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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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二人の最前線


 ウォーリスの精神と対峙したエリクと鬼神フォウルは、彼が魅せる理想郷(ディストピア)がどのような目的で用いられているかを聞かされる。

 それは悲しき出来事で成り立つ世界の根底を崩す為に、生命に必要な『肉体』と『精神』を奪い、『魂』だけの存在にするという強硬手段だった。


 その手段を否定するエリクは、改めてウォーリスを対峙すべき『敵』だと認識する。

 それを互いに了承し終えると、フォウルの一撃(こぶし)によって(かなめ)ごと見せていた理想郷(ディストピア)を破壊した。


 自分の精神世界(なか)へ戻って来たエリクだったが、現実へ意識を戻す手段が分からずに悩む姿を浮かべる。

 そうした最中、突如として精神内部に黄金色の光が出現し、それが未来に出会った制約(ルール)のアリアと同じ姿を形成した。


 その制約のアリアと言葉を交わし始めるエリクは、驚愕を浮かべながら問い掛ける。


「どうして君が、また俺の(なか)に……?」


『……未来の事は、覚えてるわよね?』 


「ああ」


『貴方が生き返った時に、貴方に書かせた魔法陣。アレによって築かれた貴方と私の回線(パス)が、まだ繋がってたのよ』


「……そうか、あの時の……!」


 再び自分の魂内部(なか)に現れたアリアの理由について、エリクは心当たりのある出来事を思い出す。


 それは未来の戦いにおいて、エリクが殺された時。

 『黒』の七大聖人(セブンスワン)だった未来のクロエに鬼神(フォウル)の血を飲まされたエリクは、辛うじて肉体を修復させ精神を死から蘇らせた。

 その直後に制約(ルール)のアリアから叱責を受けながらも、彼女の頼み事を引き受けて現実でも意識を戻す事になる。


 その時にエリクがしたのは、頼まれた魔法陣を描いて近くに置いてあった黒い人形とアリアの短杖(つえ)魔法陣()の上に置く事。

 すると人形はアリアの依り代となって動き出し、最後の戦いにおいて多大な活躍を見せた。


 更にその後、崩れ散る短杖(つえ)から魂と精神をエリクの魂内部に移したアリアは、再び魔法陣によって築いていた制約(ルール)回線(パス)を通じてエリクの肉体に宿る。

 それを利用し死霊術で動く自分の肉体(アルトリア)に戻り、その精神と肉体の主導権を取り戻す事に成功した。


 そこで築かれていたエリクとアリアの制約の回線(パス)が、今でも築かれたままだった事をエリクは知る。

 すると納得と同時に疑問を抱き、エリクは目の前のアリアに改めて問い掛けた。


「……だが、君はあの時に死んで……。それで、俺との制約は無くなったんじゃないのか?」


『未来で私が死んだ時に一時的に断絶したけど、回線(パス)自体は繋がったままだったのよ。だから繋ごうと思えば、こうして繋ぎ直すことは出来たわ』


「そうなのか。……だが、その言い方は……君は未来の、あの時のアリアなんだな?」


『……』


「やはり君も、クロエに選ばれて……。……そして、君の短杖(つえ)に宿っていた。そういう事なんだな?」


 エリクは改めて目の前のアリアが未来の出来事を知っている相手だと知り、確信に近い事を問い掛ける。

 それに対して表情を渋らせるアリアは、顔を背けながら別の事を口に出し始めた。


『そんな事よりも、今はこの精神世界(なか)からの脱出が優先。でしょ?』


「……アリア。君は、未来(あのとき)の事を気にしているのか?」


『……』


「君は、何も悪くない……とは、言えないかもしれない。……それでも、あんな未来になったのは、君のせいじゃない」


『……どう取り繕っても、私がやった事に変わりはないわ。私は未来でウォーリス達以上の人間を殺したのは、紛れも無い事実なんだから』


「……だが、その未来は無くなって、こうして……!」


『同じことよ。……私は未来の私(アルトリア)と融合して、自分がやった事を全て覚えている。それと向き合うのが、私自身の事を顧みなかった贖罪でもあるわ』


「!」


『もう二度と、あんな未来を私に起こさせない。……その為だけに、私は今まで動いていたのよ』


 そう告げるアリアの言葉に、エリクは表情を強張らせる。


 自分達がそれぞれにあの未来を防ごうとしていたのと同じように、『青』に協力していたアリアもまた飛空艇や魔導人形の技術を提供し未来の出来事を防ごうとしていた。

 そうした行動を理解できながらも、それを贖罪として罪滅ぼしのように行動するアリアの本心に、エリクは自身の本音を伝える。


「それでもいい。……君とまた、こうして会えるだけで。俺は嬉しい」


『……相変わらずね。貴方って』


「君は、嬉しくないのか?」


『……正直、貴方達とは会いたくなかった。事が上手く進んだら、こっそり消えようと思ってたくらいだし』


「!」


『でも、そうも行かなくなってね。……この状況だと、貴方の手を借りるしかないと思ったのよ』


「この状況……。……そうだ。ウォーリスが、マナの樹を支配して……」


『そう。到達者(エンドレス)になったウォーリスがマナの樹に吸収されて、世界の機構(システム)に強く働きかけてる。そのせいで今、その影響を受けた生物が輪廻と同じ状況に陥ってるの』


「輪廻と同じ状況……。……その影響を受け続けると、輪廻と同じように……記憶や人格、そして魂が浄化されてしまうのか?」


『そういうこと』


「確か輪廻(あそこ)では、長い時間を掛けて魂は浄化されるんだろう? ……今の状況だと、どうなるんだ?」


『その点も不明。でも私がウォーリスだったら、その辺も(いじ)って調整するはずよ。例えば、丸一日でも浴びれば精神が致命的な崩壊を起こす程とかね』


「!!」


『そうなる前に、私達でマナの樹を掌握して機構(システム)を奪い返すしかない。……それに協力して頂戴、エリク』


 改めて状況を説明したアリアの言葉を聞き、エリクは現実世界が危機的状況である事を把握する。

 そして頼まれながら協力を申し込まれると、悩む様子も無いまま素直に頷いて見せた。 


「分かった。今度こそ、一緒にやろう」


『……ありがとう』


「だが、どうやって現実に戻れる? 君が戻せるのか?」


『ええ。現実の貴方まで、私が精神を導くわ。今だったら、あの理想郷(ひかり)に飲まれるのは防げるはず』


「そうか。……ん? 君はもしかして、俺の近くに居るのか?」


『ええ。……あぁ、そうか。言ってなかったわね。私、今は自分の体に戻ってるのよ』


「自分の身体……。……まさか、あの死体にっ!?」


『ウォーリスに捕まった私を取り戻そうとした時に、少し失敗(ドジ)をしてね。仕方ないから、一時的にあの肉体に私の魂を入れてたのよ』


「……だ、だが。それなら、君は死んでいるんじゃ……?」


『何言ってるのよ。元々、私は死人でしょ?』


「!」


『死人の魂が、死人の中に入ってただけ。だから肉体が死んでようとうが生きてようが、(うつわ)には出来るわ。まぁ、肉体の主導権は本来の持ち主である私自身(アルトリア)にあったから、指一本も動かせなかったけどね』


「……そして、本物の君(アルトリア)は『創造神(オリジン)』の中で魂が生きている。だから肉体の主導権を得られたと言う事か。……じゃあ、俺が君の死体を見つけた時には……?」


『流石に、魂の拠り所である重要器官(しんぞう)を奪われてたら死体でも動けないわよ。だからこっそり心臓を修復してる最中に、貴方が来ちゃったの。……おかげで、動くタイミングを完全に失っちゃってたわ』


「……!!」


 アリアが心臓を抜き取られてからも肉体を修復させていた事を知り、エリクは驚愕を浮かべる。

 そして気恥ずかしそうに顔を背けながらエリクが泣く姿も見ていた事を明かすと、溜息を漏らした。


 そんなアリアに、エリクは改めて湧き出した疑問を口にする。


「なら、君の身体は生き返るのか?」


『言ったでしょ、今の私は死体を動かしてるだけ。未来の死霊術(あのとき)と同じよ』


「そ、そうか。……なら、創造神(オリジン)の中に居る本来の魂を戻しても……」


『生き返らないわね。逆に死体に生きた魂を入れたら、魂の方が死んで輪廻に向かっちゃうわ』


「ならやはり、マナの実を食べさせるしか君を生き返らせる術は無いのか」


『まぁ、そういう事ね。ただ今は食べないわ。今は死体の方が都合がいいし、食べるにしても創造神(オリジン)の中に居る私の魂を戻してからでないと』


「……なら、その後は……君はどうする?」


『私は、私自身が還るべき場所に向かうだけ。……分かるでしょ?』 


「……ッ」


『あの時、私はクロエのせいで輪廻(むこう)に逝きそびれただけに過ぎない。……それに、貴方とはもう御別れは済ませてるもの。でしょ?』


「……ああ。……分かった」


 自分が逝くべき場所を話すアリアに、エリクは強張らせた表情を俯かせる。

 しかし顔を上げてその事を受け入れたエリクに、アリアは微笑みを向けた。


 そんな二人の会話に、右肘と手を枕にしながら寝るフォウルが呼び掛ける。


「おいっ、話が終わったんならさっさと行け。うるせぇぞ」


『何よ、アンタも不愛想なのは変わらずね。もっと愛嬌くらい出しなさいよ』


「そんなモンは、女だけが振り撒きゃいいんだよ」


『嫌な言い方するわ。――……じゃあ、私の制約(からだ)に触れて。エリク』


「ああ。――……助けてくれて感謝する、フォウル」


「フンッ」


 悪態を漏らしながらも左手を扇ぐフォウルを横目に、エリクは僅かに口元を微笑ませる。

 そして小さなアリアの身体に触れ、彼女が放つ黄金色の光を自分も纏い始めた。


 次の瞬間、エリクの意識が加速させる。

 すると暗転する視界に光が灯り、現実世界のエリクが瞼を開けながら意識を戻した。


「――……ぅ……っ」


「目覚めはどう? エリク」


「……ああ。……悪くは、ない……」


 目覚めたエリクは瞼を開けると、その真横に座る血に塗れた赤い装束(ドレス)を身に纏うアリアの姿を見る。

 その隣には創造神(オリジン)とマギルスの身体が並べ置かれ、その周囲を大きめの白い結界が纏う形になっていた。


 そして結界の外には、景色全てを赤に染める光が放出されている。

 白髪から灰色の髪色に戻り始めているエリクは、上体を起こしながら周囲の光景を改めて見た。


「……この赤い光が、そうなのか?」


「ええ。……そしてあの光を出してるのが、マナの樹よ」


「……俺は、どうすればいい?」


「今回は、前回みたいな手段は駄目だって事を言っておくわ」


「?」


「あの光を放出してるマナの樹を破壊するのは駄目ってこと。あの樹が壊れたら、世界が本当の意味で壊れちゃうから」


「……分かった。なら、他の手段は?」


「私に考えがあるわ。貴方はそれを手伝ってくれるだけでいい」


「何をする気なんだ?」


「言ったでしょ。ウォーリスから、マナの樹を奪い返すのよ。――……私がね」


「!」


 白い肌ながらも不敵な笑みを見せるアリアは、そう言いながら立ち上がる。

 そしてマナの樹に視線を向けながら、その機構(システム)を掌握しているウォーリスに挑む事を伝えた。


 こうして現実世界に戻ったエリクは、再びアリアと共闘する。

 しかしそれは、まさに博打とも言うべき解決方法でもあった。


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