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ThunderBird-明日の約束-  作者: 椿屋 ひろみ
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運命からの逃走

 それから一時間後、はるかと角さんがやってきて彼を待った。

最初は何度も背伸びして彼が現れるのを待っていたが、日は知らず彼女たちの真ん前を通ろうとしていた。

はるかは未だ来ない彼に溜息をついた。

「遅いな・・夜明けはとっくに過ぎてるのに」

能天気に朝食のパンを食べながら角さんは応えた。

「新聞屋の主人と揉めてるんじゃない?」


「おぅい、二人とも!」

遠くから貴志がやってきてはるかの前で息を切らせた。

さっきの険が嘘のように優しい顔ではるかたちに話しかけた。

「ヒロムって黒ずくめで白い肌の子かい?」

「そうよ。なんで知ってるの?」

「たった今、俺に新聞屋は辞められないって言って去ったよ」

「え?・・本当に?」

はるかはショックのあまり口を押えた。

隣で角さんは彼女の背中を撫でた。

「落ち込まないでよ。きっと事情があるのよ」

慰められている間、ポケットに入れた奇夜石を握りしめて何度も会いたいと願った。


 一方、護送車に乗せられたヒロムは舗装されていない道に揺られ膝を立て暫く蹲った。

するとそれを見ていた丸眼鏡をかけたぶかぶかの学生服に着られているようなやせっぽちの少年が声をかけた。

「やあ、ここから脱走したくないかい?」

場違いな程明るい口調に話す気にもなれず無視した。

「ねぇ・・ねぇったら」

何度も揺すっても反応しない彼に痺れを切らせた少年は脇をくすぶった。

ヒロムは思わず笑い転げた。

「やめろよ、くすぐったいじゃないか!」

「やっと応えてくれた。僕と逃げないかい?」

「逃げる?ここを・・か?」

「そうだよ。こうなるまで逃げる方法を考えてきたんだ。ボクに着いてきたら間違いなく逃げ切れるよ」

「本当に?」

「疑われるなんて心外だなぁ。ボクはこう見えて小学校一正直者で有名だったんだよ。信じないなんてにんげんふしんにもほどがある」

彼の胸に着いている名札にはハカセと書かれていた。

ヒロムは彼のたどたどしい物言いに可笑しくなりまた笑った。

「キミがそこまで言うなら・・」

ハカセにそっと手を差し出した。

「そうこなくっちゃ!よろしくね」

彼は嬉しそうに飛び跳ねながら両手で握手した。


 隅で金髪の巻毛を垂らしたサファイアの目の少女がしくしく泣いていた。

無理矢理連れて行かれたのか、赤い別珍のワンピースがボロボロになっていた。

「陽子ちゃんに会いたいよ」

それを見たハカセはその子に声をかけた。

「泣くのはやめなよ。一緒にここから出よう」

べそをかきながら彼の方を見て小鳥のような可愛らしい声で応えた。

「わたしの名前はロビーニャ。世界で一番美しい国から来たメンテロイド。よろしくね」

ロビーニャは砂糖菓子のようにきれいな手で二人に挨拶の握手をした。

「他に逃げたい人はいないかい?」

ハカセの呼び声に応じる者はなく、しんとしていた。

ひとりのメンテロイドが冷めた目で応えた。

「何故逃げる必要がある。これから生まれ変わりに行くのよ。現世にしがみついてどうするの?」

「そんな・・でも君たちも大切な人に愛されてきただろう?それなら愛する人の元に帰ろうよ」

窓の外を眺めていたメンテロイドはハカセの言葉を聴いて鼻で嗤った。

「君たちは何も知らないようだね。カミサマになってしまえばその愛する人もろとも傷つけることになる。それでも逃げたいの?」

「世界は広いからカミサマにならない方法がきっとどこかにあるはずだよ。僕の先生が言ってた。だから僕は探しに行く」

ハカセの分厚い眼鏡に見える目は希望で輝いていた。

「ふぅ・・ん、それなら好きにすればいい。だけど保証期限の切れたメンテロイドがこの世界でどんな扱いを受けるのか・・ああ、嫌だね」

「それじゃあ君達はそのまま大人しくしているがいい。今に見てろ!」

ハカセは眼鏡に隠していた針金で器用に鍵をこじ開け扉を開けた。

赤信号で止まったので三人はすぐに飛び降り一目散に走った。


「脱走した!壊せ!」

警官の声と共に車窓から彼等目がけて銃弾が飛んできた。

散り散りに逃げ纏う二人にハカセは呼びかけた。

「あの川の向こうに奴らが入れない場所がある。そこに着くまで絶対に離れちゃだめだよ!」

 護送車が田圃の一本道をUターンしている隙に三人は川に飛び込んだ。

思う以上に深く流れの速い川を二本の脚だけで踏ん張りながら一列にゆっくり進んでいった。

川の真ん中になると余計に流れが速くなり、ヒロム以外の幼い二人は今にも流されそうになっている。

「もう・・だめ・・」

一番後ろにいたロビーニャが流れに足をとられ溺れた。

「ロビーニャちゃん!」

それに気づいたハカセはすぐに助けようとしたがヒロムは押さえて川に腕を突っ込んだ。

彼の腕から電流が流れ激しい痛みが襲ったが、もがいているロビーニャを抱き上げた。

「早く・・進むぞ!」

ハカセは視線のすぐ先にある寺の門を指した。

「あの門をくぐれば助かるよ!」

後ろを振り返ると、方向転換を諦め車から飛び降りて川に潜った数人の警察が迫ってきた。


「まずい!早く門の向こうに飛び込め!」

ハカセは川から上がって息を切らすヒロムを押して三人は門の向こうに飛び込むように入った。

「とうとう着いちゃったね。覚悟はいいかい?」

遠くで聞こえる喧噪の声にヒロムは身震いした。

「新聞でよく見る地区だけど・・嫌な予感がして仕方ない」

ロビーニャは固唾を飲み、ヒロムの手を握った。

「でも、みんな優しくしてくれるかもしれないわ。行ってみましょ」


 門の前で立ち往生している警官を背に三人は門の向こうへ進んだ。

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