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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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望んだ未来


 世界破壊の計画が実行される中、創造神(オリジン)を制御する為に肉体(からだ)から溢れる憎悪の瘴気(どろ)を消す必要がある。

 それを話し自らが根幹であると明かす『黒』は、精神世界(そのば)に居る者達に自身の討伐を提案した。


 それを聞かされ覚悟するケイルや鬼神フォウルに対して、未来のユグナリスは反論の言葉を封じられる形で話が進もうとする。

 しかしその話を止めたのは、アリアによって精神体(からだ)を修復されたアルトリアだった。


 未来のユグナリスに助言する形で参加したアルトリアは、瘴気が溢れ出る場所(あな)精神体(からだ)を向けながら『(クロエ)』に対して言葉を向けた。


「クロエ。アンタは自分が消えれば、今起きている事態が全て解決すると本当に思ってるの?」


『……』


「やっぱり思ってないみたいね。……例えアンタがこの世から消えても、創造神(オリジン)の魂達と肉体は世界に残る。そうなれば結局、次の大きな事態を巻き起こす。そう考えてはいるんでしょ?」


『……そうですね』


「なのにアンタは、その後始末も私達に……いや、下手をしたら次の世代にやらせようってわけ? それは随分と、無責任にも程があるわね」


 アルトリアはそうした主張をし、『黒』が提案する策に対して批判を述べる。

 

 創造神(オリジン)の瘴気となっている『(そんざい)』が消えたとしても、循環機構(システム)によって創造神(オリジン)の肉体や魂は現世で転生を繰り返す。

 新たな創造神(オリジン)の肉体が世界に作り出され、アルトリア達と同じように魂は転生者(うまれかわり)となってこの世に存在し続けるのだ。


 そうなれば創造神(オリジン)の肉体や魂達を基点として、新たな異変を起こしかねない。

 そうなった時に対応せざるを得ないのは、その異変が起きた時代の者達になってしまう。


 アルトリアはそれを問題視し、創造神(オリジン)という存在を管理していた『黒』の排除が世界の危険である事を後ろの三名にも伝える。

 しかしそうした危惧を咎めるアルトリアに対して、『黒』は自らの提案を推し続けた。


『それでも今、世界の破壊を食い止めるにはその手段(ほうほう)しかありません。創造神(このからだ)から憎悪の瘴気(どろ)を消滅させるには、蓄積され続けている(わたし)を消すしかない』


「そう、私が聞きたいのはその部分よ。蓄積って言うけど、具体的にアンタはこの肉体でどういう役割を果たしてるの?」


『私はこの肉体に蓄積した記憶であり、創造神(オリジン)が抱いた感情そのものです。そして転生し続ける肉体と(わたし)の魂を守る受け皿となる存在です』


「なるほどね。でもその割には、この瘴気(どろ)(まみ)れの中で随分と正気(まとも)なのはどういうわけ?」


『それは、(わたし)の魂と創造神(このからだ)が常に別の意識として存在していたからです』


「それって、『黒』やリエスティアみたいな精神が肉体に蓄積している瘴気と異なる意識を保って存在していたから。そういうこと?」


『はい』


「そう。じゃあ、次の質問よ。さっきの話が本当なら、創造神(オリジン)の肉体に宿った『黒』やリエスティアの意識が瘴気(どろ)に飲まれなかったのは、アンタが守っていたから。そうよね?」


『そうです』


「私の精神がこの肉体(からだ)へ放り込まれた時も、この瘴気に汚染されなかったのはアンタが守ったからね」


『その通りですね』

 

「ありがとう、これで私の疑問ははっきりしたわ。じゃあ、これが最後の質問。――……どうして『黒』やリエスティアの精神は、この肉体を扱えていたの?」


「……!」


 幾つかの質問を重ね続けたアルトリアは、自分が抱いていた微かな疑問を確かな言葉として問い掛ける。

 その意味を理解できないケイルやフォウルなどは不可解な表情を浮かべていたが、リエスティアの事を知っているユグナリスは何かに気付くように表情を驚愕させた。


 そして『黒』は、その答えを言い淀む。


『……それは……』


創造神(オリジン)の魂ではない『黒』やリエスティアは、その能力(ちから)を使えなくても肉体は操作できていた。つまり限定的だけれど、創造神(オリジン)の肉体を通常の精神(たましい)でも扱う事が出来る。違う?」


『……』


「だったら、話は簡単よね。――……瘴気を全て取り払わなくても、創造神(オリジン)肉体(からだ)は制御できる。そしてウォーリス達がやったように、肉体の外部から転生者(うまれかわり)が接触する。そうすれば、創造神(オリジン)の命令も取り消せるんじゃない?」


「……そうか、その手が……!」


 アルトリアは自身の推論を述べ、『黒』を消さずに創造神(オリジン)を制御して世界破壊の命令を取り消す案を伝える。

 それを聞いていた者達の中で、それ等の事情を知る未来のユグナリスが表情を明るくさせながら希望を見出した。


 しかしそれを否定するように、背後に立つ鬼神フォウルが悪態を漏らす。


「ケッ。そう上手くいきゃいいがな」


「な、何を言って……!」


「それが最初から出来てりゃ、天界(ここ)に来る間に嬢ちゃんが創造神(オリジン)能力(ちから)も制御できたはずだろ。違うか?」


「……!」


「だが、実際はどうだ? この嬢ちゃんは創造神(オリジン)能力(ちから)も碌に扱えずに、良い様にウォーリスの野郎に利用されただけになった。……そんな嬢ちゃんの提案(あん)が上手くいくとは、俺は思わん」


「……確かにな」


「ふ、二人とも……!」


 鬼神フォウルの言葉に賛同するように、ケイルは頷きながらアルトリアの提案が成功しない可能性を導き出す。

 未来のユグナリスはそうした言葉に反論できず、再び口を閉じざるを得なかった。


 しかしそんな二人に対して、今度はアルトリアが代わるように言葉を向ける。


「安心しなさい。その点は大丈夫だから」


「大丈夫って、何がだよ?」


創造神(オリジン)能力(ちから)よ。ウォーリスの奴に好き勝手されてた時には、確かに制御できなかったけど。……今はそうでもないわ」


「えっ」


『……それは、駄目です。アルトリア』


「!」


 自信有り気にそうした言葉を見せるアルトリアに対して、ケイルは驚きの声を浮かべる。

 しかし逆に不安の強い声色でそれを止めるのは、周囲から響く『黒』の声だった。


 それを聞いた時、アルトリアはその言葉の真意を『黒』に問い掛ける。


「何がダメなのよ?」


『……その未来は、(わたし)も視ました。でもそれは、失敗してしまう』


「!」


『貴方は創造神(オリジン)能力(ちから)を制御できず、下界(ミデン)の破壊は止められない。そうなった後、貴方達は……』


「絶望するって言いたいわけ?」


『……はい』


「そう、アンタはそういう未来を視たわけね。――……でもアンタが視たのは、自分が望んだ未来じゃないでしょ?」


『……え?』


 思わぬ言葉を向けるアルトリアに、『黒』は僅かに動揺した声色を浮かべる。

 それを察して口元を微笑ませたアルトリアは、更なる強気の態度を見せた。


「アンタは事ある毎に、未来が未来がって言ってるみたいだけど。それは勝手にアンタが視てる……いや、創造神(オリジン)能力(ちから)で視せられている未来でしょ?」


『……!』


「前の(クロエ)も言ってたわ。アンタの未来視は、視えてしまう未来(モノ)だってね。……でもそれは、結局のところ(アンタ)達が視せられている未来に振り回されてるだけでしょ?」


『……でも、未来は……未来は、定められた道にしか変える事は出来ない……。……今までも、ずっとそうだったように……』


「なるほど。それこそアンタがこの肉体で絶望しながらも、正気を保ってられていた理由ってわけね」


『!』


「何かが滅んでいく未来しか視えない。それがアンタに苦痛を与え、この肉体に溢れる瘴気の根源になってるわけ。――……だったら、アンタにも教えてあげるわ。ただ決められた未来を歩むのではなく、自分で作る『未来』があることをね」


『……まさか、貴方は……!』


 アルトリアは鋭くも眩い青い瞳を向けながら、『黒』に対して告げる。

 それと同時に僅かにアルトリアの青い瞳が虹のような輝きを宿した事に、『黒』だけが気付いた。


 するとその場で振り返ったアルトリアは、後方(うしろ)に居た三名に対して言葉を向ける。


「アンタ達にも、手伝ってもらう事があるわ。付き合ってもらうわよ」


「……上手く行くのか?」


「上手く行くとか行かないとか、そんな話じゃないわよ。やる気が有るのか無いのか、それだけよ」


「……まったく、お前らしいぜ。いいさ、付き合ってやるよ。最後までな」


「ありがと、ケイル」


「!」


 アルトリアの言葉を聞いたケイルは、それに応じる答えを返す。

 するとアルトリアから返される笑顔と言葉に、消えたアリアの面影が重なった事に驚きを浮かべた。


 そうして顔を別の方向へ向けたアルトリアは、今度はフォウルへ呼び掛ける。


「鬼神フォウル。アンタはどうする? 無意味な『(やつ)』を殺して問題を先送りにするか、それともアンタを含んだ因果を全て決着させるか。どっちがいい?」


「……嬢ちゃん。お前、何が視えてる?」


「さぁね。でもアンタがここで協力してくれるなら、アンタの未練も晴れる時が来るかもしれないわよ」


「俺の未練だと? 知った風な口を聞く」


「じゃあどうする? 手伝ってくれないなら、さっさとその門から戻ってくれる方が助かるんだけど」


 そう言いながらアリアが築いた魂の門を指差すアルトリアに、フォウルは睨むような表情を見せる。

 暫しの沈黙が互いの間に起きながらも、それを先に破ったのは溜息交じりに返答したフォウルだった。


「……ハァ。分かった、どうせ今戻っても暇だしな。やってやるよ」


「助かるわ」


 短くもそう返したフォウルの言葉に、アリアは短く感謝を伝える。

 それを聞き届けた後、今度は未来のユグナリスへアルトリアは顔を向けた。


「さぁ。馬鹿なアンタに出来なかった事を、してやったわよ」


「……アルトリア。感謝する」


「別に、アンタに感謝されても嬉しくないわ。――……さっさとこんな事、終わらせるわよ」


「ああ!」


 約束を守ったアルトリアは、『黒』を抹消し世界を救う策を見事に撤回させる。

 そしてその策に賛同していた二名を見事に説き伏せると、自らの思い描く未来の為に動き出した。


 こうしてアルトリアの帰還によって、新たな未来の道筋が作り出される。

 それは『黒』が視る絶望の未来とは異なる、希望(べつ)の未来だった。


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