目を閉ざして
ヒロムは真っ暗闇で聴こえる自分の鼓動に目を覚ました。
「・・俺は、死んだのか?」
どこからか特徴のない声が応えた。
「いいえ。そのままこっちにおいで」
しばらく歩くと巨大な鳥が青白く燿る翼が折りたたまれた状態でガラスのカプセルの中で蹲っていた。声の主はこの巨大な鳥のようだ。
「私はサンダーバード。人類の文明に生きて共に消えゆく運命の鳥」
彼は身を乗り出した。
「サンダーバード・・教えてくれ!どうしたらメンテロイドはカミサマになる運命から逃れられるのだ!・・そのせいで仲間は心を傷つけられ壊された」
鳥は女のような艶やかに妖しげな目でヒロムを見つめ、応えた。
「人間は知恵を得てここに至るまでに数千年かかった。だが貴方たちはたった数十年で人並みの知恵を得た。そのおかげで心は赤ん坊のように未発達で純粋で幼い・・それがどういう意味か、お分かりでしょう?」
「知るものか!そんなことで豚のように絞められるために生まれたはずじゃないのに・・なぜ」
サンダーバードは葛藤する彼を見て笑った。
「やっぱり貴方は赤ん坊だわ。いずれ自分の運命を以て知ることになるでしょう。そのときになれば答えが否でもわかるはずよ」
突然、目の前が暗くなりサンダーバードは何も言わなくなった。
「待ってくれ!」
暗闇でただ一つ、ヒロムの心臓から青い光が脈打っている。
一人になった彼は暫く暗闇を歩き続けた。
すると目の前にあの妖精の人形が現れた。
「ロビーニャ、なぜここにいるんだ。陽子ちゃんのところに帰ったはずじゃ・・」
瑠璃ガラスの眼が細くなった。
「私はそんな名前じゃない。どうやらまた忘れたようね」
「またって・・どういうことだ」
人形はくるりと回った。
「また、よ・・」
そう言うと人形から眩い光が広がった。
気が付くとヒロムはひとりで奇夜石の洞窟にいた。
微かに誰かの泣く声がする方へ辿り奥の方へ進んでいった。
「キキ怖いよ・・」
声が近くなり灯りを向けると、目を真っ赤にした少女が傷だらけの妖精の人形を両腕で強く抱いて座っていた。
どうやらひとりで洞窟に迷い込んだらしい。
「何故泣いている」
「・・さむくて・・さみしくて・・こわいよ・・でも・・・・お家に帰りたくない」
少女はしゃっくりを繰り返しながら応えた。
「そうか・・ひとりで辛かっただろう」
彼はボロボロの人形に目を遣った。
「この子、壊れてるじゃないか。治してあげるから泣くのをやめてこっちに渡しなさい」
始めは人形を強く抱きしめて警戒していたが、彼の目を見ると渋々渡した。
ヒロムは慣れた手つきで人形の傷を鑢で研ぎ、四肢の継ぎ目に詰まった小石を取り除いて動きが滑らかになるように直した。
元通りになった人形は嬉しそうで、少女は頬に赤みを取り戻し笑顔になった。
「ありがと!お兄ちゃん」
少女はヒロムの脚に飛びつきさっきの泣き顔が嘘のようにケラケラ笑った。
無邪気な反応に彼はどうしようもなく、困惑した表情で立ち尽くした。
「とりあえず降りてくれないか。重たくて脚が折れそうだ」
少女はぴょんと降りて赤いワンピースの泥を掃った。
「ごめんね、だって新しいお友達ができてうれしかったもん」
「お友達?・・私が?」
「そうだよ。あ、名前言うの忘れてた。あたしの名前はね・・」
・・いのお はるか
ヒロムは目を見開き、視界からフェードアウトする少女を追いかけた。
はるか・・!