創造神の魂達
創造神の肉体に介在する『黒』の集合意識と言葉を交えるアリアは、実行されている世界破壊の計画を止める手立てを聞く。
それは分け隔てられ転生する創造神の生まれ変わり、その魂の欠片となる七人の内、四人の魂を一つの肉体に集めて計画を止めるよう循環機構に命じる事だった。
すると『黒』に自分を含まない残り三名の人物を聞いたアリアは、思わず驚愕を浮かべる。
それから時間は僅かに遡り、創造神の精神内部で溢れ出る瘴気の場所へと視点は移った。
「――……クソッ、まだなのか! アルトリアの奴……っ!!」
表層まで瘴気が流出し再び創造神が破壊衝動で暴走しないよう努めていた未来のユグナリスは、飛び込んだアリアを待ちながら瘴気を焼き払い続けている。
そうして僅かに焦りの言葉を浮かべるユグナリスだったが、瘴気の中から飛び出す一つの白い光を青い瞳に映した。
「アルトリアッ!?」
「――……チッ!!」
瘴気の中から飛び出したのが瘴気を身に纏った悪魔姿のアリアであり、その腕に抱えられているのが薄い光の膜に覆われたアルトリアだと気付く。
その二人に対して名前を呼んだ未来のユグナリスに対して、アリアは苛立ちの舌打ちを鳴らしながらそちらに向かって悪魔の翼を羽ばたかせた。
そして瘴気を抑え囲む『生命の火』の向こう側へ飛翔し辿り着いたアリアは、駆け寄ろうとする未来のユグナリスに怒鳴り叫ぶ。
「アンタはまだ、瘴気を抑えてなさいっ!!」
「なっ!?」
「今の私を置いて行くけど、変なことするんじゃないわよっ!! いいわねっ!?」
「ど、どういうことなんだっ!? 少しは説明しろよっ!!」
「うるさいっ!!」
「……何なんだよ、いったい……!!」
理由を聞こうとした未来のユグナリスに対して、アリアは怒鳴り返しながら精神体を真上へ飛翔させる。
それを追おうかと僅かに悩んだ未来のユグナリスだったが、精神の核となっていたアルトリアの精神体を追うように溢れ出る瘴気の勢いを留める為に、再び『生命の火』と聖剣を振るい始めた。
そんな未来のユグナリスに嫌悪の感情を向けていたアリアは、真上に飛翔しながらこうした言葉を漏らす。
「――……まさか、アイツと私が元は同じ魂の生まれ変わりだったなんて……。……そんなの、死んでも知られたくないのよ……っ!!」
アリアはそうした呟きを漏らし、自らの精神体を創造神の精神世界から脱出させようとする。
そんな彼女の脳裏には、『黒』と交えた会話の一部が思い出されていた。
『――……創造神の生まれ変わり。その魂の欠片である一人目は、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。正確に言えば、そちらで眠ってる彼女だね』
『それは分かってるわ。それで、二人目は誰なのよ?』
『ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュ』
『……は?』
『黒』が明かす創造神の生まれ変わりの名前に、最初はアリアが呆気を含んだ表情と声を漏らす。
すると『黒』は口にした名が間違え出ない事を伝えた上で、それが彼女の最も知る相手である事を聞かせた。
『だから、ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュ。貴方の幼馴染で、ガルミッシュ帝国の皇子様』
『……いやいや、待ちなさいよ。創造神って女なんでしょ? ユグナリスは男じゃないのよ』
『転生体については、肉体以外の性別を限定するような条件は無いの。つまり男でも女でも、分裂した創造神の魂が転生する事があるんだよ』
『……百歩譲ってそれはいいわ。でも、あり得ないわよ。それがユグナリスだなんて』
『どうして?』
『だって、私とあの馬鹿皇子は、全く似てないじゃないのよっ!!』
ユグナリスが自分と同じ創造神の魂を起源とした生まれ変わりだと知り、アリアは強く反発し否定する。
それを諭すように、『黒』は冷静な声色と言葉で話を続けた。
『転生する魂の欠片達は、それぞれに特色の強い感情が魂の起点となるようになったの。だから元は同じ魂でも、性格はかなり違うようになってしまうんだよ』
『どういうことよ、それ』
『そうだね。簡単に言えば……アルトリア。君は多分、創造神の貪欲的な部分の感情……つまり【強欲】を基点にしているんだと思う』
『!?』
『そしてユグナリス。彼は創造神の愛欲的な部分の感情……【色欲】を基点にしてるんじゃないかな』
『……人間の感情、罪と呼ばれている大罪のこと?』
『そう。そして黒は、創造神が死を望み全てを無に帰す為の感情……【無知】を継いだ。ただ、黒は創造神の魂とは別の形で誕生した意識だから、七つの中には数えられないけどね』
『あっ、そう。……って言うか、本気なの? 私とユグナリスが、元は同じ魂の生まれ変わり……!?』
落ち着き払った様子で語る『黒』の言葉に、アリアは納得を浮かべながらも動揺した面持ちを再び浮かべる。
すると少し考えるように沈黙した『黒』が、ある話を行った。
『実は、七人の創造神の生まれ変わり達には、ある特徴があるの』
『特徴?』
『それはね、御互いに強く嫌い合うんだよ』
『……はぁっ!? 元は、同じ魂なのにっ!?』
『私も黒として長年の経験を蓄積させた結果、導いた結論ではあるんだけど。創造神の魂を持つ生まれ変わり達は、高確率で遭遇する場合があるの。すると不仲になったり、果ては酷い殺し合いをし始めたりするんだよ』
『……なんでよ?』
『多分だけど、元となっている創造神の魂が自己否定をしている結果だと思う。創造神は自分自身を否定した末に、死を望んだ。でも生かされてしまった結果、自分を否定するように同じ転生体を嫌悪するんじゃないかと、黒は考えている』
『……じゃあ、私がユグナリスを嫌ってるのは……』
『君達が嫌い合うようになった原因は、確かな理由があると思う。でも根本的な部分で、君達は魂が拒絶し合っているんだよ。だから小さな出来事が原因でも、御互い関係の溝は深くなってしまっているんじゃないかな』
『……聞きたくなかったわ。その話だけは……』
アリアは自身が嫌悪し続けたユグナリスが、同じ創造神の魂によって生じた転生者の一人だと聞かされる。
それを知らされると酷く陰鬱な表情を浮かべながら過去から未来におけるユグナリスとの争いを思い出し、『黒』の話が自分達に当て嵌まっている事に気付いた。
そんなアリアに対して、『黒』は新たな事実を教える。
『ユグナリス。彼が黒が用意した二人目の転生者。――……貴方も、さっきの話で気付いたんじゃないかな?』
『……まさか、三人目は……』
『創造神の転生者達は、良くも悪くも惹かれ合ってしまうから。……もし彼女を連れて来るなら、理想郷からの目覚めが必要になるね』
『……ッ』
そう伝えた『黒』の言葉を思い出すアリアは、右手に生み出した魔力の光で真っ暗な精神世界を切り開く。
そして自らの意思で創造神の精神世界から脱し、触れさせていた死体の自分へ精神を戻した。
すると冷たい身体で青い瞳を見開きながら、現実の状況を確認する。
そこで押し寄せて来る『神兵』達と対峙しているエリクの背中を発見した後、その視線を自身の隣で横になっている人物に注ぎながら引き気味の顔で呟いた。
「まさか、三人目が貴方なんてね。――……ケイル」
「――……」
理想郷に飲まれた後から意識を戻していないケイルに向けて、アリアはそうした言葉を向ける。
それはアリアの人生において、幼馴染のユグナリス以外に明確に嫌悪と矛を向け合った間柄である、仲間のケイルだった。




