オマモリ
一瞬にして飛んだ意識の先は再びはるかの幼い頃の記憶だった。
今度は当時の自分とはるかが会話している様子が見えた。
過去のヒロムの掌には紺色の小さな袋が納まっていた。
幼いはるかは嬉しそうに言った。
「これ、あげる。おばあちゃんがつくったお守りなんだ」
指で弄ると中には球状のものが入っていた。
「この中には何が入っているのだ・・持っているだけで体中が温かいのだが」
「持ち主を大切にしてくれる石が入ってるんだって」
「そうか・・ありがとう」
ヒロムはお守りを愛おしそうにしばらく眺めた後、大事にワイシャツの胸ポケットに仕舞った。
「ところで、お兄ちゃんは誰なの?」
「わからない・・私はメンテロイドだから家族はいない・・行く場所も・・私は孤独だ」
はるかは自身の孤独に影を落とし俯くヒロムの脚にしがみついた。
顔を押し付け、彼の黒いズボンの裾が濡れた。
「ねぇ、それならあたしのそばにいて・・ずっといてほしいの・・どこにもいきたくない・・ひとりはやだ!」
たった五歳の少女が抱えるに重すぎる孤独が彼の脚に伝った。
ヒロムは涙を流しはるかを強く抱きしめた。
「キミはひとりじゃない・・私ははるかの友達だ・・だから一緒に居よう・・だから・・もう泣くな!」
そう言いながら子供のように一緒に泣き散らした。
暫くして泣き疲れたはるかはヒロムの膝枕で眠りに落ちた。
彼は寝静まったはるかの安らかな寝顔を眺め、黒く長い巻毛を撫でながら鼻歌を唄った。
姿は見えないがその様子を眺めていた現在のヒロムは背後から二人を腕で包んだ。
彼の心臓から青白い光が再び脈動した。
(そうか・・思い出した!私の中にはお守りが入っているのだ)
光が呼ぶように次第に辺りが明るくなってきた。朝が来たのだ。
目が覚めたはるかは目を擦り当時のヒロムに言った。
「おばあちゃんが心配してるから帰らなきゃ」
「そうだな。またここで遊ぼう」
(お願いだ、はるかを引き留めてくれ)
現在のヒロムは必死に過去の自分に訴えたが聴こえはしない。
(離れてはいけない!ここに居なきゃだめだ)
声が届く訳もなく二人は服に着いた煤を掃った。
はるかはヒロムの腕に絡み無邪気に話しかけた。
「また会うときに家からお菓子いっぱい持ってきてあげる。いっしょに食べよ」
「それは楽しみだ。ここで待っているからいつでもおいで」
焦ったヒロムは洞窟の出口に向かうはるかの肩を掴もうとしたがすり抜けて行った。
何も知らない二人は取りとめのない会話を楽しみながら洞窟から出た。
「またあしたね」
また明日会えると信じて疑わない二人は満面の笑みで別れた。
(戻ってこい・・はるか!)
はるかが大きく手を振った瞬間、黒い巨大な手が彼女を包んだ。
すると突風が現在のヒロムを襲い、抵抗する間もなく吹き飛ばされた。