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闘士の在り方


 少年闘士マギルスに助けられたアリアは、釈然としない面持ちで建物内の部屋に潜んでいた。

 その傍には年相応の少年らしい笑顔を見せるマギルスが、憮然としたアリアを見ながら不思議そうに聞いた。


「それで、どうするの? アリアお姉さん」


「どうするって、アンタもどうするのよ? 仲間を裏切って」


「僕、別に裏切ってないよ?」


「何言ってるのよ。さっき兵士達を……」


「僕達は別に、この国の兵士と仲間じゃないよ?」


「は?」


「だって僕、国の兵士じゃないもん。ゴズヴァールおじさんがいるからここに居るだけだよ?」


「……どういうこと?」


「ゴズヴァールおじさんはずっと前の王様に恩があって、今の王様にも仕えてるって言ってた。元々闘士と呼ばれ始めた人達は、ゴズヴァールおじさんを慕って集まった人達なんだよ。だから別に、この国の兵士と仲が良いわけじゃないんだ」


「……つまり、ゴズヴァールって男を慕って集まっただけの、無法集団ってこと?」


「うん。でも、今はそうでもないのかな」


「?」


「今の闘士は、国で偉いおじさん達が人を呼んで入れてるんだ。その人達は、ゴズヴァールおじさんよりそっちの命令で動くんだよね。だから今の闘士達を騎士団みたいな組織だと勘違いしてる人は闘士の中には多いよ。元々居た人達は自分の好きなことを優先するから、この国に残ってる強い人達も少ないんだ」


「そんな組織、よく共和国で好き勝手が許されてるわね」


「ゴズヴァールおじさんがいるからだよ。だっておじさん、どれだけ兵士を揃えても、誰も敵わないんだもん。ゴズヴァールおじさんを国に居させる為に、おじさん達が【闘士】っていう組織を作ったんだよ」


 笑いながら教えるマギルスに、アリアは闘士という組織の実情を知った。

 闘士という組織は、一個人の下に集まった戦闘集団。

 言わばゴズヴァール自身が闘士という組織の絶対王者であり、その組織の中軸として共和国を支える一本の大黒柱だという事実。

 それを把握したアリアは、マギルスに聞いた。


「マギルス、だったわよね?」


「うん」


「結局アンタは、私を助けてどうするのよ?」


「うーん。お姉さんが殺されると面白くないから、助けたんだよ?」


「助けてから、どうするのよ」


「勧誘するとか?」


「勧誘?」


「闘士にだよ。お姉さん、凄く強いんだから闘士になっちゃおうよ。そして僕と毎日、戦って遊ぼう。僕の序列三位、あげちゃうよ?」


「要らないわよ」


「えー、ひどい!」


「私はゴズヴァールって男を慕ってもいないし、闘士になりたいワケでもないの。今は一刻も早く、この王宮から脱出しないと……」


「大人しくしておこうよ? ゴズヴァールおじさん、怒って追って来るよ?」


「残念ながら、追われるのは慣れてるのよ」


「へー。流石、犯罪者なだけはあるね、アリアお姉さん」


「……犯罪者?」


 マギルスが不意に零した言葉に、アリアは訝しげな表情で聞いた。


「犯罪者って、何よ?」


「えっ。だってアリアお姉さん、王子を誘拐したでしょ?」


「……王子? 王子って、まさか……」


「お姉さんが一緒に連れてた子供だよ。……お姉さん、知らなかったの?」


 それを言葉を聞いた瞬間、全ての出来事に繋がりが生まれた事をアリアは感じた。


 この国の象徴となっている若い王。

 誘拐されていた亜麻色の髪の幼い少年。

 それを連れ去っていた役人や兵士達。

 少年を保護した自分を追って来たゴズヴァール率いる闘士達。


 その全てが繋がった瞬間、アリアは苦々しい表情で理解した。


「……なるほど。そういうことね」


「お姉さん、王子と知らずに誘拐してたの?」


「違うわよ。そもそも王子だなんて知らなかったし、私は誘拐してすらいない。あの子を助けて保護してたら、アンタ達が襲ってきたんでしょ?」


「そうなの?」


「そうよ。まったく、今回はとんでもない事に首を突っ込んだみたいね……。反省したいとこだけど、もう手遅れって感じね」


「ねぇねぇ。僕にも話を聞かせてよ? どういうことなの?」


 呑気に笑うマギルスの言葉に、アリアは溜息を吐き出しながら掻い摘んで事情を話した。

 それを聞いたマギルスは、難しそうな表情を浮かべた。


「うーん。ゴズヴァールおじさんに、それ話したの?」


「同じような事は話したわ。でも、あの男は信じてなかったみたいよ」


「そうだね。おじさんだったら信じないだろうなぁ。僕も半信半疑だけど、アリアお姉さんがここで嘘を吐いても意味があるとは思えないし。うん、僕は信じてもいいよ。そっちの方が楽しそう」


「結構、あっさり信じるわね」


「嘘を吐いてると分かったら、殺しちゃうだけだもん」


「そう。じゃあ、嘘じゃないから殺さないでね」


「うん、分かった」


 マギルスとアリアはそう妥協し、一時的に手を組んだ。

 そして二人は次の段階に進む為の話に入る。


「それで、アリアお姉さんはどうするの? 閉じ込めてた塔に戻る?」


「嫌よ、脱出するわ。私の仲間が下手すると乗り込みかねないし」


「仲間がいるの?」


「ええ。私よりとっても強い仲間がね」


「へぇ、興味あるなぁ。お姉さんより強いんだ。僕が遊んでいい?」


「ダメ。それより、この状況を利用できるだけしないと。まずは私の荷物を回収ね。マギルス、何処に私の荷物があるか知ってる?」


「うーん。捕まえた犯罪者が持ってた荷物は、王宮の衛士が管理する事になってるんだ。王宮に行けばあるんじゃないかな?」


「そう。じゃあ、王宮に行って私の荷物を全部回収して、脱出するわよ」


「どうするの?」


「私を助けてくれるんでしょ。序列三位の闘士マギルス様」


 立ち上がったアリアは近くに掛けられた紐縄を確認すると、マギルスを見て悪い笑みを浮かべた。


 そして数分後。

 アリアは首と両手に縄が巻かれた状態で歩き、マギルスがそれを引くように前を歩く。

 それを見た闘士や兵士達の何名かが驚きながら話し掛けて来た。


「その、闘士マギルス。その者をどちらへ?」


「王宮に連れて行くように言われたんだ。僕が捕まえたからね」


「し、しかし。その者は塔に捕らえよと……」


「なに? 僕に命令するの?」


「い、いえ。そのような……」


「僕は王宮に連れて行くように言われたからそうしてるんだ。それじゃあね」


 兵士達の問い掛けに威圧を返し、マギルスはアリアを王宮まで引き連れて行く。

 乱れた髪を垂れながら表情を隠すアリアは、口をニヤけさせながらマギルスを存分に利用した。


「ねぇねぇ、お姉さん?」


「何よ。アンタは私を連行してるんだから、話し掛けたら不自然よ」


「だってこれ、つまらないもん。せめて話しながら行こうよ」


「はいはい。で、何?」


「さっき、手錠を着けたまま魔法を使ってた方法、教えて!」


「自分で考えなさい。その方が楽しいわよ」


「えー。じゃあ僕が答えを言うから、合ってるか答えてよ」


「分かったわよ。言ってみなさい」


「じゃあね。やっぱり術式を刻んだ魔石を何処かに隠し持ってるとか?」


「ブッブー。ハズレよ」


「えー。じゃあ、手錠をもう壊してるとか?」


「はい、ハズレね」


「むー。じゃあ……」


 他愛も無い問答を続けながら、マギルスは魔法を使う方法をアリアを聞いた。

 しかしどれも正解せず、顔を膨らませたマギルスは再び聞いた。


「むー。アリアお姉さん、ヒントを頂戴よ」


「ヒント、ヒントね。……マギルス、アンタは魔法をどの程度まで理解してる?」


「うーん。魔法は、空気中の魔力を体に吸収して、構築式っていうのを使って魔法を作って、対象者に向けて放つ。それが魔法でしょ?」


「そうね。でもそれは、現代魔法の理論よ」


「現代魔法?」


「魔法の形態も年月が経つ程に進化してきた。その中で、最も扱い易い形に魔法を行使する理論が、現代魔法の成り立ち。でも、古代の魔法理論は、この方法で成り立つものじゃなかった」


「……つまりお姉さんが使ってる魔法は、古代魔法?」


「さぁね」


「でも、魔法が出来なくなる手錠をしてるのに。その古代魔法が使えるの?」


「この手錠はあくまで、『体内の魔力を拡散させて集束を防ぐ』為の魔道具。だから魔法師がこれを着けられると、体内に魔力を通わせて、魔法を形成して放つことができない」


「へぇ、そうなんだ? 単に魔法が使えなくなるんだと思ってた」


「この手錠は、体内の魔力を拡散させるという意味では、魔族にも有効な形にしてるんでしょうね」


「じゃあ、アリアお姉さんはどうやって魔法を使ってるの?」


「それを自分で考えて、そして調べて答えを当ててみなさいな」


「むー。お姉さん、意地悪だよね」


「ええ。私は子供の頃から、意地悪なのよ」


 連行させるアリアとマギルスの会話は、王宮の小門に辿り着くまで続いた。


 そして小門に辿り着いた時。

 周囲に集まる者達の騒ぎと、破壊された小門の扉を見て、アリアとマギルスは僅かに目を見開き、マギルスが問うように、近くの兵士に聞いた。


「ねぇ、何があったの?」


「と、闘士マギルス。その女は……?」


「何があったのって、聞いてるんだけど?」


「な、何者かが王宮内の門を突破し、侵入してきたようで。話では、闘士エアハルトを含んだ常駐の闘士をほぼ全てを倒し、王宮の方へ向かったと……」


「エアハルトお兄さんを倒した!?」


 エアハルトを倒したという侵入者に驚き、心を躍らせて期待した似た表情をマギルスは見せた。


「それって、どんな侵入者なの。凄く強いの?」


「は、話では……黒い衣を纏い、黒い大剣を自由に扱う、大男だと……」


「!!」


 兵士の証言で聞いた相手の姿を確認し、アリアは驚きを隠せず顔を強張らせた。

 そしてアリアが怒鳴り気味に聞いた。


「その侵入者、今はどこなの!?」


「な、なんだ。この女は」


「いいから答えなさい!!」


 凄まじい剣幕を見せるアリアを、その場に集まった兵士達が驚きの目で見るが、マギルスが間を挟むように兵士に聞いた。


「その侵入者、今はどこにいるの。僕が行くよ」


「今は、ゴズヴァール殿が王宮の通路にて、戦闘中とのことです」


「ゴズヴァールおじさんと戦ってるのかぁ。じゃあ出番は無いかな」


 そうした事をマギルスは述べ、アリアに繋げた縄を引いて小門の方へ足を向けた。


「と、闘士マギルス!」


「情報、ありがとねぇ。僕も見てくるよ」


 止めようとした兵士を意に介する事無く、マギルスはアリアを連れて王宮へ向かった。

 そして様子に変化が見えたアリアに、マギルスは尋ねた。


「アリアお姉さん。その侵入者が、お姉さんの仲間?」


「……多分ね」


「じゃあ、残念だね。ゴズヴァールおじさんと戦って無事で済む人はいないよ」


「!」


「ゴズヴァールおじさんは、僕よりずっと強いからね。僕やエアハルトお兄さんならともかく、敵対する侵入者と戦ったら、きっと手加減なんてしてくれないよ?」


「……エリクだって、負けないわよ」


「エリクっていうんだ。お姉さんの仲間。でも、ゴズヴァールおじさんが勝つよ」


「……」


 マギルスの言葉に反論もせず、アリアは王宮へ向けて足を運んだ。

 その道中、通路の各所が破壊されたような形跡があり、激しい戦闘が起こっているのがアリアにも理解できる。


 そして、しばらく歩いた通路の先。

 アリアが見たのは、血塗れた黒い布を羽織り大剣で体を支えるエリクが、ゴズヴァールと対峙している痛ましい姿だった。


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