!!」


 ウォーリスは踏み込みを強くしながら左拳を素早く突き放ち、ゴズヴァールの巨体を押し退ける。

 その力が巨体の右拳すら折り砕き、宙に浮かせながら態勢を崩させた。


 そして軽い動作で跳躍したウォーリスは、左拳を更に強く握り締める。

 すると真正面に居るゴズヴァールの鳩尾へ左拳を叩き込み、内部の骨と内臓を潰しながら吹き飛ばした。


 ゴズヴァールは口から大量の血を吐き出しながら木々に激突し、地面を大きく抉る形で停止する。

 しかしエアハルトと同様に意識を失い、魔人化が解かれて人間形態に戻りながら倒れ伏した。


 人間大陸で指折りの実力者として数えられるはずのゴズヴァールとシルエスカを、ウォーリスは十秒にも満たない時間で打ち倒す。

 二人は吹き飛ばされた先で完全に意識を失い、僅かに息を残しながらも痙攣のみで動く事も叶わないようだった。


 そうした惨状を上空から見ていたケイルは、歯を食い縛りながら腕を組んで見下ろすアルトリアに焦りを含んだ声を向ける。


「――……おいっ、アイツ等やられちまったぞ……!!」


「そうね」


「そうね……!? このままじゃ、エリクが殺されるんだぞっ!! 何を呑気に――……」


「じゃあ、次は貴方が行く?」


「なっ!?」


「まぁ、貴方が行っても三人の二の舞なのは目に見えてるわ。……今のウォーリスを倒せるのは、同じ到達者(エンドレス)しかいない」


「だったら、創造神(オリジン)権能(ちから)が使えてるお前がっ!!」


「だから言ってるでしょ、私はこの戦いを見届けるって。――……それに、エリクは諦めてないもの」


「……!!」


 アルトリアが創造神(オリジン)権能(ちから)を扱えている事に気付いているケイルは、窮地のエリクを救うように(げき)を飛ばす。

 しかしアルトリアはそれを拒否し、自身はこの戦いの行方を見届ける役目に徹している事を強調した。


 更にアルトリアの視線は、エリクから微動せずに見続けている。

 それに応じた言葉を聞いたケイルは、再びエリクを見ながら目を見開いた。


 三人がウォーリスと戦っていた時間、エリクは必死に穴の開けられた左腕を支えにしながら上体を起こす。

 そして無事な左足を軸にして立ち上がり、そのまま邪魔者(さんにん)を排除したウォーリスと向き合っていた。


「――……はぁ……。……はぁ……!!」


「……まだ立つのか、傭兵エリク」


 大きな複数の傷と大量の血液を流しながらも立ち上がったエリクに、ウォーリスは振り向きながら訝し気な視線を向ける。

 そして乱れている息を整えようと大きく息を吐き出しながら吸っていたエリクは、ウォーリスを睨みながら言葉を返した。


「俺は、まだ負けていない……」


「その状態でその言葉が出せるのは、驚嘆に値する。……だが、お前に勝ち目は無い」


「……そうか?」


「!」


「少しだけ、アリアが言っていた事が分かった」


「……何を言っている?」


「俺は、お前に勝てる」 


 窮地の状況にも関わらず不敵な笑みを浮かべるエリクに対して、ウォーリスは不可解な表情を強める。

 そして右手に握り持つ長剣を振り翳し、怒気を含んだ剣先と声を向けた。


「戯言はもう十分だ。――……これで終わりにするっ!!」


 全身から生命力(オーラ)魔力(マナ)を混ぜ纏った闘気を放つウォーリスは、自身の長剣にそれ等を纏わせながら迫る。

 しかしその動きを目で追うエリクは右足を踏み込ませ、同じように鬼神の魔力(マナ)生命力(オーラ)を左腕を振るいながら長剣の矛先を迎撃した。


 二人の衝突が凄まじい衝撃と突風を生み出し、その周囲に夥しい余波を生み出す。

 しかし次の瞬間、ウォーリスの握り突く長剣がエリクの拳に激突しながら砕け散った。


 ウォーリスはその結果に目を見開き、思わず思考と肉体が硬直する。


「!?」


「俺は、勝てるっ!!」


「な――……ガハッ!!」


 魔鋼(マナメタル)で出来たウォーリスの長剣を砕き折ったエリクは、そのまま更に踏み込んで突き込んだ左拳を進める。

 そしてウォーリスの顔面を射程距離に捉え、その右顔面を凄まじい勢いで殴り飛ばした。


 その衝撃と威力はウォーリスの首を大きく仰け反らせながら身体ごと上昇気味に吹き飛ばし、木々を突き抜けさせる。

 するとウォーリスの脳裏に浮かぶのは、右顔面から押し寄せる痛みよりも、その拳を放ったエリク本人のことだった。


「――…………既に()ていの奴が、何故これ程の力を――……ッ!!」


 ウォーリスは口から血を零しながら疑問を呟き、激突した木の幹で停止しながら地面へ落ちる。

 そして痛みを堪えながら身体を起こし、エリクが居る方向へ視線を向けた。


 すると右足を引きずりながらも歩み寄って来るエリクを確認し、再び疑問を強くさせる。


「……何故、あれほど消耗して歩ける……。……なにっ!?」


 近付いて来るエリクを見ていたウォーリスは、相手の身体に起きている異変に気付く。

 それはエリクの身体や両腕と右足に及んでいる大小の傷が治癒しながら塞がり、流血が止まっている様子だった。


 到達者(エンドレス)同士で負わせた傷にも関わらず、エリクの傷だけが治癒されている状況にウォーリスは驚愕を浮かべる。

 そして歩み寄るエリクが、ウォーリスに聞こえる声で伝えた。


「お前は、俺に勝てない」


「……何故だ、何故……奴の傷だけが……!?」


「お前には、俺を倒す能力(ちから)は無い」


「……倒す能力(ちから)が、無い……。……まさかっ!?」


 エリクの言葉を聞いて初めて自分が陥っている状況に気付いたウォーリスは、自身の両腕と全身に流れ出る力を感じる。

 するとそこには充実しているはずのモノが足りていない事に気付き、上空に居るアルトリアを睨みながら憎々しい声を向けた。


「アルトリアッ!! まさか貴様は、これを……!!」


「――……今頃になって気付いても遅いのよ。(アリア)が何の準備もしてないわけがないじゃない」


「貴様は、私の能力(ちから)を……信仰を奪ったのかっ!!」


 ウォーリスはそう叫び、自分自身に及んでいる変化に気付く。

 それを嘲笑うようなアルトリアの様子に、ケイルは意味が分からず呆然とした様子を浮かべていた。


 こうして邪魔者を排除したウォーリスだったが、再び立ち上がったエリクによって勝利を阻まれる。

 それはこの事態に陥るまでに様々な工作をしていた、未来の記憶を持つアリアの仕掛けが実った結果だった。


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