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「ありがとうごさいます。」

 本日最後のお客様を見送って、一息。


「お疲れ様。」

 高橋さんからいたわりの言葉をかけられて、「お疲れ様です。」と返す。

 さて、ここからが本番だ。

「高橋さん、今日の鈴木様の件ですが、」

「え、鈴木さん?何かあった?」


 …何かあった?じゃないでしょ…。あんなに受付で待たせた挙句、時間もオーバー、お客様が呆れていたのに、何も感じずに見送ったっていうの!?


「…施術時間がオーバーしていたように思います。鈴木様はお時間通りに施術を受けたい方なので、気を付けるようにとメモにも記載されていたと思いますが…?」

「え~10分くらい大丈夫でしょ。施術前にも案内少し遅れたから後ろのお時間大丈夫ですかって聞いたし。本人の了承もらってるんだから、ほのかちゃん気にしすぎだよ~。」


 気にしすぎで済んでいるなら私だって言いませんよ…!案内が遅れたのも明らかにあなたがモタモタしていたからだろうに!しかも施術時間は10分、受付でももたついてトータル20分オーバー。そのあと見送りにも出ないからあわてて私が出て、店先で「茅野さん、次回は今日の人とは違う方に担当してもらいたいのだけど。」って鈴木様に言われたんだよ!


「高橋さん、鈴木様が次回は高橋さん以外で、と仰って帰られました。」

「え、いつ?」

「お見送りの際に、店先で。」

「…それさあ、ほのかちゃんが言わせた?」


 …はああ!?こいつまじ、何言ってんの??


「おっしゃる意味が分からないのですが。」

「だって、別にほんと怒ってもなかったし、この後予定があるとかも言ってなかったよ?施術中もお休みされてたし、何も私に落ち度はないと思うんだけど。なにかあるならほのかちゃんが鈴木様に受付嫌でしたかー?とかわざわざ聞いたんじゃないの?てかそのために店先までお見送りしたんじゃない?サイテーだね。」


 こんっのくそ女…!黙って聞いていればいけしゃあしゃあと…!


「店先までお見送りしたのは、お客様全員に行っていることだからです。むしろなぜ高橋さんは鈴木様のお見送りをされなかったんですか?」

「だって帰り急いでたじゃん。邪魔しちゃダメでしょ?」


 え…?急いでたことはわかるのに、施術オーバーは怒っていないってなんでこんな言いきれるの?矛盾が激しくてついていけない。毎回宇宙人と話している気持ちになる。


「急いでいらっしゃるからこそ、先にドアを開けてスムーズなお帰りを誘導することが大切だと、店長が仰っていたので実践したまでです。その際には『本日もありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。』とお伝えしただけです。高橋さんのことを何か言うタイミングはありませんでしたし、言うこともありえません。」


 そうなのだ。店長が日ごろからお客様のお帰りをスムーズに誘導するためにお見送りは必ず実践するように、そしていつも感謝の気持ちを伝えなさい、と言っているのだ。だからその通りのことを実践して毎日を過ごしているのに、この先輩は臨機応変だのお客様に合わせた対応などとたわけたことを…!


「ふーん…。わかった。ほのかちゃん、それ、店長には私から言っておくね。」

「いえ、私からすでに店長にお伝えしてありますので。」

「はあ!?なんで?意味わかんないんだけど。」

「お客様からのお声は速やかに店長へお伝えするものですから。」

「はー…ほんとほのかちゃん、空気読めないね。そうやってるから友達少ないんじゃない?私もほのかちゃんとは友達にはなれないって思うもん。」

「そうですか。では、本日もお疲れ様です。片付けましょう。」

「なんで?こんなこと急に話されて私すごい疲れたから、先に帰るわ。一人でできるでしょ?私なんて鈴木さんにクレームもらっちゃったダメセラピストだしー。じゃあね。」

「…わかりました。お疲れ様でした。」


 はあ…。結局こうなったか…。予想できたけど、私もなんでもっとうまく言えないんだろう…。高橋さん、セラピスト歴は私の方が長いけど、年下だからって舐められてるんだよなあ…。もっと仕事できるようにならないと。


 茅野ほのか、27歳。ヒーリングスペース“アンジェ”で、リラクゼーションセラピストとして働いている。リラクゼーションというのは、簡単に言ってしまえば身体をほぐす仕事だ。

 それってマッサージ?とは何度聞かれただろうか…。マッサージは本来は医療行為なのだ。だが、世間一般に浸透している揉む=マッサージというイメージは2017年になってもまだまだ払拭されない。目的が違うのだ。リラクゼーションはリラックス目的であり、健康を約束したり、けがを治すものでもない。そこを誤解しないでほしい。

 そして、もっと辛いのが資格がないくせに偉そうなことを言うな、というお声である。そうなのだ。セラピストとは厳密に言えば資格などが決まっているわけではない。本人が開業してセラピストです!と言ってしまえばできてしまう仕事なのだ…。ただ、一つ言わせてほしいのは、リラクゼーションとは技術社会である。つまり、下手ならだれも見向きをしないのだ。つまり、技術を磨いて磨いて磨き続けることでしか生き残れない世界において、努力をしないということはあり得ない。その努力を資格がないくせに、の一言で片づけられてしまうのは本当に辛い…。


 はあ。それでお父さんとも喧嘩したしなあ。お母さんはリラクゼーション好きだったからまだしも、お父さんはそんな仕事はやめろ、意味が分からん!って怒ってたなあ…。意味わかんないのはこっちだよ!人を幸せにできる仕事だよ!と啖呵を切って家出たのはもう5年前。いや、まだ5年か…。はあ。お腹すいた。今日は何を食べようかな…。



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