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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 六章:創造神の権能

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静かなる共鳴


 魔鋼(マナメタル)で作られた新たな装備(ふく)を身に着けたマギルス達は、自身の実力以上の能力(ちから)を発揮し状況を有利に進める。

 しかし数百万人の魂と瘴気が内包した赤い(コア)をその身に取り込んだ悪魔騎士ザルツヘルムは、更なる進化を遂げながらマギルスとエリクを圧倒した。


 それに対抗して見せたのは、『赤』の七大聖人(セブンスワン)となったケイル。

 同じ七大聖人(セブンスワン)である『茶』のナニガシから会得した『(かすみ)極意(ごくい)』を用いて、無意識の境地に至りながらザルツヘルムと互角に見える攻防を繰り広げていた。


 その(かん)にエリクとマギルスは、受けた負傷(ダメージ)を各々の手段で治癒していく。

 しかし十秒にも満たぬ時間で、ケイルとザルツヘルムの戦況に変化を見せ始めていた。


「ッ」


「フッ」


 今まで紙一重で攻撃を避けていたケイルの左脇腹に、ザルツヘルムの剣が(こす)れる。

 魔鋼(マナメタル)装備(ふく)故に斬られてはいないものの、その威力はケイルの肉体に痛みを与えた。


 その痛みが無意識で戦うケイルに意識を与え、僅かに動きを鈍らせる。

 ザルツヘルムはその隙を見逃さず、コンマ一秒にも満たぬ時間で夥しい斬撃を浴びせた。


 それを避けながら受け流そうとしたケイルだったが、それを完全には成功させられない。

 右籠手と左肩、そして右脚の三箇所に先程より深い斬撃を受けると、薄れたケイルの表情に苦痛の色合いが深まった。


「グッ!!」


 強まる痛みによって無意識に至れる『(かすみ)極意(ごくい)』は解け、通常のケイルへ状態が戻る。

 そのあまりに大きな隙をザルツヘルムは見逃す気も無く、右脚で蹴りを放ちながらケイルの腹部に強力な殴打を浴びせた。


「ガ……ゥ……ッ!!」


 ケイルは強烈な痛みに踏み止まれず、大きく上体を前に傾けながら蹴り飛ばされる。

 そして階段に背中を激突させながら、そのまま中空を跳ねながら外周(そと)側へ吹き飛ばされた。


 それを見たエリクは起こし掛けていた身体と傷みを乗り越え、膝を立たせながらケイルの方へ走る。


「ケイルッ!!」


 重い一撃によって完全に意識を失っているケイルは、そのまま大階段の外側へ落下していく。 

 それを防ぐように追い飛ぶエリクは、ケイルを左腕に抱きながら装備(ふく)に備わる効力(ちから)を発動させた。


 エリクの身体全体に白い光が灯り、落下するはずの身体を空中に留める。

 魔鋼(マナメタル)装備ふくに付与された効力(ちから)が浮遊を可能とし、辛うじて落下は免れた。


 しかしそれを許さぬように、ザルツヘルムは剣を持たない左手を浮遊するエリク達に向ける。

 そして膨大な瘴気(オーラ)を集束させた黒弾(タマ)を生み出し、それに気付いたエリクは安堵する間も無く表情を強張らせた。


「クソッ!!」


「共に逝け――……むっ」


 瘴気の黒弾を放とうとしたザルツヘルムだったが、真横から青い魔力斬撃(ブレード)が迫る。

 それに気付き迎撃を選択したザルツヘルムは、左手の平に浮かぶ黒弾を迫る魔力斬撃(ブレード)に放った。


 瘴気(オーラ)の黒弾と青い魔力斬撃(ブレード)が交じり合い、凄まじい爆発と爆風を生み出す。

 その衝撃によって中空に浮遊するエリクは、ケイルを抱えたままエリクは僅かに後退させた。


 しかし僅かも動かずにその場に留まるザルツヘルムは、魔力斬撃(ブレード)を放った人物に声を向ける。


「まだ戦えるか? 少年」


「――……余裕だね……!」


「そうか。私もようやく、この身体(しんか)に慣れて来たところだ」


「うぇ……っ」


「さぁ、私という『悪魔(バケモノ)』に抗え。――……それがお前達、人間(にんげん)の務めだ」


「……『精命武装(アルマウェポン)戦闘形態(バトルモード)』ッ!!」


 ザルツヘルムは肉体に内包する瘴気(オーラ)を放出し、凄まじい威圧感と殺気を放つ。

 それを真正面から受けるマギルスは、口から漏れ出る血と左頬に流れる汗を左手で拭い、魔力と生命力で形成した『精命武装(アルマウェポン)』を身に纏った。


 そして二人は右足で階段の床を蹴り上げ、互いに上下に迫りながら激突する。

 それから再び互いの武器を激突させながら肉薄した二人は、異次元の接戦を繰り広げ始めた。


 それを見下ろす形になっているエリクは、気絶しているケイルを安全と思える場所まで浮遊しながら運ぶ。

 そして巨大な門が聳える最上段の踊り場に足を着けたエリクは、抱えたケイルを床に置きながら声を掛けた。


「ケイル。……ケイル」


「……ぅ……っ」


「生きている……だが……」


 ケイルが息を残している事を確認したエリクだったが、その状態が芳しくない事を察する。


 瘴気の剣を受けた場所自体は魔鋼(マナメタル)装備(ふく)で防がれている為、肉体が瘴気に汚染された様子は無い。

 それでも装備(ふく)の内部に届く衝撃までは吸収できず、右腕と左肩、そして右脚の三箇所は骨折しているのがエリクにも理解できた。


 それより更に深刻なのは、最後に受けていた腹部への殴打(けり)


 自分達ですら直接的には受けていない殴打で数秒間も悶絶したザルツヘルムの殴打を、ケイルはまともに受けてしまっている。

 更に魔鋼(マナメタル)で出来た階段に激突し宙に跳ね飛ばされる程の衝撃は、ケイルに重大な負傷(ダメージ)を与えていた。


 攻撃を受けた腹部の内臓は損傷し、口から血を吐き出させている。 

 それでもケイルの右手に握られる長刀を見て、エリクは苦々しい表情を浮かべた。


「……すまない……っ」


 自分達を庇い悪魔(ザルツヘルム)と真正面から対峙したケイルは、その宣言通り起き上がれるまでの時間を稼ぐ。

 しかし下段(した)で繰り広げられる激闘は、悪魔として更なる進化を果たしたザルツヘルムの実力(ちから)が、自分達を遥かに上回っている事を否応なく感じさせた。


 ウォーリスを討つ為に出来る限り寿命(ちから)を温存したかったエリクだが、例え自分の寿命(いのち)を使い果たしてもザルツヘルムに及ばない事を察する。

 それでもエリクは諦めようとせず、ザルツヘルムを討つ覚悟を持ちながら膝を立たせた。


「……せめて、奴を討たなければ……。……俺の寿命(いのち)()えても……」


 エリクはそう呟き、自身の肉体を生命力オーラで強める。

 そして自身の課した『制約(ルール)』によって自らの寿命(いのち)を削り、横たわるケイルを飛び越えながら階段を駆け下りた。


 すると生命力(オーラ)を纏わせた大剣を上段へ振り翳し、マギルスに大声で呼び掛ける。


「マギルスッ!!」


「!」


「むっ!!」


 後背(うしろ)から放たれるエリクの大声に気付いたマギルスは、ザルツヘルムを押し込みながら物理障壁(シールド)を足場にして真横に飛ぶ。

 そして大階段の上で一人になった瞬間のザルツヘルムを狙い、エリクは自身の寿命(いのち)を乗せた気力斬撃(ブレード)を放った。


 身に着けている装備(ふく)によって更に強化された気力斬撃(ブレード)は、凄まじく威力となって瞬く間に大階段ごとザルツヘルムを飲み込もうとする。

 しかしそれに対抗するザルツヘルムは両手で生み出した瘴気の黒弾を放ち、エリクの気力斬撃ブレードに迎撃して見せた。


 真逆の性質である白い生命力(オーラ)と黒い瘴気(オーラ)が激突し、相反するように巨大な爆発が起こる。

 その衝撃が起きた大階段の床上では、僅かに肉体が削げるように負傷したザルツヘルムと、階段を背もたれにしながら床に腰を付けるエリクの姿があった。


 ザルツヘルムは傷こそ負いながらも、その表情に怯みや淀みは無い。

 逆にエリクは疲労の表情を浮かべながら息を乱し、互いに顔を見合った。


「――……ハァ……ッ。……ハァ……ッ!!」


「……なるほど、ウォーリス様と対峙するだけの事はある。……だが、私の瘴気(いのち)を刈り取るまでには至れない」


 ザルツヘルムはそう言いながら瞬く間に傷を修復し、元の状態へと戻る。

 対するエリクも身体を起こし、再び階段に立ちながら大剣を構えた。


 そして物理障壁(シールド)を足場に離れていたマギルスは、再びエリクが立つ階段まで戻る。

 すると互いに並び立ちながらザルツヘルムへ向き合い、エリクとマギルスは小さな声で話を交えた。


「おじさん。さっきと同じ気力斬撃(こうげき)、あと何発くらい撃てる?」


「……あと、五発か六発だ」


「じゃあ、僕が合図したらまた撃って。僕もおじさんに合わせて、全力の魔力斬撃(ブレード)を撃つから。……その前に、向こうが迎撃できない状況まで追い込むよ!」


「分かった」


 マギルスの作戦にエリクは頷き、二人は互いに肉体能力を高めながらザルツヘルムに迫る。

 それを待ち構えるように両手に瘴気の剣を生み出したザルツヘルムは、ニ対一の状況ながらも互角以上の接戦を行い始めた。


 そうして下段(したがわ)でエリクとマギルスが激戦を繰り広げる中、横にされているケイルの後ろ腰部分に奇妙な共鳴音が鳴り響く。

 そこにはケイルが持っていた魔剣が備えられており、その魔剣に嵌め込まれた赤い宝玉が光を強めながら、何かと通じるように共鳴音を発していた。


 こうして悪魔として更なる進化を見せたザルツヘルムを倒す為、エリクは自身の寿命(いのち)を賭した戦いを再開する。

 その傍らでは、彼等ですら予期していない事が起きようとしていた。


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