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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 七章:黒を継ぎし者

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か弱き存在


 帝都へ向かう道中にて継母エカテリーナの策謀した待ち伏せを受けたウォーリスだったが、約二十年間に渡る鍛錬と実験によって苦も無くそれを撃退する。

 そして運命を変えようと娘リエスティアを介して伝える『黒』に従い、帝国皇子(ユグナリス)の誕生日祝宴(パーティー)が行われる帝都を再び目指し始めた。


 従者役として伴うアルフレッドを含めて三名だけになった旅路は、予定通りとはいかなくなる。


 継母(エカテリーナ)の実家とする領地はウォーリス達が移動する領地と隣接しており、またその領兵が用いられているという時点で、領主であるエカテリーナの父親も今回の暗殺に関与している可能性が高い。

 もし今回の暗殺が失敗した事が分かれば、エカテリーナの父親は是が非でも後継者に選ばれた自分(ウォーリス)を殺そうとするだろう。

 そうすれば跡取りとして残るジェイクを基点にし、自分達の立場を守れるかもしれない。


 そうした安易な考えで自分達の暗殺を諦めない可能性があると考えるウォーリスは、予定していた旅路の順路を変更するようアルフレッドに命じていた。


『――……この順路(ルート)ですと、移動時間が更に伸びますね』


『ああ。だが迂回して別領地の中を移動すれば、エカテリーナ達の妨害を受けずに済む。流石に、一つの領地を跨いでまで領兵を動かすのは危険が高いはずだからな』


『しかしウォーリス様であれば、襲撃を受けても問題ありますまい。私も居ますし』


『今回のように人気(ひとけ)の無い場所でなら問題ないが、追い詰められて人目も(はばか)らず場所でそうした事をされると面倒だからな』


『なるほど』


『予定を外れるが、この順路(ルート)で行く。頼んだぞ、アルフレッド』


『承りました』


『リエスティアも、それでいいな?』


御父様(あなた)に任せます』


『そうか』


 帝国領の地図を広げながらそう話し合うウォーリスとアルフレッドは、予定を変更して安全な順路(ルート)を辿り帝都を目指す判断を行う。

 それを馬車の中から聞いていたリエスティアは異論を挟まず、ただ口元を僅かに微笑ませながら了承した。


 更に町や都市での発見され襲撃されることを警戒し、ウォーリスはそうした宿屋(しせつ)がある街で泊まらない事を選ぶ。

 立ち寄った町などで必要な物品を買いながら不必要な物を売って荷物を減らし、ほとんどの道程を野宿で過ごした。


 しかし義体であるアルフレッドは人間と同じように飲み食いこそ出来たが、本来はそうした行為をする必要は無い。

 更に『聖人』であるウォーリスは飲み食いをせず不眠不休でも三ヶ月以上も活動できる為、必要とする荷物はリエスティアの分だけで十分だった。


 そんな完璧にも思える二人だったが、一つだけ大きな欠点がある。

 それは常人とは懸け離れた生活と存在故に、人間に最も必要なモノが欠けていた事を、リエスティアは渋い表情を浮かべて伝えた。


『――……不味(まず)いです』


『ん?』


『御父様達の料理、不味(まず)いです』


『……ッ』


 初めての野宿を行った日、リエスティアの為に不慣れた様子で食事の準備を整えたウォーリスとアルフレッドだったが、その張本人に料理の出来栄えを批難されてしまう。

 二百年以上も食事を必要としなかったアルフレッドと、屋敷で用意された食事ばかりを食べていたウォーリスは強力な能力(ちから)こそ持っていたが、料理の事など何も学んでいなかった。


 実際にウォーリスは自分の作ったスープらしき料理を口にし、思わず表情を渋らせる。

 屋敷の料理人が用意した食事とは雲泥の差がある味は、流石のウォーリスも弁明のしようが無かった。


 そんな表情を見せるウォーリスに、リエスティアは微笑みを浮かべながら伝える。


『明日からは、私が料理の仕方を教えます。その通りにしてくれないと、私の身体が帝都まで持ちません。いいですね?』


『……分かった』


 幼い微笑みながらも僅かな圧を感じたウォーリスは、それに異論を挟まずに従う事にする。

 それからウォーリスとアルフレッドは、『黒』の経験を元にした野営の料理方法を学ばされた。


 しかしその時間が、それぞれの心の距離を縮める。

 特に『友』と呼びながらも実験や鍛錬以外で接点の少なかったウォーリスとアルフレッドは、そこで初めて友情と呼べる関係を育めるようになった。


『――……ウォーリス様。あれだけ鮮やかに人は斬れるのに、なんで芋の皮はこんな切り方になるんです?』


『お前だって、剥いた皮より残ってる()の方が大きいじゃないか。だから均一に切り難いんだよ』


『私は義体(ぎたい)ですから、こういう精密動作は向いていません』


『だったら、もっと高性能な義体を作ってもらうんだな』


『ああ。この義体(からだ)なら、私が作ったモノですよ』


『……そうなのか?』


『私がまだ自分の身体を得たいと駄々を捏ねていた時期に、ゲルガルドが与えた機能(ちから)です。ある金属を使い人形を形成するだけの機能でしたが、こうした人間の姿を模った義体も作れるようになりました』


『なるほど。……そして皮膚や毛は、廃棄される実験体(モルモット)を流用か』


『そうですね。どちらも腐らぬように保存液で浸していたモノを使っています。……気味が悪いですか?』


『……いや。そういうところが、お前らしいとは思えるさ』


『誉め言葉として受け取っておきましょう』


 こうした雑談を多くするようになった二人は、今まで把握していなかった互いの不得手な部分と性格を知り、友人としての仲を深める。

 そんな二人の様子に微笑みを浮かべるリエスティアの指導により、旅の間でまともな味をしたスープを作れるようになった。


 そして本来の予定であれば一週間の旅路を超えて十二日が経過し、ようやく一行を乗せた馬車は帝都がある領内に辿り着く。

 しかし帝都に到着する前に、ある異変が起きていた事にようやくウォーリス達は気付くことになった。


『――……熱か』


『……だから、言いましたよ。……私の身体は、貧弱だって……』


『……ッ』


 止められた馬車の内部座席にて、僅かに汗を浮かべて横になるリエスティアの額に触れたウォーリスは、明らかに発熱している事を理解する。


 普通の人間とは異なるウォーリス達にとって、初めての旅路でも不調を起こすことは無い。

 しかし慣れない馬車の旅を十日以上も続けていたリエスティアの幼い身体は、その限界を示すように熱を高めていた。


 それを知った時、ウォーリスは自らの判断が過ちだったと考える。

 そうした後悔にも似たウォーリスの感情を察するように、リエスティアは熱で赤みを帯びた顔で微笑みにながら伝えた。


『貴方は、何も間違っていませんよ』


『!』


『せっかく、ここまで来たんです。ここで足を止めても、意味はありませんよ……』


『……ッ』


『――……ウォーリス様、どうなさいますか?』


 二人の声を聞くウォーリスは、この状況で二つの選択肢を迫られる。


 一つ目は、最寄りの町に向かいリエスティアを医者に診せるか。

 二つ目は、残り一日の距離にある帝都まで向かい、そこでリエスティアを診せるか。

 

 誕生日祝宴(パーティー)が開かれるまで残り三日の猶予しかない為、リエスティアを近隣の町で診せた場合、その快復を待つ事になる。

 そうなれば祝宴(パーティー)に出席できる可能性は薄まり、帝都まで来た意味を失ってしまうだろう。


 しかし一日ほどの距離にある帝都まで移動した場合、リエスティアの状態が更に悪化してしまう可能性もある。

 そうなれば最悪、リエスティアが死んでしまう可能性も考えられた。


 その決断を悩むウォーリスに、熱に苦しむリエスティアは無言で視線を向ける。

 『黒』である彼女の黒い瞳を見て、再び運命の分岐を自分に選ばせようとしているのだとウォーリスは気付いた。


 だからこそウォーリスは、鼻息を漏らしながら自身の道を示す。


『……帝都へ行こう。リエスティアは、そこの医者に診せる』


『よろしいのですか?』


『普通の町医者に診せるよりも、施設も医者も充実している帝都の方が良いかもしれない。何より、祝宴(パーティー)までリエスティアの休める時間が多くなる』


『……分かりました。では、帝都へ向けて進みます』


『頼む』


 帝都へ進路を戻すように伝えるウォーリスに、アルフレッドは従いながら馬車を進めさせる。

 そして治癒魔法が効かないリエスティアが出来る限り快適な状態になるよう柔らかな敷き布で包みながら、ウォーリスは看病を続けた。


 そして一日を掛けて、ウォーリス達は帝都まで辿り着く。

 ウォーリスは父親(ゲルガルド)が用意した偽造の身分証をアルフレッドに託し、帝都の入り口を通過して帝都内部に入った。


 しかし祝宴(パーティー)の参加者として用意されている市民街の民宿に寄らず、子供を診れる医者と病院を探す。

 それを見つけた後、祝宴(パーティー)が始まるまでの二日間、リエスティアを帝都の民間病院にて静養させる事になった。


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