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ThunderBird-明日の約束-  作者: 椿屋 ひろみ
6/16

スクラップ

 次の日、ヒロムは鼻を刺すケミカルの臭いと肺が黒くなってしまいそうな空気に咳込み目を覚ました。


「ああ、臭いし気持ち悪い。こんな公害だらけの工場を行き来する仕事、早く辞めてぇな」

 監視役が椅子に腰かけ、顔全体を覆うガスマスクをしてぶつくさ独り言を呟きながら窓の外を眺めていた。


 砂埃の靄から大きな城のような再生工場が現れた。

橋の下では泡立つ絶望的なメチルレッドの川が淀んでいた。


 橋を渡り警官に銃を突き付けられながら車を降りるとメンテロイドの長い行列ができていた。

「そこに並べ。絶対に外れるな」

二人は渋々メンテロイドの列に並び、手持無沙汰に前に並んでいる者を眺めていた。


 ハカセは前にいるヒロムの服の裾を引っ張った。

「あの人たち、なんだか嬉しそうだね」

ヒロムは小声で応えた。

「そりゃ生まれ変わりたいからだろう?それを嫌がっているのは私たちぐらいだ」


 それから数時間が過ぎ、徐々に先頭が見えてきた。

 作業員に誘導され順番に十人ずつカーボンベルトで両腕を繋がれ目隠しされ、大きなベルトコンベアに乗って黒いカーテンの向こうに流れていく。


 ハカセはその光景に眉をひそめた。

「なんだか不気味だなぁ」

「とりあえず中に入ったら逃げる通路を探そう。下手にこの場で逃げるよりその方が賢明だ」

コンベアに乗る順番が来て彼らは黙って乗った。


 激しいレーンに揺られながらカーテンの向こうのけたたましいチェーンの音と金属の臭いが充満する部屋に流れて行った。

ハカセはこっそり隠し持っていた針金でカーボンベルトを切った。

目隠しを取り、辺りの光景を目の当たりにした途端、驚愕した。

「一体何があるのだ」

彼のただならぬ様子を感じたヒロムは振り返った。

「・・気を確かに持つのだよ」

ハカセは震える手でヒロムの手錠と目隠しを切った。


やはりヒロムはその光景に目を見開いた。


 そこは精肉場宛らのメンテロイドを解体する機械が並ぶ部屋だった。

「他の人にも知らせなきゃ!」

ハカセは後ろのメンテロイドの目隠しを切ろうとしたが嫌な顔をして振り払われた。

「やめてよ!これじゃあ生まれ変われなくなっちゃうじゃないの」

「そうじゃないんだ・・ここは」

言いかけるとヒロムは後ろからハカセの肩に手を乗せた。

ハカセが振り返ると、彼は黙って首を振った。

「・・わかったよ」


 コンベアの隣のレーンで何やらメタルレッドのどろどろした液体が逆向きに流れていた。

ハカセはがくがくと震えながら上を指差した。

「・・あれを見ろよ」

ヒロムは指差す方を見ると、濃硫酸と濃硝酸のタンクがそれぞれ彼等の口に入るパイプに繋がっていた。

「王水!こんなもの飲まされたら堪ったものじゃない。内部の部品がみんな溶けてなくなってしまう」

彼が言った通り、パイプの液体を口に流し込まれたメンテロイドは煙をあげて目隠しを突き抜けて目が飛び出し内部の部品があらゆるところから流れ出た。


「とりあえず逃げよう。ここに居てはいけない」

ヒロムはハカセの腕を掴みコンベアから飛び降りようとした。だが、ハカセの眼は死神に憑りつかれたように生気が失われていた。

ハカセは淋しそうに笑いながら「また、会おう」と言ってヒロムの体を突き倒した。


 コンベアから落ちたヒロムはカーテンで隠れた次の部屋に続くコンベアに着地し流れに逆らって進んだ。

「ハカセ・・ハカセ・・」

 ガラガラと派手な音をたてて大量の鉄くずが大河のようにコンベアで運ばれる中を掻き分け、ハカセを探した。


 溶けきった無念そうな顔の残骸がちらほら見え、目も当てられない光景が続いた。

「まるで地獄だ!どこが再生なんだ」


 足元でハカセの腕を見つけたのですぐさま持とうとしたが、内部が空洞の人形のようになってしまったため触れただけでいとも容易く砕けてしまった。

酷く驚いたヒロムは後ずさりして叫びだしそうになった。


その途端、どこからか何かが折れる鈍い音がした。

彼は異変に気付き、メンテロイドの部品で埋まっている自分の脚をあげようとしたがやけに軽く引っ張ってみると膝から先が銅線だけになっていた。

「脚がない!」


 必死になってバラバラ死体の海の中を探したがうまく動けず、腕だけで進むと自分のものらしき白い脚が見えた。


 手を伸ばすともう少しのところで分かれ道になり脚は別のラインに運ばれていった。

 そして数メートル先のチェーンに巻き込まれ、脚はいとも容易く激しい音をたてて砕け散った。

それを目の当たりにして力尽き完全に身動きができなくなった彼はそのままカーテンの向こうに運ばれていった。


「う・・嘘だ・・」

その先にコンベヤはなく彼は勢いをつけてメンテロイドの破片もろとも外に放り出された。

風を受けて落ちてゆく間、思いもしなかった光景が広がっていた。


「再生する・・ってあれは嘘だったのか」

それは果てしなく積み上げられた粉々になったメンテロイドの鉄片スクラップの山だった。

彼は数メートルの高さからスクラップの山に叩きつけられた。

まだ上からメンテロイドの肉片が降り続いている。

ヒロムは自分の仲間の死骸に埋もれながら孤独に死んでゆくことに絶望し、静かに目を閉ざした。

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