民宿にて
三人は民宿に帰り、食堂でレトルトのカレーを食べた。
カレーを早々と平らげた角さんは驚いて思わず大声になった。
「え?謎の美青年に遭遇したって?」
はるかは嬉しそうにさっきまでのことを話した。
「仲間に入れていいかな?表情は乏しいけどすっごく紳士的なんだ。絶対に角さんも仲良くなれるよ」
「えっ本当に?美少年かぁ・・早く会いたいな」
角さんはどんな美形なのかわくわくしながら想い巡らせた。
今まで話の外にいた貴志ははるかに訊いた。
「ところで、その青年ってなんて名前なんだ?」
「瀬戸 ヒロム。新聞屋さんで働いてるんだって」
「そう・・か。明日会えるといいな」
笑顔で応える彼の持つスプーンが震えていた。
一方、この村で拓けた地区の場末にある新聞屋の女主人は煙管をポンと叩いた。
豊かな胸を曝け出した香水臭い娼婦のような出で立ちの彼女は見た目と反して腕利きの経営者だ。
真っ赤な唇から紫煙をぬらぬらと吐き出し、部屋の隅で突っ立っているヒロムに言った。
「辞めちまうのか。身寄りのないあんたを引き取ってくれるなんて物好きもいたもんだ」
紫のアイシャドウが厚く塗られた切れ長の目で睨まれ、歯切れ悪く応えた。
「はい・・すみません」
「謝ることないさ。あたしはただ拾っただけだよ。あんたがそこに行きたいなら別に引き留めはしないよ。まあせいぜい新しいところで頑張るんだね」
「お世話になりました」
ヒロムは深々とお辞儀をしてその場を去った。
部屋で一人になった主人はまた煙草を吹かして分厚い台帳を開き、遠い目をした。
「最後まで懐かなかったわね。でも珍しく美人な男だったわ・・次を探さなきゃ。まぁこんな麗人はもう来ないだろうけど」
次の日、生まれて初めてであろう冷めやらぬときめきに眠れず、待ちきれなかったヒロムは日が昇る前に約束の場所を急いだ。
息を切らせあの洞窟の前でひたすら懐中時計を眺めてはるかたちが来るのを待った。
「瀬戸君、ですか?」
聴き慣れない男の声がしたので振り向くや否や頬を殴られ地面に倒れた。
頬を撫で見上げると背の高い男が嫌悪の眼でこっちを見ていた。
「僕ははるかの婚約者の堂本 貴志だ・・彼女から離れてくれ」
「離れる?私ははるかの友達になるためにここに来た。離れる意味が分からない。キミも友達なら仲良くなりたい」
頭で理解はしていても、彼の純粋な無知が貴志の憎しみの念を肥大させた。
貴志は握り拳に力を込め、さらに彼を殴り続けた。
「どうして・・なんで・・痛い」
絶え間ない暴力に抵抗ができず小さくなる彼を見下ろし、にやりと笑って応えた。
「君はそういうことだったのか。安心したよ」
ヒロムはふと自分の右腕を見ると傷口から電流が走った緑の基盤が曝されていた。
「機械・・?なんで?」
貴志は恐怖に仰け反る彼を鼻で嗤った。
「保証期限外のメンテロイドだ!早く撤去しろ」
周りに向かって叫ぶと偶々近くのパトロールをしていた警官二人が駆けつけ、一斉にヒロムを取り押さえた。
「嘘だ!はるかにあわせてくれ!友達になりたいんだ」
頭をあげて必死に抵抗した。
すると貴志は冷めた目で言い放った。
「何度言ったって無駄だ。おまえの友達になるつもりはないし、はるかは誰にも渡さない」
その一言でヒロムはすべてを悟った。
気づくも既に遅く、警官に頭を押さえつけられ力づくで護送車に乗せられた。