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試練の旅


 『天界(エデン)』において激しい戦闘を交え終えたアルフレッドとザルツヘルムは、付き従って来たウォーリスとナルヴァニアの過去を語る。

 そしてその周囲で起きていた悲劇の一つに、ルクソード皇国において多大な騒乱を引き起こしたランヴァルディアが決起する原因となった婚約者(ネフィリアス)の死について、その理由が明かされた。


 それは【結社】を率いる『青』が命じた、創造神(オリジン)の肉体となる『黒』の七大聖人(セブンスワン)の暗殺の依頼に因る事件(もの)

 カリーナと同様に『黒』を身籠っていたネフィリアスは、命令によって動いていた【結社】の構成員によって意図しない形で殺された事が『青』自身の口から語られた。


 それと同時に、その事件においてもウォーリス達が秘かに動いていた事が明かされる。


 カリーナの臓器提供者(ドナー)を探していたウォーリスは、ネフィリアスがその適合者である事を知った。

 そして自ら臓器提供者(ドナー)となるよう交渉中、ネフィリアスが【結社】の構成員に誘き出されて殺害されてしまう。


 臓器提供者(ドナー)としてネフィリアスの存在を注視していたウォーリスにとって、母親(ナルヴァニア)に味方していた【結社】の裏切りは予想外の出来事だったと言ってもいい。

 更にネフィリアスが狙われた理由が最愛の女性(カリーナ)と同じく『黒』を身籠っていたからだと知り、死んで間もない遺体(ネフィリアス)から必要な臓器と『黒』が宿った子宮(ぼたい)を奪い去っていた。


 そこでアルフレッドの供述を聞いていたシルエスカは、殺されたネフィリアスの子供が生きていた事を聞かされる。

 しかもそれが、皇国でアルトリア達一行が救い出した奴隷の少女である『黒』だった事を、初めて知らされながら表情を強張らせた。


「……あの少女が……『黒』が、ランヴァルディアの子供だっただと……!? ……だが、あの少女は別の国で保護された孤児奴隷だと……っ!!」


皇国(あのくに)の女皇であるナルヴァニア様であれば、そうした身分の偽証を用意し、奴隷商に預ける事は可能です。そして折を見て御自身の手元に自然な形で置く為に、わざわざ奴隷(かのじょ)の買取も予約していた』


「……!?」


『しかしそれが、【結社(かれら)】に気付かれた。生まれて来る(くろ)七大聖人(セブンスワン)を探していた【結社(そしき)】の構成員達は、それらしい少女の情報を集めていたのでしょう。……それに特徴が合致した少女が、皇国の奴隷商に居る事を知られてしまった』


「……だから結社(やつら)は、あの奴隷商から少女を奪って攫おうとしたのか……!?」


『【結社(かれら)】も正規の方法で奴隷となっている少女(かのじょ)を購入しようとはしていたようですが、それを常に上回る金額によって競り落とせなかったようですからね。だからこそ、実行犯だった構成員(バンデラス)も強硬手段に出るしかなかったのでしょう』


 その話を聞かされているシルエスカは、知り得なかった情報が続く事に動揺を浮かべる。

 しかしこの話においては、皇国に赴き奴隷強奪の事件に関与させられていたアリアやエリク達の耳にもそれに似た情報が入っていた。


 マギルスが連れ去ったとされる奴隷の少女が、競売(オークション)において通常以上の高額において競り落とされていたこと。

 そしてその奴隷(こども)を買う為に、競っていた者が存在していたこと。


 当時のアリアは別の思惑によって奴隷商から問い質した内容だったが、それが事態の核心を突く質問(もの)だったのは間違いない。

 そして当時は語られなかった『黒』の少女についても、次に起こすウォーリス達の動きが関わっていた事が伝えられる。


『ウォーリス様は彼女を保護して匿いながら、暫く共に暮らして居ました。彼女を【結社(そしき)】から守る為でもありましたが、見つからない御息女(リエスティア)と同じ存在である彼女(くろ)を、放置しておく事は出来なかったのでしょう。……しかし彼女が四歳になった時、リエスティア様についての情報を彼女が与えたのです』


「なに……!?」


『その情報を元に、我々は彼女を母親(ナルヴァニア)に預けて皇国から旅立ちました。そして四大国家にも属さない小国の貧しい家に引き取られていた、リエスティア様を発見したのです。……しかしリエスティア様は自我こそ御持ちでしたが、幼少時の記憶を失い、目も見えず自分では立ち上がれない身体となっていた』


「……!!」


『ウォーリス様はそうした里親(かれら)を容赦なく殺害し、リエスティア様を取り戻しました。しかし魔力を受け付けない体質は変わらず、あらゆる治癒技術を用いても治す事が出来ない。……そこでウォーリス様は、リエスティア様の傷を治せたアルトリア嬢の存在を思い出しました』


「……バリスから、その話は聞いている。それを目的として、お前達がアルトリアに身体を治させようとしていたと……。……だが、どうしてあんな回りくどいやり方で……!? それこそ、正攻法で依頼をすればいいではないか!」


『アルトリア嬢は、そちらの【(あお)】を師事していたと聞きます。だからこそ、我々は直接的な接触を恐れたのです。【結社(そしき)】にリエスティア様の存在が気付かれる事を』


「!」


『【結社(そしき)】の目は、何処の国にも必ず存在します。【結社(そしき)】に気付かれずにリエスティア様を発見できた事も、一つの奇跡と言ってもいい。……しかしリエスティア様がそうした状態となっている以上、逃げる事も隠れる事も難しい。だからこそ彼女を匿いながら、アルトリア様に治癒しに赴き易い隣国のベルグリンド王国に拠点を築いた。そして婚約関係にあった帝国皇子(ユグナリス)とアルトリア嬢の関係に亀裂を生じさせ、彼女を王国に赴くように仕向けたのです』


「……まさか、その為だけに王国を乗っ取ったと……!?」


『勿論、それだけはありません。我々は同時に、ゲルガルドを討ち滅ぼす為の計画(プラン)を幾つも並行して行っていました。そしてウォーリス様を到達者(エンドレス)とする為に、王国の民からの信仰を集めていた』


到達者(エンドレス)の為の、土台作りか……」


『しかしそれも、決して順調では無かった。……何せ帝国以上に、当時の王国には【結社】の意識が向いていたのですから』


「!?」


『王国にもまた、【結社(そしき)】が注目するに足る存在が生まれていたのです。……それが【黒獣(ビスティア)】傭兵団の団長、傭兵エリクでした』


「エリクが……!?」


『彼もまた、その肉体に到達者(エンドレス)の魂を宿す者。その到達者(エンドレス)が、よりにもよってフォウル国が信仰する鬼神フォウルとなれば、彼に対して注意深くなりながら、我々が築く土台(くに)から取り除く必要があったんです』


「……だからエリクに冤罪を仕掛け、傭兵団諸共に王国から追放したのか」


『はい。敢えて黒獣傭兵団(かれら)を逃がしたのも、【結社(そしき)】の目を王国から彼等に移す為です。……しかし逃がしたはずのエリクが帝国に向かい、王国(こちら)に向かわせようとしていたアルトリア嬢と接触し、そのまま共に別の国に向かうのは本当に予想外でした』


 機械的な音声ながらも呆れるような口調を浮かべるアルフレッドは、乗っ取ろうとしていたベルグリンド王国での動きについても語る。

 そこで意図して王国を簒奪した事を明かしながらも、国境の森で出会ったアリアとエリクについては予想もしていなかった事を正直に述べた。


 しかしそうした言葉を見せながらも、アルフレッドはこうした事も語る。


『しかしそうした事態についても、ウォーリス様は利用しました』


「利用……?」


神人(エンドレス)に最も近しい存在であるアルトリア嬢と、鬼神を宿すエリク。彼等を鍛え育てれば、いずれ復活するであろうゲルガルドを打ち倒す為の戦力になる。だからこそ彼等が帝国から去る事を見逃し、彼等の行く先々で関わりそうな試練を仕掛けた』


「!?」


『闘士部隊を率いる、魔人の強者ゴズヴァール。そして合成魔獣(キマイラ)合成魔人(キメラ)を製造し、神兵の心臓(コア)を取り込んだランヴァルディア。それ等の戦いにおいてアルトリア嬢を聖人に成長させ、エリクの肉体に宿る鬼神フォウルを呼び起こす。……彼等の旅をウォーリス様が阻まなかったのは、彼等をゲルガルドと戦える程に成長させる為の試練でもあったのです』


「そんな……。そんな、馬鹿な事が……。そもそも王国に居たお前達が、どうして旅をしていたアルトリア達の動向を知れるっ!?」


『彼等を襲わせた刺客に、アルトリア嬢の位置と状況を把握できる刻印を打ち込ませました。彼女達がマシラ共和国に向かう前に』


「!」


『しかしその刻印も、一年程前に起きたローゼン公爵領が襲撃された前後に解除されています。恐らく、その時の襲撃者に解かれてしまったのでしょう。おかげで、ウォーリス様が直々に様子を窺う事になったようです』


「――……あの時に彼が訪問して来た理由は、そういう事ですか」


「バリス! それに、アズマ国の二人も……ゴズヴァールも、無事だったか」


 その場に現れた声に振り向いたシルエスカは、瓦礫を登り終えた老執事バリスを見つける。

 更に後ろから武玄(ブゲン)(トモエ)も近付く姿が見え、彼等の後ろから瓦礫を押し退けて現れたゴズヴァールの姿も見つけた。


 神殿の外で戦っていたテクラノス以外の全員がその場に集い、改めて一同が会する場が設けられる。

 そして捕らえる事に成功したザルツヘルムと、身動きの取れない脳髄(ほんたい)のアルフレッドをその場に居る者達に伝えた。


「――……まさか人形共を操っていた首魁(ほんたい)が、こんな脳髄(すがた)だったとはな……」


「しかし、どのような奥の手を隠しているか分かりません。……今すぐ、破壊(ころ)しましょう」


「待て、奴等はもう抵抗できない。……事情や目的がどうあれ、奴等は多くの人間を殺めている。犯した罪は、償ってもらわねばならない」


「ならば死罪こそが適切でしょう。ここで奴等を生かしておいても、意味はありません」


 武玄(ブゲン)は物珍しそうに試験管の中に浮かぶ脳髄(ほんたい)を眺め、それに付き添う(トモエ)は危険の芽を摘む為に早急な破壊(さつがい)を提案する。

 それを止めるように割って入るシルエスカは、今も確認し切れない程の罪に対して罰を与えるべきだと意見を述べた。


 そうして揉める様子を見せ始めたシルエスカ達に反して、合流したゴズヴァールとエアハルトは互いに言葉を交える。


「身体は?」


「見た目ほど、悪くはない。……テクラノスはどうした?」


「匂いはある。だが、生きているかどうかは分からん」


「そうか。ならば、後で探さなければならないな」


「……ゴズヴァール、少し聞きたい事がある」


「?」


「あのアリアという女を共和国(マシラ)で捕えた時、拷問をする前に元老院から使者(つかい)が来て、奴等が急にあの女を保護しようとしたのは覚えているか?」


「……ああ、覚えている」


あの女(アリア)の素性を俺達が知ったのは、あの女(アリア)とエリクという男が暴れた後だった。……何故、元老院が俺達よりも先にあの女の素性を知っていたか、分かるか?」


「いや、それは分からん。……俺も当時は、元老院が何故あの女を我々から引き離して保護させたのか、疑問には思っていた」


「……だとすると、まだ元老院(やつら)の中にいるな。奴等と繋がっている者が」


「!」


「ウォーリスという男は、あの女を監視していたらしい。そして共和国(マシラ)闘士部隊(われわれ)に捕まった事を知り、すぐに元老院に情報を伝えたんだろう。あの女が、帝国の皇女(ひめ)だと」


「……だとすれば、厄介な話だ。元老院にも奴等(ウォーリス)の手が回っているとなれば、やはりウルクルス様達を共和国から離しておいて正解だったな」


「離した?」


「俺が天界(ここ)に赴く時に、王と王子を安全な場所に預けて来た。俺の不在を狙って、元老院(やつら)が何をするか分からなかったからな」


「そうか。だが、その場所も安全なのか?」


「ああ。それに王は、あの男に協力を頼まれていた。今頃は、あそこに向かっている頃かもしれん」


「……あそこ?」


 そうした会話を交えるゴズヴァールとエアハルトは、当時のマシラ共和国で起きた事件について疑問だった事を確認する。

 その事件においてもウォーリス達の意思によって動いた可能性がある出来事の存在を理解し、闘士部隊(じぶんたち)が知らず知らずに巻き込まれていた事を察した。


 こうした彼等が話を交える中で、老執事バリスは試験管に収められたアルフレッドの脳髄(ほんたい)を前にしながら言葉を掛ける。


「それで、君達はどうする? このまま降伏し、大人しく我々に捕まる気はあるのかね?」


『……我々は、ただ見届けます』


「何を?」


『ウォーリス様がゲルガルドを討ち、望んだ願いが叶う光景を。ただ見届けるだけです』


「その、願いというのは?」


『それは――……!』


「!!」


「な、なんだ……!?」


「……この大陸が、揺れている……!?」


 アルフレッドが言い終えるのを待たず、天界(エデン)の白い大陸が異変が起こる。

 それは中空に浮かぶはずの大陸が大きく揺れ始め、全員が傍の瓦礫に腕や身体を預けながら倒れぬように踏ん張りを見せた。


 そして次の瞬間、大陸の中央に存在する神殿が巨大な赤い発光を放ち始める。

 全員がそれを注視した時、ザルツヘルムは口元に微笑みを浮かべ、アルフレッドは機械の声で笑いを込み上げさせた。


『……やったのですね、ウォーリス様』


「!?」


「お前達はこの現象が……何か知っているのかっ!?」


『ウォーリス様が、ゲルガルドを討ったのでしょう。……そして、自分の願いを叶える為に踏み出された』


「っ!!」


「……まずい。……これはまさか、五百年前の天変地異(とき)と同じ……!!」


「!?」


 起きている状況を話すアルフレッドに、ザルツヘルムは肯定するように頷く。

 そして『青』が述べる言葉から、他の者達は五百年前に起きた天変地異と同様の現象が起きようとしている事を理解し始めた。


 こうしてウォーリスに仕える側近の二人を倒しながらも、天界(エデン)の状況は再び混迷とし始める。

 それはゲルガルドをエリク達が倒した事で生み出された、まさに狂気の光とも呼べる光景を見せようとしていた。


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