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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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世界の変革者


 創造神(オリジン)の精神世界において、その中心部となる深層部分にアリアは辿り着く。

 そこで精神体である現在の自分(アルトリア)を発見するも、光の膜に覆われ保護されているような状況に第三者の介入を察した。


 するとそこに響き届いたのは、今まで彼女達(アルトリア)に語り掛けて来た謎の女性らしき声。

 彼女は自身を『最初の(くろ)』だと明かし、自身が死を望んだ創造神(オリジン)から生まれた人格の一つである事を伝えた。


 そうした存在が自分達に介入している事を知ったアリアは、驚愕の表情を浮かべる。

 しかし油断を見せぬ瞳と態度は、自身に語り掛けて来る『黒(そんざい)』に再び問い掛けさせた。


「――……創造神(オリジン)から生まれた人格って……どういうことよ? 創造神(オリジン)は、二重人格だったって言うの?」


『そうだね。私は、創造神(かのじょ)の絶望から生まれた人格そんざいだから』


「絶望から生まれた……!?」


 アリアの問い掛けを肯定する『黒』は、そうした言葉を返す。

 それに対して再び驚きを浮かべたアリアに、『黒』は自身の存在が発生した理由について明かし始めた。


創造神(かのじょ)は、私が生まれる前から多くの星々の宇宙(そら)を渡り、億を超える年月を生き続けた存在。……到達者(エンドレス)だった』


「……!」


創造神(かのじょ)は自分の故郷(ほし)を失い、自分達の故郷と同じように宇宙(そら)で滅びゆく者達を集めた。……そうすることで、彼等の種族(しゅ)を生き永らえさせていた』


「それが、人間や魔族……?」


『そう。そして彼等を集め育てたのが、貴方達が天界(エデン)と呼ぶ人工惑星(ばしょ)。……でも自分とは異なる、定命(じょうみょう)の彼等を見守り続ける事に苦悩した創造神(かのじょ)は、彼等の中から同じ到達者(エンドレス)を作り出した』


「……八つの属性を冠する到達者(エンドレス)達のことね」


『そう。でもその中には、創造神(かのじょ)自身も含まれている。だから創造神(かのじょ)を含めて、八人の到達者(エンドレス)天界(エデン)で一緒に住み暮らしていた』


「要するに、自分と同じ到達者(なかま)を作って長い生涯の孤独を紛らわしていたわけね。……それで、どうして創造神(オリジン)は絶望したの?」


創造神(かのじょ)の世界が、何も変わらなかったから』


「!」


 淀みの無い言葉で語る『黒』に、アリアは僅かな動揺を浮かべて瞳を見開く。

 すると『黒』はその動揺が収まるのを待たず、創造神(オリジン)が絶望に堕ちていく過程を簡潔に伝えた。


創造神(かのじょ)はずっと望んでいた。自分自身の滅びを』


「なんですって……!?」


『自分の故郷を失くして、大事な人々も亡くして。それでも到達者(エンドレス)になってしまった創造神(かのじょ)は、生き続けるしかなかった。……だから彼女は、生きる為の理由を求めた』


「……それが、滅びようとした種族の救済?」


『そう。そして同じ到達者(なかま)を作ることで、創造神(かのじょ)は自分が生き永らえる理由にしようとした。……でも、それも失敗だった』


「失敗……?」


到達者(なかま)創造神(かのじょ)を慕い、そして彼等を崇拝する者達も創造神(かのじょ)を敬った。……でもそれは、決して創造神(かのじょ)の状況を変えるようなモノではなかった』


「……!」


『何も変わらない日常。どれだけ蓄積させた知識や技術も、創造神(かのじょ)にとっては当然の存在。……創造神(かのじょ)にとって自分の創り出した世界は、自分を何も変えてくれなかった』


「……だから、創造神(オリジン)は絶望したって言うこと……!?」


『そうだね。……その結果、創造神(かのじょ)は自分の死を望んだ。でも創造神(かのじょ)は、自分自身を殺せなかった』


「!?」


『自分の身体を抉っても再生し、頭を砕いても修復してしまう。……創造神(かのじょ)を慕い信仰する到達者(なかま)や人々がいる限り、創造神(かのじょ)は自分で死ぬ事が出来なくなっていた。……だから、ある出来事を起こした』


「……まさか……!?」


 『黒』の語る言葉が進むと同時に、瘴気に包まれた周囲にある投影(ビジョン)が浮かび上がる。

 それが創造神(オリジン)の肉体に刻まれた絶望の記憶である事を察したアリアは、それを見ながら驚愕の瞳を向けた。


 そこに映し出されていたのは、天界(エデン)と思しき大陸と、その周囲に浮遊する自然を持った巨大な大陸達。

 そして青い空に覆われていた天界(エデン)の景色が突如として赤に染まり、浮遊していた大陸が崩れ、その先に浮かんだ時空間の穴に落下していく光景が見えた。


 更に落下していく大陸の地表には、多種多様な人間や魔族の姿が窺える。

 それを見て創造神(オリジン)が何をしたのか理解したアリアは、眉を顰めながら呟いた。


「……これが、最初の天変地異(カタストロフィ)……!?」


創造神(かのじょ)は自分が死ぬ為に、自分へ向けられる信仰を失くそうとした』


「自分を崇拝する人達を、皆殺しにしようとしたの……!?」


『そう。……でも、そうはならなかった』


「!」


創造神(かのじょ)下界(ミデン)と呼ばれる隣接した人工惑星(ほし)に、彼等を落とした。でも七人の到達者(なかま)や生き残った人々は、その下界(ミデン)で生き永らえながら独自の繁栄を続けた』


「……それが、私達の世界……」


『そう。……でも生き残った人達は、長い年月を経て創造神(オリジン)の事を忘れていった。そして到達者(なかま)達も、創造神(かのじょ)の真意が分からなくて次第に意思を分裂させていった。……その結果、人間や魔族が信仰する到達者(エンドレス)同士で領域が別けられ、獣達は知性を失い、精神生命体(アストラル)は肉体を持つ者達から疎まれ始め、各種族で争いが生じ始めた』


「……ッ」


創造神(かのじょ)は信仰を失い、能力(ちから)の衰えを感じた。そして信仰が絶えた数百万年前に、彼女は自らの死を遂げた』


「……自分の自殺を、成し遂げたって事ね。……でも、ならどうして……創造神(オリジン)は今も肉体や魂が……!?」


 創造神(オリジン)が自殺する仮定で、自分達の世界が生まれた事をアリアは微妙な面持ちの中で知る。

 しかし矛盾するように現存している創造神(オリジン)の魂や肉体について、強い疑問を抱きながら問い掛けた。


 すると『黒』はその疑問に答えるように、優し気な口調で語り掛ける。


創造神(かのじょ)は数多の知識と技術を生み出し、それを繁栄させ続けた。……でもその起点に存在するのは、常に自分自身の存在だった』


「自分自身の……!?」


輪廻(りんね)と呼ばれる循環機構(システム)も、その一つ。現世と輪廻を繋ぐ中継地点として作り出した八本のマナの()は、創造神(かのじょ)の肉体から抽出した種子(たね)を用いて作り出されていた』


「な……!?」


『言わばマナの()は、創造神(かのじょ)の血を継ぐ子供達。そして子供が母親を慕うように、マナの樹は循環させる輪廻の機構(システム)で死んでしまった創造神(ははおや)の魂を保存し、人々の遺伝子に植え付けられた創造神(ははおや)の因子を使って、創造神(ははおや)と同じ存在を作り続けた』


「まさか、それが……!?」


『それが【黒】と呼ばれる存在であり、私の始まり。――……創造神(かのじょ)は自分の死を望んだ事を理解されないまま、この世界に生かされ続けている』


「……!!」


『そして創造神(かのじょ)の因子を受け継ぎ生まれた(わたし)は、下界(ミデン)の世界で転生し続けた。……そして望まぬ生と死を繰り返し、ただ絶望だけを積み重ね続けてしまった』 


「……その結果が、溢れ出ていた瘴気(どろ)ってわけね……」


 創造神(オリジン)の魂や肉体が存在し続けている理由を知ったアリアは、自分の見ていた瘴気の正体を知る。

 それは自分の消滅すら願っていた創造神(オリジン)にとって望まぬ結果によって生じた瘴気(モノ)であり、今も尚それが蓄積され続けている事を理解した。


 そんなアリアは鋭い眼光を向けながら、暗闇だけが拡がる『黒』へ再び問い掛ける。


創造神(オリジン)の生まれ変わりである私達や、『(アンタ)』みたいな奴がいる理由も分かったわ。……それで、『(アンタ)』はどうしたいの?」


『……』


「話を聞く限り、今のアンタは肉体に蓄積している瘴気の集合意識みたいな存在(モノ)よね。だから今の私(アルトリア)を瘴気から守れたりもするし、こうして私達と話すことも出来る。違う?」


『そうだね』


「だとしたら、アンタの目的は何? 私達に何かさせたいから、こうして話し掛けてるんでしょ」


『……』


 そうして尋ねるアリアに対して、『黒』は暫しの沈黙を抱く。

 それを黙って表情を顰めながら待つアリアは、腕を組んで人差し指を腕に当てながら苛立つ様子で待ち続けた。


 すると暫くしてから、『黒』は重い口を開くように再び言葉を届ける。


『……私の願いは、(わたし)という存在が生まれた時からずっと一緒』


「!」


『私は、あの子を助けたい。……生まれて初めて出来た友達を、助けてあげたい。ただ、それだけ』


「……あの子って、創造神(オリジン)のこと?」


『うん』


「二重人格として生まれた人格の『(アンタ)』が、主人格(オリジン)を友達と言うのね」


『あの子は多くの人達から慕われていたけれど、誰にも自分自身を理解された事はなかった。……でも、私だけは知っている。あの子の絶望を、そして苦悩を。でも私達の関係性は、家族と呼べる姉妹や母子とも違う。……なら、友達じゃないかな?』


「なるほどね。……それで、アンタはどう創造神(ともだち)を救いたいの?」


『……分からない』


「え?」


『それが方法が分からないから、ずっと(わたし)は考え続けている。……そして創造神(かのじょ)が望んでいた、世界いまを変えられる人達を集めていた』


「……それって……!?」


 そこまで語る『黒』の言葉で、アリアはようやく理解する。

 それはこの世界に否応なく生まれ続けながら、『創造神(ともだち)』を救おうとしていた『黒』の本心を聞いた瞬間でもあった。


『アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。そして、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド』


「!?」


『貴方達こそ、(わたし)が導いた存在。そして創造神(かのじょ)の魂や血を継いだ、世界の変革者。……(わたし)は貴方達が齎す変革によって、創造神(かのじょ)が救われる事を望んでいるの』


 今まで動乱の中心人物に居た『黒』の思惑が、自分(アリア)とウォーリスによって世界の変革が行われる事だとアリアは知る。

 それはどれ程の願い年月を必要とすることだったのか、そしてどれほど先の未来を予知して行い続けた行動だったのか、それは『黒』本人にしか分からぬ程に遠大な計画だった。


 こうして創造神(オリジン)の精神内部に潜む『黒』の意識に触れたアリアは、彼女が今まで起こしていた行動原理を知る。

 それは一人の創造神(ともだち)を救う為に、創造神(かのじょ)の世界を変えるという途方も無い願いによって進み続けた結果だった。


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