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ありきたりな異世界での日常  作者: 自動壊腹
閑話休題・No02
10/10

第二の最期

またしても閑話休題です!

何か丁度良いタイミングがここしかなくてですね…。

まあ、何はともあれ本編どーぞ!

 あれからと言うものの。

 私は確かに、今までとは別の世界―――異世界に来ることに成功した。しかしながら、現状、私は何も出来ない。異世界に来たら不審者扱いされて牢獄に放り込まれた、と言う訳ではない。私は自由だ。けれど、自由ではない。まあ、端的に言えば。


「おぎゃー」


 私は零歳児、つまりは赤ちゃんになっていた。

 そう、これが『やり直す』の本当の意味なのだ。やり直す、要はリスタート、振り出しに戻る、だ。

 では、此処は異世界と言えど、一体何処なのか。

 それに関しては、直ぐに分かった。やり直すとは言っても記憶や思考力、精神的なものに関しては何も変わっていなかったのだ。見た目は子供、頭脳は大人、である。否、中身は19歳だから大人では無いのかな?訂正しよう。見た目は赤ちゃん、頭脳は女子高生、の方が正しい。うわ、何か凄く違和感がある。まあ仕方ないか。んで、結局此処は何処かと言えば、沢山の孤児のいる場所、有り体に言えば孤児院だった。いや、この世界において孤児院と言う概念があるのか分からないけれど。


「おぎゃー」


 泣かないと心配されてしまうので、定期的に泣かなくちゃいけないのだ。疲れた。はあ…。特に何も起きないので暇過ぎる。






 あれから十年経った。

 私は十歳となった。二分の一成人となった私だけれど。残念ながら、現状、私はこの世界に来たことを後悔している。本当、何で来ちゃったんだろう…。

 後悔している理由としては、まあ、孤児院でいじめを受けているからだ。いじめと言うのは、想像以上に屈辱的なもので。否、単にいじめられているよりも屈辱的な状況だ。私は、外見は十歳であれど、十歳なのはあくまで外見だけで、この世界に来た時点で精神的には高校生なのだから。いや、今も精神的には高校生だよ?それも違うな。高校生ではなく、どちらかと言えばお姉さんなのだ。馬鹿だの阿呆だの言われたり、暴力的ないじめもあるが、どうしても『ちびっこには手を出してはいけない』みたいな考えがあるから仕返しができない。やられたのにやり返せない。その所為でとてもストレスが溜まっている。

 と言う訳で、現状、私はとても後悔しているのだ。

 はあ…。

 嫌だなあ…。






 はいはーい、また時間飛びますよー。

 私は十五歳になった。前世では中学校を卒業する年齢となったのだ。

 どうやら、この年齢になると孤児院を出ていくことになっているようだ。私は、行き場所が決まっていないまま、孤児院を出ることになった訳なのだけれど。


「何処行こっかなー…」


 孤児院を出て暫く歩いた後、私は繁華街に辿り着いた。どうやらこの国の首都のようだ。

 大勢の人々が市場を行き交う中、私はお金を持っていないことに気がついた。どうしようかなー。普通は、何処かで雇って貰うのが最善の策なのだろうけれど。でもなあ…。


「実年齢、十五歳だからなー。雇ってくれるところなんて、あるのかな?」


 私、バイト経験皆無なんだよね。

 前世では、ずっと部活をやっていたから。それはもう、スポ根アニメよろしく熱中していたから、バイトに行ける時間が作れなかったのだ。とは言っても、果物屋の接客とか魚屋の接客とか八百屋の接客とか、あとは、接客とか…。

 ヤバい、接客しかできない!接客も未経験だけれど。取り敢えず、何処かで雇って貰おう。水商売とか危ない仕事以外で。


 働いたことの無い私だけれど、やってみると案外簡単なんだなと言うのが、働き始めて最初に思ったことだった。親切な人が、自分の店で雇ってくれたのだ。その人の職業は果物屋だった。基本的には四則演算が出来れば何とかなるので、私としてはかなり良い職に就けたのではないかと思う。


 働いて数日、孤児院しか知らなかった私は、この世界がどのような世界なのか、なんとなくだけれど分かってきた。

 機械的な物が殆ど無い世界、市場を行き交うのは人や馬車ばかり。異世界ものでよくあるような世界観だった。けれど、どこか少し違っているように思えた。それが一体どこなのかは、自分や人々の髪色を見れば分かった。ピンクやら緑やら、そういった普通ならば有り得ないような髪色の人がいなかったのだ。皆、黒白茶金のうちのどれかという人ばかりだったのだ。ちなみに、私の髪色は、前世では黒だったが変化していた。何故なのかは分からないけれど、然程気にはならなかった。それも当然だ。生まれて十五年間、ずっとこの髪色なのだから。

 なんてことを考えながら、私は普通に働いていた。

 いじめられてばかりの孤児院から出ていき、偶然にも仕事に就けて、幸運の続いている私は完全に忘れていた。

 自分が、どれだけ不幸なのかを。






 自分で言うのもどうかとは思うけれど、本当に私は運が悪い。

 前世を振り返りながら、私はそう思った。

 別に、悲劇のヒロイン振るつもりは毛頭無いけれど。

 運が良いのか悪いのか、二択ならば私は何が何でも後者を選ぶだろう。

 何か不幸な事が起こったときに、『良い経験になった』と思える程、私はポジティブでは無い。どちらかと言えば悲観的になってしまう人間なのだ。

 人間は、育てられる環境によって性格が変わる。そんなの当然だ。

 私の育てられた場所は良かったのだろう。

 そう、場所は。

 私は、周囲の人間に恵まれなかったのだ。

 厳しい両親、出来の良い兄姉、そこに私は生まれたのだった。生まれ、育ち、死んだ。

 周囲からのプレッシャーに耐えきれず、私は身を投げた。身を投げた理由は、周囲からのプレッシャーばかりではない。

 引き続く不運。

 高校の部活動では、陸上部に入った。そこで私は才能を開花させ、一躍、スターになったのだ。だけれど、そんなことは正直どうでも良かった。両親に褒めてもらいたい、喜んで欲しい、その一心だったから。

 それでも私の両親は、生涯、私を褒めることは無かった。『凄いね』とか、『頑張ったな』とか、嘘でもいいから言って欲しかった。上辺だけでもいいから、私に笑顔を向けて欲しかった。

 そんな中、私は彼と出会ったのだ。

 きらきらと目を輝かせながら私の事を見てくれていた彼は、私にとっての救いだった。期待と憧れの眼差しを向けられて、私は癒されていた。

 そして、私の脚は、壊れた。

 私は、走れなくなった。

 誇れるものが、亡くなった瞬間だった。

 きっと彼も両親みたく、私のことを見てくれなくなる。そう思った。

 けれど、彼は、彼だけは、違った。

 嬉しかった。けれど、本当にそれで良いのか?私といれば、彼も不幸になる。

 失いたくない。彼だけは、絶対に。

 だから、私は拒絶した。

 彼を拒絶し、生きることを拒絶した。

 私は、こうして、死んだのだった。

 って言っても、一回言った事だし、知ってるよね。

 まあ、私が言いたいことは、現実、そう上手くはいかないと言う事だ。

 その為だけに過去回想をしたと思うと、正直、時間の無駄のような気がするけれど。







「はあ、はあ…」


 現実、そう上手くはいかない。

 現実と言うか現状、私はかなりピンチなのだ。

 と言っても分からないだろうから、説明しよう。

 私が働き始めて暫くしたある日だった。

 私は見てしまったのだ。自分が働く店の店主が、人を殺しているのを。死んだのは、最近、店に文句を言いに来ていた客だった。鮮度が良くないとか何とかで、店主とは口論になっていたのだ。場所は店の近く、人通りの無い狭い路地裏。果物屋に似つかわしくない血生臭い匂い、返り血を浴びた店主、どろっとした鮮血の滴る果物ナイフ。それらが、恐怖を私の二つの眼球から脳へと伝えるのに、時間なんてかからない。呼吸のリズムが崩れる。叫ぶなんて出来ない。この状況で、私が何をすべきかを考えることさえ不可能。脚は上がらない。何も出来ない。恐怖感に苛まれる。

 すると、その殺人者は私の姿に気がついた。

 あ、駄目だ。

 私、死んじゃうんだ。

 殺人犯は私を、その死んだような目で見て、にやりとして。


「あーあ、見られちゃったか」


 そう呟いた。

 怖い。単純にそう思った。

 殺人鬼は、横で倒れる死体に再び刃を向けた。かと思うと、その死体の胸元にナイフを突き刺した。中心より横にズレて刺さったナイフを引き抜いては刺し、また引き抜いては刺し、それを繰り返した。刺した場所の傷は段々と大きくなっていき、やがて穴となった。すると、その穴に自らの腕を入れたのだ。ぐちゃぐちゃというグロテスクな音が響き、暫くすると、その穴の中から赤黒い物体を取り出した。それが心臓だと気付ける程の思考力が、そのときの私には無かった。そして何をするのかさえ分からなかった。否、今でさえ分からない。何故、そんなことをしたのか。

 私に、その心臓を投げつけた理由なんて分からない。

 分かりたくもない。

 私は血だらけになる。服が赤く染め上げられ、顔にまで飛び散る。それこそ、さながら返り血の如く。

 訳が分からない。理解出来る筈が無い。脳が上手く働かない。

 目の前のそれは再びにやりと笑うと、「精々頑張れよ、殺人鬼さんよ」と言って自らの胸に刃を突きつけた。ナイフが突き刺さると、中から血がぼたぼたと溢れる音がした。今思えば、私に殺人の罪をなすりつけたかったのだと思う。何故かは分からないけれど。

 それの動きが止まり、ナイフが刺さったまま後ろに倒れた。

 殺される恐怖感が消え去り、私は眼前に広がる光景を、はっきりと理解した。それでも私は声を出すことが出来ず、ただ、そこから走って逃げた。血塗れのまま人目も気にせずに走った。

 此処にいたら危ない。何時、誰に殺されるか分からない。

 だから私は逃げた。


 暫く走り、私は市場よりは人通りの少ない場所にいた。

 気管が乾いているのか、とても痛い。足が棒になるとはこのことか。

 少し休憩していると、遠くから衛兵だか警察だかが私の方へと走ってきた。それも凄い形相で。そして彼等は叫んだ。


「見つけたぞ、殺人鬼め!」


 違う、私じゃない。そう叫びたいのに声が出ない。恐怖で体が震える。走って来る何人もの大人達。もしかして、あの人達に殺されてしまうのではないか。

 そう思って、私は走って逃げた。


 そして、話は先程に戻る。

 日の光が入らない程、木々の生い茂った森の中を私はただひたすら走っていた。目的地なんて無いけれど、私の居場所なんて無いけれど、目的はあるし居場所が欲しいとも思う。だから私は走っているのだ。

 疲れなんか感じない程に疲れた身体を無理矢理に動かす。


「はあ…はあ…はあ…」


 呼吸が整っているのか乱れているのかさえ確認する気力も体力も残っていない。


「はあ…はあ…」


 逃げなくちゃ。背後から聞こえる怒鳴り声が聞こえる。何とかして逃げきらなくちゃいけないんだ。止まるな。止まったら余計に疲れるし、最悪捕まってしまう。捕まったら、きっと殺される。駄目だ。私は生きないといけないんだ。


 あれ…?

 何で生きなくちゃいけないんだっけ…?

 生きる理由なんて、私にあったっけ…?


 ふと、そう思った。そう思ってしまった。

 生きる理由。

 生きていく上での、理由。原因。目標。

 無いな。そんなの、無いよ。

 あはは。

 本当に笑えるな、ただの嘲笑だけれど。けれどそれだけで傷付く。切り裂かれる。抉られる。私は、自嘲で傷付く程に心が弱い。自嘲癖、自傷癖、そんな類なのだろう、私は。儚いとか脆いとか弱いとか、そんな言葉で片付けられる位に、私は強くなれていない。

 何かに躓いて転んだ。口の中は血と土の味がする。

 痛いと思うよりも先に、私は辛いと思った。生きているのが、本当に辛い。何でこんなことになっちゃったんだろう。

 もう、生きていたくない。

 そう思った瞬間、突如として彼のことが頭に浮かんだ。

 彼がいれば、二度目の人生はもう少しマシなものになっていたのだろうか。

 はあ…。会いたいなあ。けれど、此処にはいない。この世界には、彼はいない。

 どう考えても、私の生きる理由が見つからなかった。


 もう嫌だ。生きていたくない。


 そう思ったとき、うつ伏せに倒れる私の前に誰かが現れた。見覚えのない誰かだった。


「大変そうだね」


 その見知らぬ誰かは、私に話しかけてきた。

 顔を向けるが、疲れの所為か視界がぼやけていて容姿をはっきりと確認することが出来ない。


「君の願い、叶えてあげよう」


 そう言って、私の方へ手を突き出した。

 そんなことを急に言われても、反応に困るんだけれど…。


「但し、条件がある。君の一番大切なものを貰うよ」


 そう言われた私の意識が遠のいていく。

 誰かも分からないまま、訳の分からないままに、私は。


 私は、一番大切なものを奪われた。

どうでしたかね?

また最後の終わり方が急になって仕舞いました…。

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