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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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憎悪の泥


 エリクを介して自らの死体(からだ)に戻ったアリアは、意識の無い創造神(オリジン)を目覚めさせる為に接触を図る。

 それを妨害しようとする『神兵』達をエリクに任せ、アリアは自らの精神を創造神(オリジン)の肉体へと侵入させた。


『――……これって……!?』


 意識だけが加速し繋がる精神世界の中で、アリアは意識の瞳を見開きながら驚愕を零す。

 それは本来ならば全てが白に染められているはずの精神世界が、全て黒に染め上げられた景色を目撃した為だった。


 アリアは自らの精神を具象化し、自身の姿を模す形で黒い精神世界に舞い降りる。

 そして自身の輝き以外に光が無い精神世界を見回しながら、訝し気な表情を浮かべながら呟いた。


「……魂の門も見えないし、精神も感じられない。……今の私(アルトリア)は、何処までこの精神(なか)を潜ってるのよ……」


 アリアはそう言いながら精神()を屈め、自身の右手を黒い床へ着ける。

 そして果てしなく続く黒い精神世界の中で存在するはずの今の自分(アルトリア)を探そうと、精神(かんかく)を研ぎ澄ませた。


 するとある方角に俯かせていた顔を振り向けると、アリアは驚きの声を漏らす。


「……この気配は、今の私(アルトリア)じゃない……。……私達以外に、誰かいるの……!?」


 自身の精神内部に第三者が存在する事を察知したアリアは、それを探る為に精神(からだ)を飛翔させながら向かう。

 するとかなり距離が離れた場所で赤い灯火()が舞い散る光景が見えると、アリアは眉を顰めながら呟いた。


「……あの炎、まさか……」


 アリアは遠目に見えた灯火(ほのお)に嫌悪を感じるように表情を強張らせたが、それでも飛翔する速度を緩めない。

 しかしその嫌悪(かんかく)を証明するように、アリアはその先にある一人の精神(すがた)を確認してしまった。


 そこには舞い散る炎の中で一本の聖剣(けん)を振るいながら、黒い精神世界の中に押し寄せる泥のような闇と戦う赤髪の青年が見える。

 その青年の顔を視認したアリアは、悪態にも似た声で呟いた。


「やっぱり、アンタだったのね。――……馬鹿皇子(ユグナリス)


「――……クッソッ!!」


 過去と未来において最も嫌悪していた馬鹿皇子(ユグナリス)を見つけてしまったアリアは、飛翔していた精神を留めながらその様子を窺う。

 すると創造神(オリジン)の精神世界に侵入していた未来のユグナリスもまた、押し寄せる泥のような闇に悪態を漏らしながら炎を纏わせた聖剣(けん)を振るっていた。


 それを見たアリアは、創造神(オリジン)が目覚めないまま意識を失っている理由に気付く。


「……そうか。あの馬鹿皇子(ユグナリス)が今まで、創造神(オリジン)憎悪(かんじょう)を押し留めていたのね。だから目覚めなかったのか」


「このぉおお……ッ!!」


「でも、馬鹿皇子(ユグナリス)でも創造神(オリジン)憎悪(しょうき)を全て浄化は出来なかった。……そして精神の核になってる今の私(アルトリア)は、溢れ出てる憎悪の向こう側に飲み込まれたままってことね……!」


 アリアはそうした推察を零し、創造神(オリジン)の精神世界で起きている現状を理解する。

 未来のユグナリスはケイルに憑依して創造神(オリジン)と接触した際、その精神内部から溢れ出る憎悪の瘴気を排除しようと侵入を試みていた。


 そして見事に創造神(オリジン)の精神世界に侵入し、自分の精神(ユグナリス)を保ちながら精神内部を汚染しようとしている瘴気を取り払おうとする。

 しかし溢れるように生み出され続ける瘴気(どろ)は、流石にユグナリス一人でも押し留めるだけが精一杯だったらしい。


 そうした状況を理解しながらも、未来の戦いで打ち負かされたユグナリスを前にしたアリアは、非常に不機嫌な様相を浮かべながら腕を組んで状況を見据えた。


「……アレは、未来で戦った時の姿。ということは、私と同じように未来の馬鹿皇子(ユグナリス)が精神だけ現世(こっち)に留まってるのね」


「クソッ、キリがない……っ!!」


「これも『黒』の仕業ね。アイツ、どこまでこの状況を予知してたのよ。……それより、問題は……」


「ォア……ッ!!」


「……アイツとだけは、例え世界が滅びたとしても共闘したくないってことね」


 押し寄せる黒い瘴気(どろ)と戦う未来のユグナリスを見ながら、アリアはそうした言葉を吐露させる。

 それは皮肉や冗談などの表現(たぐい)ではなく、未来の戦いにおいて()()を飲まされたアリアの本音だった。


 彼女が経験した未来では、同盟都市の襲撃に伴い行方不明になった帝国皇子(ユグナリス)が原因で、自分がガルミッシュ帝国の皇帝として立たされ殺された経緯がある。

 更に未来の戦いにおいては異常な強さで自身を圧倒し、最後には身に纏う瘴気すらも全て焼き尽くされて追い詰められた経験は、当時のアリアを酷く激怒させていた。


 そんな未来の彼女(アリア)の記憶も引き継ぐアリアは、この状況でユグナリスと共闘するような行動を拒絶したい。

 しかし創造神(オリジン)を目覚めさせぬ程に瘴気(どろ)を押し留めているユグナリスにも有用性が高い事に気付いており、この状況に利用できないかを考えた。


「……アイツ、瘴気(どろ)が生み出されてる場所(てまえ)までは単独(ひとり)で辿り着いたのね。……なら、丁度いいわ」


 アリアは精神世界の上空(うえ)へ飛翔しながら、瘴気が溢れ出ている場所(あな)を確認する。

 その手前で瘴気(どろ)を浄化させる炎を巻き起こしながら奮闘しているユグナリスに、アリアは影のある笑みを浮かべた。


 すると泥の溢れ出る場所(あな)の真上まで飛翔したアリアは、その右手の指を精神(からだ)の胸に突き立てる。

 それによって精神の奥から溢れ出す自身の瘴気(どろ)を身に纏い始め、未来と同じ悪魔(すがた)にさせながら声を漏らした。


馬鹿皇子(あいつ)が勝手に瘴気(アレ)を押し留めてる間に、私があの場所(あな)に突っ込む。――……創造神(オリジン)精神核(たましい)になってる今の私(アルトリア)を叩き起こしたら、すぐに馬鹿皇子(あいつ)を追い出してやるわ……!」


 ユグナリスに対して共闘ではなく利用する形で用いる事を選んだアリアは、自ら瘴気(どろ)が溢れ出る場所(あな)に飛び込もうと急加速して近付く。

 それに気付いたのはその場所(あな)を炎で取り囲みながら瘴気(どろ)に対応していたユグナリスであり、真上(うえ)から急降下する悪魔化したアリアに気付いた。


「アレは、まさかアルトリアか!? だがあの波動(すがた)は、未来の――……ッ!!」


「――……フンッ!!」


 僅かな時間ながらも視線を重ねた二人の中で、ユグナリスもまた未来で死闘を交えた相手(アリア)である事に気付く。

 そんなユグナリスに対して鼻息を鳴らしながら視線を逸らしたアリアは、瘴気(どろ)が溢れ出る場所(あな)に自らの精神(なか)を飛び込ませた。


 それを見て追おうとしたユグナリスだったが、飛び込むと同時に更に強く溢れ出した瘴気(どろ)に対応しながら足を止めるしかなくなる。


「クソッ!! ――……アイツも、俺と同じように未来から……。……だとしたら、頼るしかないか……!」


 後を追えない事に苦々しい面持ちを浮かべたユグナリスだったが、落ち着かせた思考から後の事をアリアへ委ねる決断を浮かべる。

 それは本人(ユグナリス)にとって本意とする思考ではなかったかもしれないが、飛び込む前に見えたアリアの瞳が未来とは異なる意思が窺えたことに無自覚に気付いていたからでもあった。


 こうして創造神(オリジン)の精神世界に侵入したアリアは、未来のユグナリスと共闘せずに今現在の自分(アルトリア)を呼び起こそうとする。

 そして精神世界の中心部である瘴気(どろ)の穴へと突入し、自らも瘴気を身に纏い悪魔となることで精神の汚染を回避したのだった。


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