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歴然の差


 憮然として立つゴズヴァールの前で、膝を折り大剣に支えられた血塗れのエリクが息を乱している。


 それを遠目で確認したアリアは、老騎士ログウェルと戦い傷付いた時の事を思い出し、思わず大声でエリクを呼んだ。


「エリクッ!!」


「――……!」


 その声を聞いたエリクは、自分を呼ぶ声に視線を向けた。


 その時のエリクが見たのは、いつものアリアではない。

 普段は整えられた金色に靡く髪は乱れ、小さな傷と血が白い肌と服に浮き目立ち、細い腕には手枷が着けられ、首と手に縄を巻きつけられたアリアの姿。


 それを見たエリクは己の傷さえ省みず、目を血走らせてアリアの元へ駆け出しながら、大剣を構えて縄を持つマギルスに狙いを定めた。

 凄まじい速さで突進するエリクに気付き、マギルスは大鎌を構えて迎撃しようとする。


「何処に行く気だ」


「!!」


 しかしエリクの行動を阻んだのは、隣を並走するように飛び出したゴズヴァール。

 先に走り出したエリクにすぐに追い付き、エリクの横に並んだ瞬間に呼び掛け、その巨大な体を軽快に回して凄まじい蹴りをエリクに打ち込んだ。

 その蹴りを横腹に浴びながらも、エリクは吹き飛びながらも踏み止まった。


「――……グゥッ!!」


「頑丈な男だ」


 再び追撃するゴズヴァールは、接近戦でエリクを打ちのめす。

 掌底・拳・蹴り・肘や膝でエリクに殴打を浴びせ、最後に強力な飛び蹴りを放ってエリクを吹き飛ばす。

 石積みの建築物に衝突し砕きながらエリクは停止し、その場に土煙が巻き起こる。

 沈黙したエリクを確認した後に視線を外したゴズヴァールは、アリアを連れたマギルスに声を掛けた。


「マギルス。その女をどうして連れて来た?」


「びっくりしたぁ。おじさん、あれがエアハルトお兄さんを倒した侵入者?」


「らしいな。どうして連れて来た?」


「このお姉さん、さっき逃げちゃったけど僕が捕まえたんだ。その後に、おじさんが楽しそうな事をしてるって聞いて、見に来ちゃった」


「……そうか。その女を拘束しておけ。私がこの男を始末するまではな」


 ゴズヴァールはマギルスに命じて、エリクが居る場所に歩み寄る。

 それを止めようと駆け出そうとするアリアを、縄を引いて抑えたマギルスが小声で伝えた。


「アリアお姉さん。大人しくしてね。でないと、ゴズヴァールおじさんに殺されちゃうよ?」


「!」


「ゴズヴァールおじさん、今日は本当に本気でやってるね。お姉さんの仲間が、それだけ強かったってことみたいだ」


 周囲の状況を見て推察したマギルスが助言するが、それを聞きながらもアリアはエリクに対して声を向けた。


「エリク、生きてるわよね!?」


「あれだけゴズヴァールおじさんの攻撃を受けたんだよ。生きてるわけ……」


 エリクの死をマギルスは信じるが、次の瞬間には言葉を訂正させられる。


 崩れた建築物の影響で土埃が舞う中、殴打され吹き飛ばされたエリクが血塗れで立っていた。

 口から僅かに吐血し、ダメージを受けた事を如実に見せている。

 明らかに重傷ながらも再び歩き始めるエリクを見て、マギルスは驚いた。


「……凄いね、あのおじさん。ゴズヴァールおじさんの攻撃をあれだけ受けて、まだ動けるなんて」


 驚愕を漏らすマギルスに、アリアは返答をしなかった。

 アリアの視線を釘付けにするのは、血塗れのエリクだけ。

 今のエリクの状態では、戦闘継続は不可能としか思えない。

 先ほどのゴズヴァールの殴打も、樹海のブルズ戦の時に話した受け流す技術を使っている様子は無く、威力を殺す事も出来ずに直撃していた。


 そんな血塗れのエリクが足を縺れさせて膝を折り、視線を一点だけに向いていた。


「――……アリ、ア……」


「エリク……!!」


 息も絶え絶えながらアリアの事だけを辛うじて意識するエリクと、瀕死のエリクに今まで以上の焦りを見せるアリア。

 そのエリクの横へ歩み寄ったゴズヴァールが、朦朧とするエリクに声を聞かせた。


「本当に頑丈な男だ。……やはり貴様も、ただの人間ではないな」


「……」


「だが、頑丈なだけだ。力任せで技量が乏しい。大剣もただ振り回すだけ。膂力と素早さは確かに人間離れしているが、自身の身体能力に振り回されるだけの、素人も同然だな」


「……アリ、ア……」


 アリアに向けた視界を遮り、再び阻んだゴズヴァール。

 それに反応したエリクは拳を振った。

 それも片手で受け止められ、逆にエリクの顎と体の正面中央を打ち抜くように拳を突き込んだ。


「――……ッ」


「ハァッ!!」


 そしてエリクの鳩尾へ蹴り込み、再び吹き飛ばした。

 地面を削りながら転がり、エリクは停止した。

 それを見ていたアリアが驚愕と怒気を交えた震えを宿しながら、ゴズヴァールを見て呟いた。


「……エリクが、全く歯が立たないなんて……」


「ゴズヴァールおじさんだもん。しょうがないよ」


 マギルスが当然のように答える、アリアは疑問を零した。


「……あの男、何者なの?」


「お姉さん、フォウルって国を知ってる?」


「!」


「おじさんはその国で生まれて、ここまで旅してきたんだって。それで僕が生まれるずっと前に、この国に留まったらしいよ。……おじさんが言ってた。僕達は、おじさんと同じだって」


「……同じ?」


「僕やエアハルトお兄さん。それに闘士の中の何人かは、おじさんと同じ魔人なんだ」


「!?」


「僕等は人間と魔族の血が混じって、それを色濃く受け継いだ先祖返りなんだって。普通の人とは違うから、僕はもっと小さな頃に捨てられた。そんな僕や他の人達を、ゴズヴァールおじさんが見つけて拾って集めたんだよ」


「……」


「ゴズヴァールおじさんは、ああ見えて僕達には優しいんだよ。でも、敵に一切の容赦も慈悲も無い。それがこの国最強の闘士、ゴズヴァールおじさんなんだよ」


 マギルスが話す事を聞き、アリアは冷静に納得する。

 ゴズヴァールに限らず、目の前の少年マギルスの異常な膂力と腕力。

 人間を超越した動きを見せる彼等の正体が魔人であるのなら、これ等の事に説明が付く。

 その情報の意味する先を悟り、アリアは更に焦りを深めた。


 今のエリクでは、ゴズヴァールに敵わない。


 魔人としての力の使い方を知らないエリクと、魔人としての戦いに長けたゴズヴァールとでは、雲泥の実力差がある。

 その差がこのような形で歴然とし、絶対的な窮地にエリクを追い込んでいた。


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