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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 五章:決戦の大地

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残された身体


 遺跡内部でアルトリアを発見したエアハルトは、彼女を目的とする【魔王】と遭遇する。

 【魔王】が求めるアルトリアの引き渡しを拒否したエアハルトは、黒い人形に追われながら遺跡内で逃走を始めた。


 しかしその途中、新たな衝突がエアハルトに訪れる。

 それは同じく遺跡内部に潜入していた干支衆の『(うし)』バズディールと『(さる)』シンであり、彼等もまたアルトリアを殺す為にその身柄を引き渡すよう求めた。


 それも拒絶したエアハルトは、干支衆の二人を相手に敵対しながら身構える。

 それに応じるように身構えた干支衆も、容赦の無くエアハルトと共にアルトリアを殺す決断をした。

 

 迫るバズディールとシンは二人同時にエアハルトへ襲い掛かり、互いに拳と武器を振るおうとする。

 しかし次の瞬間、エアハルトの背後から凄まじい数の魔弾が照射されながら迫る干支衆の二人を襲った。


「ヌッ!!」


「うわっ!!」


「……お前は……っ!!」


 浴びせられる魔弾に一早く気付いたバズディールとシンは、互いに魔力障壁を全面に張りながら浴びせられた魔弾を防ぐ。

 一方で振り向いたエアハルトは、背後から歩み寄って来たある人物に気付いた。


 それは振り切ったと思っていた、【魔王】と自称する人物。

 【魔王】はあの状況からエアハルトの背後まで追い付き、両手の指から放つ魔弾で干支衆達の攻撃を一時的に退けた。


 背後から歩み寄る【魔王】に対して、エアハルトは警戒心を持ちながら壁側へ身体を引かせる。

 そして干支衆達に魔弾を撃ち続ける【魔王】は、エアハルトの目の前まで歩み寄りながら言い放った。


「――……一人(ひとり)で突っ走るのは勝手だけど、こっちの迷惑も考えなさいよね!」


「なにっ!?」


「アンタだけで、この遺跡(なか)を切り抜けるのは不可能よ。オマケに干支衆(むこう)まで敵に回して、生き残れるはずがないじゃないのよ!」


「……ッ」


「私の義体(からだ)を掴みなさい。そうすれば、安全な場所に転移で連れていけるわ」


「……あと一人、女が捕まっているはずだ」


「そっちは私に任せなさい」


「……貴様が信用できる証拠は?」


「無いけど? それなら諦めて、その子と仲良く一緒に殺されたいわけ?」


「……ッ」


「ほら、向こうからも……! 早く決めなさいっ!!」


 【魔王】は変わらぬ機械的な声ながらも、怒鳴るような口調でそう告げる。

 それを聞かされていたエアハルトは、【魔王】が来た方角から黒い人形達が再び迫っている音に気付いた。


 左手と右手を前後の通路に向けた【魔王】は、干支衆と黒い人形に向けて魔弾を放ち続ける。

 それを見ながら苦慮の表情を浮かべるエアハルトは、苦々しい声色で【魔王】へ返答した。


「クソ……ッ。……分かった、連れていけっ!!」


 【魔王】の申し出を受ける事を選んだエアハルトは、アルトリアの両腕を掴んでいた固定していた右手を離す。

 そして【魔王】に歩み寄りながら右腕を伸ばし、その右肩に手を置きながら口を開いた。


「触れたぞっ!!」


「はいはい! ――……行くわよっ!!」


「!」


 エアハルトが自分に触れたのを確認した【魔王】は、その義体(からだ)を白い魔力の輝きで包む。

 すると接触しているエアハルトにも白い魔力が及び、電撃を纏っている肉体を覆い始めた。


 しかし白い魔力(ひかり)がアルトリアも包もうとした瞬間、その身体に刻まれた呪印が反応を示す。

 接触する魔力に反応するように呪印が突如として(うごめ)き出し、アルトリアに苦痛の声を漏らさせた。


「ぅ、ぁ……っ!!」


「!」


「しまった、呪印(じゅいん)っ!?」


 アルトリアの異変に気付いたエアハルトと【魔王】は、互いに黒い呪印の蠢きを確認する。

 今まで長い金髪や衣服、そしてエアハルト自身の身体で大部分が隠されていた為、その身体に呪印が施されているのに【魔王】は気付いていなかった。


 しかしこの状況に至り、アルトリアに呪印が施されている事を【魔王】は察する。

 その効能がどのような事態を招くのかも察するように、【魔王】はエアハルトへ叫んだ。


「その子を離しなさいっ!!」


「なっ!?」


「呪印が発動してる! このままだと、私の義体(からだ)にも――……ッ!!」


 【魔王】がそうした警告を叫ぶより早く、アルトリアに施された呪印が動き出す。

 転移魔法に反応した呪印がその術式を発動させている【魔王】に迫り、魔力を循環させる術式そのものを呪印の瘴気で汚染しようとした。


 そしてエアハルトを素通りしながら【魔王】の義体に接触した呪印が、右肩を通じて義体の術式を浸蝕し始める。

 すると【魔王】の状況に異変が起き、両手から放たれていた魔弾が止まりながら機械的な声が荒れるように変化し始めた。


「ァ、ァウ……ッ!!」


「おいっ!?」


「……コ、ノォ……ッ!!」


 呪印の瘴気に侵され始める義体(からだ)に対して、【魔王】はそれに抗うような様子を見せる。

 そして自らの義体を凄まじい魔力で覆い始め、アルトリアやエアハルトを含む周囲一帯を球体状に包み込んだ。


 すると呪印はそれ等の魔力に反応し、白い球体状の魔力を覆うように浸食し始める。

 自身の義体から呪印の目標を変えさせた【魔王】は、その隙を狙うようにエアハルトに叫び伝えた。


「エアハルトッ!!」


「!」


「今から飛ばす場所には、私の仲間がいる! アンタも知ってる奴よっ!!」


「何を言って――……っ!?」


「後は、そいつから事情を聞きなさいっ!!」


「!」


 【魔王】はそう叫びながら、右手を動かしエアハルトの身体を掴み引きながらアルトリアの身体と引き離す。

 するとエアハルトだけを転移魔法の魔力で包み、眩い程に光らせ始めた。


 次の瞬間、エアハルトだけがその場から消える。

 残っているのは【魔王】の義体とアルトリアだけとなり、白い球体状の魔力内部に留まる形となった。


 そしてアルトリアの顔を見ながら膝を曲げて屈んだ【魔王】は、こうした言葉を漏らす。


「……こうなったら、アンタに賭けるわ。……後は、ちゃんとやりなさいよ……」


 そうした言葉を意識の無いアルトリアに向ける【魔王】は、左腕の肌となっている金属を外しながら中から白い魔玉の付いた短杖を取り出す。

 すると短杖が光の粒子状となり、それがアルトリアの身体に注ぎ込まれるような光景を見せた。


 その粒子が全てアルトリアの身体に移った瞬間、【魔王】の義体(からだ)が脱力する。

 すると顔の瞳部分に宿る赤い光が消え、【魔王】の義体(からだ)はその場で横たわれるように倒れた。


 二人を纏っていた球体状の白い光も消え、行き場を失った呪印が再びアルトリアの肉体へ戻る。

 それから黒い人形達は倒れているアルトリアを無視するように突き進み、干支衆達の方へと襲い掛かった。


 しかし別の黒い人形達がその場に現れ、アルトリアを確認すると意識の無い身体を抱え持つ。

 するとその黒い人形達はその場からアルトリアを連れ出し、何処かへ連れて行くように歩き始めた。


 こうして救い出されそうだったアルトリアの状況は一変し、傍に居たエアハルトが遺跡から離れてしまう。

 そして黒い人形達が徘徊する遺跡内部に取り残されたアルトリアは、再び敵の手中に捕らわれたのだった。


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