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ありきたりな異世界での日常  作者: 自動壊腹
第一章 仲間との出会い
6/10

仲間達と『規則』

前回よりか短いです!

読んで頂ければ幸いです。


んじゃ、本編どーーぞ!

「そんじゃぁ、解散ってことで」


 話を終え、ダイニングから次々と出ていった。仲間が出来て即ぼっちかよ…。何か悲しい奴みたいだな、僕。まあ、正しくは独りではないのだけれど。黒髪左サイドテールで左目にモノクルを掛けた、この屋敷のメイド。無口無表情無感情、冷静冷淡冷酷。そう言う印象。要するは…


「そういったことを本人の前で言って仕舞うのは如何かと思いますが。それに、大して無感情ではありませんし」

「………」


 声に出ていたのか。酷いことを言って仕舞った。

 …無感情以外は否定しないのか。


「ごめんなさい…」

「いえ、然程気にしておりませんので。それに、よく言われますから」


 悲しい奴はこの人だったのか。


「お部屋まで御案内致します。どうぞこちらへ」

「はい」


 僕はメイドに付いていく形で屋敷の廊下を歩いていた。

 長い廊下、高い天井、大きな窓。屋敷生活に慣れるのは、かなり先になりそうだ。


「この屋敷で生活するには、知らない事が多すぎるな」

「御不明な点がありましたら何なりとお申し付け下さい」

「そうですね。それじゃあ、その御不明を幾らか」

「はい、どうぞ」


 これまでの屋敷内において不明な点。

 一つ、此処は何処か。

 一つ、規則とは何か。

 一つ、御主人様とは誰のことか。

 一つ…


「貴方達は何者か」

「………」

「違いますね、聞き方を変えます。あの人達は何者か」


 あの6人、見た目も性格も全くもって違うあの人達。

 血の繋がりも無いだろうし、あれ程までにそれぞれの個性が強いと、いざこざもあるだろうし。


「私が言えることは、まあ、一つだけですよ」

「何ですか?」


 くるりと、僕の方に振り向いた。


「私が言えることは………」

「……」


 溜めるなあ。早く言ってくれれば良いのに。


「私は、彼等を、彼女等を、あの方々のことを殆ど、それはもう皆無と言っても良い程に何も知らないということだけです」


 どういうことだ?少しは何か分かるかと思って聞いてみたのに、何も分からないとは。


「この屋敷においては、仕方の無い話なのですよ。貴方も疑問に思ったでしょう、規則ですよ規則。この屋敷のにおいて守るべき幾つかの規則。その内の一つです」


 規則を破らなければ基本自由、みたい感じのやつか。


「それじゃあ、その規則って言うのは…」

「至極簡単なものです。まあ、規則と言うよりは屋敷内限定の法律と言った方が正しいですが」


 法律。そんなに堅苦しいものなのだろうか。破れば罰金やら禁錮刑やらがあるのだろうか。


「一つ、『困っている者には手を差し伸べ、最善を尽くすこと』、一つ、『他人に意図して干渉し過ぎないこと』一つ、『前述に反した者、及びその疑いのある者は罰すること。また、罰は如何なる方法でも構わない』」

「………」

「以上です。何か質問は?」

「いいえ、特には」

「そうですか」


 一つ、『困っている者には手を差し伸べ、最善を尽くすこと』。なるほど、見ず知らずの僕のことを助けたのはそういうことか。居場所も行く場所も無いこの僕をこの屋敷に住まわせたのは、つまりはそういうことだったらしい。彼等からすれば、これが最善の策だったと言う訳だ。

 一つ、『他人に意図して干渉し過ぎないこと』。彼女が、この屋敷においてメイドである彼女が、屋敷の住人である彼等を良く知らないのに言い訳がつく。

 一つ、『前述に反した者、またはその疑いのある者は罰すること。また、罰は如何なる方法でも構わない』。

 まあ、つまりはそういうことだった。


「養護施設というか孤児院というか、そんな感じですか」

「概ね、そう考えて宜しいかと。とはいえ、そんなに良いものではありませんよ」

「そうなんですか」

「そうなんです」

「そうですか」


 困っている人間を助け、あまり干渉はし過ぎず、反した者は罰する。結構良いと思うんだが。 


「この屋敷内に犯罪者が居るかも知れない。それだけです」

「………」

「だってそうでしょう、逃げ惑って行き場の無い犯罪者なんて大勢いるでしょうし、自らが犯した罪を誰かに言い触らしたい犯罪者なんて居ないでしょう。つまりはそういうことです」


 確かに、犯罪者からしたら格好の隠れ家だ。それこそ、桃源郷と言っても良い程に。


「ご安心下さい、少なくとも私は罪を犯したことは有りませんので」


 寧ろ、逆です。彼女はそう呟いた。

 僕はそれを、全くもって気にしない。質問も、詰問も、する気が無い。別にこの屋敷の『規則』だからと言う訳では無い。僕は分かっている、僕は気付いている、僕は知っている、この事にはあまり触れない方が良いことを。

 薔薇に近づけば棘に刺さるし、火に近づけば火傷するし、朱に交われば赤くなるし…いや、最後のは違うか。つまり、僕が言いたいのは


「過干渉は毒、だからな」

「はい?何か言いましたか?」

「いえ、何も」


 僕達は、再び、部屋に向かって歩き出した。

 一応、もう一つ気になることを訊いてみることにした。


「すいません、もう一つ良いですか?」

「はい、どうぞ」

「貴方達は誰なんですか?」

「…は?」


 キレ気味で返された。これは仕方が無い。僕の訊き方が悪かった。


「名前です、貴方達の名前。訊いて無かったなって。これ位の干渉なら良いでしょう?」

「ああ、そういうことですか」


 コホンと、咳払いをして


「では自己紹介を致しましょう。私はこの屋敷のメイドを務めております、マナと申します。以後、お見知りおきを」






 その後、僕達二人は長い廊下を歩いて行き、僕の部屋の前に辿り着いた。


「マナさん、ありがとうございます」

「はい?」


 自室に戻ろうとするこの屋敷のメイド、マナさんを引き止めた。

 振り返る彼女のエプロンドレスの裾が翻る。


「何の事です?」

「いや、いろいろと」

「はあ、そうですか」


 衣食住が完全に揃った今、正直今後の生活が楽しみだった。それも全部この人のお陰だろう。


「他の方々のことについては、御本人から伺って下さい。あ、それと一つお訊きしたい事があるのですが宜しいですか?」

「はい、どうぞ」

「貴方の御名前は何でしょうか」


 あー、名前か。まあ、そうだよな、訊かれるよな。

 正直、名前は言いたくない。嫌いだし。というか凄い不吉な名前だからな。それに名付け親である父親は自殺してる訳だし。いよいよ不吉だ。しかも、読みは女っぽいし。


「すいません、名前はちょっと…」

「そうですか、なら諦めます。まあ仕方無いですものね。なんてったって、過干渉は毒、ですからね」

「………」


 聞こえてたのかよ。

 ではこれで私は失礼致します、と言ってマナさんは自室へと戻って行った。どうやら、ダイニングの隣の部屋らしい。

 僕は部屋に戻って、扉を閉じた。


「この時、主人公の胸はざわめいていた…」

「………」

「その後、彼等は数々の困難をくぐり抜け、絆を深めていく」

「………」

「やがて互いに惹かれ合う二人、そして始まる甘酸っぱい青春ラブストーリーッ!」

「………」

「あのぉ…無反応はやめてくれない?ボク泣いちゃうよ?」

「泣けよ、面倒くさい」

「ヒドイ!」


 白ラン白髪、中性的な外見に中性的な声、面倒くさい性格の持ち主。白装束の悪魔。恐らくコイツ以上に悪魔らしくない悪魔もいないだろう。

 神出鬼没ならぬ魔出魔没、宙に浮くし壁や天井はすり抜けるし、勝手に人の心を読むし。あーあ、本当、面倒くせえな、コイツ。


「魔出魔没って、語感悪くない?」

「五月蠅え、殺されたく無かったら今すぐ死ねよ」

「どっちみち死ぬパターンじゃん!」


 ああ、本当、五月蠅えなあ、コイツ。


「君のボクに対する、この風当たりの強さって何なんだろう…」

「いや僕、お前のこと嫌いだし」

「遂に言いやがった!遂に言いやがったぞコイツ!」

「殺されたのに殺人鬼好きになる訳ねえじゃん」

「ごもっともな意見だけど何故か腑に落ちない!」


 ラブストーリーか…。僕には縁遠い話だ。それもあのマナさんとだなんて。有り得ないな。冷たそうだし。

 マナさん。マナ、マナか…。名前、似てるな、あの人と。


「名前が似てるって、先輩と?」

「あ?うん、そうそう」


 性格は真逆だけれど。いや、真逆と言う程ではないのか。面倒見が良いと言うか何と言うか。

 先輩。本名、綾女華名。つまりは「マナ」と「カナ」、一文字違いと言う訳だ。


「名前が似てるって、プッ、アハハハハハハッ」


 急に悪魔が笑い出した。

 何が可笑しいのやら。


「な、なま、なままアハハハハハハハハ」

「笑い過ぎて、言ってること変になってるぞ」

「だって、な、名前が似てるってアハハハハハハハハ」

「………」

「あ〜お腹痛い、久しぶりに笑い過ぎちゃった」

「で?何がそんなに可笑しかったんだよ」

「え?ん〜…」


 だから溜めるなっての。


「ヒ・ミ・ツ」

「やっぱ、お前のこと嫌いだわ」

「理不尽極まりないなあ!」


 コンコンと、扉をノックする音が聞こえた。


「はーい、今開けま…」


 言い終わる前に扉が吹っ飛んだ。ついでに僕も吹っ飛んだ。

 広い部屋の中、二、三メートル宙を舞った後、床に落ちた。


「うぐっ…」


 痛い。結構痛かった。

 倒れる僕の上に扉が落ちてきた。ドアノブが脇腹を直撃した。

 うぅ…吐きそう。

 扉があった方には一人、突っ立っていた。

 ボサボサに伸びた黒髪、目元の濃い隈、襟の伸びたシャツと覚束無い足元。不気味そのもの、屋敷のホラー枠の登場だった。


「………」


 そいつは倒れた僕に無言で近付くと、


「………」


 僕を投げ飛ばした。

 ………。

 投げ飛ばした⁉は⁉何で⁉

 投げ飛ばされた僕はベッドの上に落ちた。


「ゔぅ…」


 さっきよりは痛く無かった。

 けれど何でだろう、心が痛い。通り魔に襲われるのって、こんな感じなのだろうか。

 ベッドの上で倒れる僕に、彼は乗っかってきた。

 第三者が見たら、絶対に勘違いするだろうな、僕が押し倒されたって。絶対、有り得ないけれど。


「ケッケッケ、そう怯えんなよ」


 いや、普通怯えるだろ。急に吹っ飛ばされた後投げ飛ばされたんだから。


「何しに来た」

「何しに来たとは人聞き悪ィなァ、ちょっと様子見に来ただけだろォ?」

「ちょっとの様子見程度で投げ飛ばす奴がいるかよ」

「ケケッ、確かに」


 そいつは僕から離れると、伸びをし始めた。

 本当、何しに来たんだよ…。


「そういや、お互いのこと知らねェなァと思ッてよォ、自己紹介しに来たッていう訳よ」

「それを早く言えよ」


 何回も飛ばされたせいで打ったところが痛いじゃんか。


「俺様の名前は、って、そんな事ァどうだッて良いんだよ。自己紹介よりも先にやる事があッからよォ。なァ、一つ質問良いか?」


 自己紹介しに来たんじゃ無いのかよ。

 まあ、良いか、余程大事な質問なのだろうし。


「良いよ、どうぞ」

「んじャ、単刀直入に訊かせてもらおうか」


 すると一変、急に真顔になって僕の眼をじっと見つめてきた。


「お前、悪魔のこと、どう思う?」

「…は?」


 悪魔。悪魔?何で今、このタイミングでその話題?そんなに重要なのか、僕が悪魔をどう思うかって。

 悪魔と言われると、もう彼奴しか思い浮かばない。

 悪魔らしからぬ悪魔、僕の中での悪魔の印象を根底からひっくり返した白装束のへらへらした奴。


「悪魔をどう思うかって?別に何とも思わねえよ」

「へェ、ふーん、そうかそうか、クク、ククク、アハハハハハハハ」


 急に笑い出した。皆、よくそんなに笑うなあ…。

 何か変なことを言っただろうか。


「あー、いや悪ィ悪ィ、気にすんな。こっちの話だからよ」

「はあ…」


 話し終え、そいつは扉を直すと、僕の方を向いて、


「そういや、言い忘れてたなァ。俺様の名前はディステルッて言うんだ。呼び方は、姐御とかはディスッて呼んでッけど、まあ何でも良いわ。宜しくなァー」


 そう言うと、部屋を出ていった。

 そういや…


「ここだよ〜ん」


 ………。

 出てきた。今度は天井から、顔面だけ。僕の真上。


「一つ言いたい事があるんだけど、良いかな〜?」

「あ?何だよ」

「あの人、ディステルだっけ?あの人には気をつけて〜、以上」


 それだけかよ。

 彼から感じる不穏な空気、殺意のような威圧感。正直、怖い。


「なあ、僕、此処で生きていける気がしないんだけれど…」

「ふ〜ん、あっそ。頑張ってね〜」


 コイツ、マジで悪魔だ。無慈悲だ。

 天井から、全身出てきた。この登場方法見るの慣れたな。


「いや、実際悪魔だよ、ボクは」

「今までそういう印象無かったからさ」

「ボクの扱いが秒単位で適当になっていく…」


 ………。

 ん?何かが可笑しい。


「何かがって、何が?」

「さっきの会話、ディステルとの会話の内容、何か可笑しく無かったか?」

「ん〜?いや、どっか変だったかな〜」

「………あ」


 分かった。この違和感の正体が。

 マナさんとの会話では感じなかった違和感。つまりはマナさんとの会話とディステルとの会話の差異。あの二人の決定的なズレ。


「んで〜?何処が変なのさ?」

「ディステルさ、彼奴、僕の名前訊かなかったんだよ。ほら、自分だけ名乗って出ていっちゃったじゃんか」

「ん?あ、あ〜、確かに。でも、そんなに可笑しいコトかな〜?」


 普通はそんな事はしない。有り得ない。僕だったら、絶対に。

 だって、危険だから。互いのことを何も知らない状態で、自分だけ正体を明かすなんて、そんな事。


「危険だね〜。確かに、そうかも知れない。けれどさ、実際どうでも良かったんじゃないかな〜、君の名前なんて。それこそ、『貴方のことを知らなくても、生きていける』じゃないけれどさ。例え、あの瞬間に君が彼のことを殺そうとしても、勝利して生き延びられる位には」

「そんなこと、分からないじゃないか。僕が本当は凄腕の殺し屋だったら…」

「でもさ、君、飛ばされたじゃない。吹き飛ばされて投げ飛ばされたじゃない。もし君が本当に強かったら、そんなことにはならないでしょ」

「あ」


 そういうことか。

 あの行動の理由、通り魔に襲われるような、あの行動にも理由があったのか。

 名前なんか、どうでも良い。害が無いのなら、警戒する必要も無い。

 僕が何者かを知らなくても、生きていける。

 つまりはそういうことだった。

 あのときの痛みは、今はもう無い。


「凄腕って言うなら、あっちの方じゃないかな〜。何というか、手慣れてる感じだった気がするし」

「確かに、扉吹っ飛ばしたしな」


 吹っ飛ばした扉は直していった。律儀な奴だ。まあ、当然と言えば当然なんだけれど。

 扉をノックする音。また誰か来たのか。

 僕は慎重に扉を開けた。扉の向こうにはマナさんがいた。

 僕はマナさんを部屋の中に呼び込んだ。


「先程、大きな音がしたので来てみたんです」

「あー……」


 あれだ。絶対、扉が吹っ飛んだときの音だわ。

 どう説明すべきだろうか。流石に「扉が吹っ飛びましたー」と言える筈もなく。


「扉が吹っ飛びましたー」


 言うことにした。というか、もう言った。

 すると、マナさんは「はあ…」と溜め息を吐いた。


「ディステルですか」

「よく分かりましたね、彼奴、そんなに扉吹っ飛ばすんですか?」

「いえ、そういう訳ではなく。そんな事をするのは、彼位なものですから」


 信用ねえなー…。少し可哀想だ。


「現実は小説より奇なりとは言いますが、彼程の奇人は現実でも小説でも見たことは有りませんよ」


 全く、世話の焼ける人です。そう呟いて、マナさんはまた溜め息を吐いた。


「扉は直したようですね。少し軋んでいる気もしますが、これくらいなら支障は無いでしょう」


 そう言って、扉を何回も開閉させた。そんなに確認しなくても良いと思うんだが。


「お疲れでしょうから、本日はもうお休みになって下さい」


 ぺこりと、一礼してマナさんは部屋を出ていった。

 久しぶりに沢山喋ったせいか、とても疲れていた。

 ベッドに寝そべり、考える。彼等と上手くやっていけるだろうかと。もうあの時のような事にはなって欲しくない。もう辛くて悲しくて苦しい思いは、絶対に、絶対にしたくない。

 今後の生活に期待と心配と恐怖を抱きながら、僕は静かに目を閉じた。



如何だったでしょうか。

二人名前出ましたねー。主人公は出てないですけれど…。

名前に関しては、まあ、一応、由来は有ります。

「他の作品で同じ名前見たー」っていう方もいるかも知れませんが、パクリじゃないんで!


今後とも、宜しくお願いします!

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