表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

第4話 泉と蔵人

第4話 泉と蔵人


 蔵人が月乃、千冬と話した翌日の放課後。蔵人は1人、高校のコンピ研の部室にいた。

 そこは蔵人にとって、校内のどこよりも多くの思い出の詰まった場所だった。蔵人は、頭の回転の速く、誰よりも誠実な田所先輩と話すのが大好きでしょっちゅうこのコンピ研の部室へ遊びにきていた。この部屋は、蔵人と田所先輩、そして泉、3人でPCで遊んだり、バカな雑談をし続けた楽しい場所だった。ファーストフードでのバイトに忙しい蔵人は、部員とはならなかったが、田所先輩も泉も、蔵人がコンピ研に遊びに行くと、いつも大歓迎してくれた。この部室は、そんなコンピ研準部員としての蔵人の大切な場所であった。


 だが、ラストダンジョンで『Darker Than Crimson Red』と決着をつけた日の翌日、このコンピ研の部室を訪れたのを最後に、蔵人がこの部屋へ来ることはなかった。訪れてしまうと、必ず楽しかった思い出が(よみがえ)り、切なくなってしまうから。



                ◇



 いまコンピ研に田所先輩はいない。『Darker Than Crimson Red』であったコンピ研部長田所史哉は、蔵人とのラストダンジョンでの対峙の最中(さなか)、その命を失った。

 その事実を校内で知るのは、蔵人と泉のみ。

 田所部長は校内では失踪として扱われており、今は泉がコンピ研部長代行を勤める。そして、部員も泉のみだった。


 『Darker Than Crimson Red』とのアマゾンでの対峙の後に帰国して、蔵人が1番初めに訪れたのは、このコンピ研の部室であった。田所先輩の正体、またその死が公にされることは、田所先輩の本意ではないと蔵人は考えた。だが、泉にだけは全ての真実を知らせなければならないし、田所先輩もそれを望んでいた。ゆえに、蔵人と泉のみが、真実を知ることになった。


 コンピ研の片隅に置かれた小さな円卓。蔵人は、そこで田所先輩の最期(さいご)を泉に語った日のことを思い出す。泉と蔵人、2人で涙を流しながら田所先輩から託されたミルクティーを飲んだ。それは今まで飲んだどんな飲み物よりも、美味(おい)しいミルクティーだった。真実を知った泉は、誰よりも蔵人と泉を思ってくれた田所先輩を、誰よりも人類を大切に思ってくれた田所先輩を偲んで泣いた。蔵人と泉は、泣きながらも、美味しかったそのミルクティーを全て飲み干すことで田所部長を弔った。その日以来、蔵人がコンピ研の部室を訪れることはなかった。



                ◇



 ガチャ

 ノック無しに部室の扉が開かれる。入ってきたのはコンピ研唯一の部員、水内(みずうち)(いずみ)だった。


「あれ?部室の明かりがついてるって思ったら、やっぱり蔵人くんだったんだ。蔵人くんが部室に来るなんて珍しいね。」

 あの日以来、蔵人が部室に来なかったことを知る泉は、不思議そうに蔵人を見る。



「って、何勝手に入ってるのよ!蔵人くんは正式な部員じゃないんだから、勝手に職員室から鍵を持っていく権利はないんだよ。これって規則違反なんだからね。」

 蔵人がこの部屋に入った手段に気づいた泉は、怒って頬を(ふく)らませる。律儀な泉は、蔵人が正しい手続きをふまないで入室したことことにコンピ研部長代行として叱責する義務を感じたのである。



「泉、お前と話がしたかったからなんだ。」と蔵人。

「え?!わ、わ、私と・・・」

 蔵人の言葉に、泉は何故か顔を真っ赤にして、取り乱す。


「新たなビグースのことなんだ」と蔵人。


「そっちの話・・・」

 ()()か残念そうな泉。

 どこかで同じようなやり取りをした気がすると思いながらも、蔵人は続ける。


「なあ、泉、田所先輩は最期(さいご)に俺へ2つの願いを託した。1つはあのミルクティーのこと。もう1つの願いを覚えているか?」


「もちろんよ!ビグースは田所先輩だけじゃない。『Darker Than Crimson Red』である田所先輩は死ぬけど、第2、第3のビグースが必ず現れるってやつよね!」と泉。



「そうだ。そして第2のビグースが現れた。」



「そ、そんな・・・。」驚いた泉は息を飲む。緊張に泉の手が震える。

「そして第2のビグースは、今もっとも話題になってるあの『ホワイトナイト』だ。」

蔵人のその言葉を泉は真剣に聞き入る。


「田所先輩が現実(リア)世界()でもリザレクションという特殊()能力(キル)を使えたのと同様に、ホワイトナイトも現実(リア)世界()特殊()能力(キル)を使える。そして、俺は彼奴(きゃつ)と既に接触したことがある。彼奴(きゃつ)は、特殊()能力(キル)『強制転送』により俺を無理やり移動させて俺との接触を図ってきたんだ。」


「そ、そんな・・・そんなの怖いよ。今、ネットではホワイトナイトの特殊()能力(キル)『ホワイトアウト』は神殺しって言われてる・・・。神殺しの特殊()能力(キル)なら《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位にして『隻眼の使徒』との異名を持つ蔵人くんも危ないなんて平然と言ってのける人もいるんだよ・・・。」

 蔵人を心配して泉の瞳には涙が浮かんでいる。


「大丈夫だ。俺は無事ここにいるだろ。」

 蔵人は泉を安心させるため、笑顔で泉の頭を撫でる。泉はホッと安心する。



 泉が安心したのを確認して蔵人は続ける。

「だが、ホワイトナイトに特殊()能力(キル)『強制転送』で無理に移動させられた後についての記憶が、俺にはない。これは、強制転送されたのが夢だったから俺が忘れてただけ、あるいは、俺が記憶の消去、改竄という特殊()能力(キル)をかけられたことの2つの原因が考えられる。そして、俺は後者と考えた。なぜだか分かるか?」


「作者の西木野樹生Tさんは豆腐メンタルだから叩かれやすい夢オチを使う勇気はない。だから前者はありえない。消去法で後者ね。」


「・・・・。」

 泉のメタな発言に蔵人は沈黙で抗議をする。泉を安心させるため頭を撫でたが、その効果は大きすぎたようだと蔵人は軽く後悔する。



「泉、真面目に聞いて欲しい。昨日の昼休みに時雨が言ってた話を覚えているか?ホワイトナイトが『ホワイトアウト』を発動した。その後、時雨が何て言ってたかを?」と蔵人。

「うん。覚えてるよ。」

蔵人の抗議を受けて反省した泉は、真摯(しんし)に考えようとする。



「時雨はホワイトナイトの情報を探ろうとして『Who are you?』 ってチャットしたんだよね。そしたら、時雨がゲームオーバーになる直前にホワイトナイトはバトルチャットで『Pure Sublimity White』って意味不明なこと言ってきた。ふざけたことされたって、時雨怒ってたよね。」



「ほお!泉えらいな。」

 蔵人は感心した顔で泉の頭を撫でる。

「もう、子どもじゃないんだから、それくらい覚えてるよ!それにあの話は私も興味あったしね。」

 蔵人に褒められて、泉は嬉しそうに返事をする。




「ここからが本題なんだ。俺は昨日、矢沢月乃から京介さんがホワイトナイトと戦ったときのことを聞いたんだ。ホワイトナイトが特殊()能力(キル)『ホワイトアウト』を発動したことで、1撃で京介さんのHPはゼロになった。そして京介兄さんもゲームオーバーになったんだが、その後、京介さんはホワイトナイトからバトルチャットを受けた。それは『Pure Sublimity White』というものだった。」蔵人は続ける。




「これが月乃から聞いた京介さんの話だ。時雨のバトルと、京介さんのバトル。この2つに大きな違いがある。何か分かるか?」と蔵人。


「・・・ホワイトナイトの戦ってる相手が違う・・・。そんなの当然だから答えじゃないよね?」

「もちろんだ。」

 蔵人の素気ない態度を受けて、泉は苦しげな顔でさらに考え込む。


「『Pure Sublimity White』って言葉は同じだし・・・。それ以外だよね・・・。」

「当然だ。」

「・・・・・。」

 泉は黙り込む。


「分かった!時雨はして『Who are you?』 ってチャットしたけど、京介さんは何も言わなかった!」

「確かに、そこも違う点だが、本題とは無関係だな。」

「・・・」

 泉は再び黙り込む。




「なあ、泉。俺は、泉に本題と関係のある違いを見つけて欲しい。そして、俺の記憶消失の原因は、ホワイトナイトによる消去、改竄という特殊()能力(キル)をかけられたことによるものだということを証明して欲しいんだ」蔵人が泉を見る目は真剣だった。





「どうして蔵人くん、私に考えようとさせるんだろう?」泉は心の中でつぶやく。答えが分からない泉は、いつしか別のことを考え出していた。

「はっ!」

 そこで泉は、いつかのホームルーム前の蔵人との会話を思い出す。




「なあ泉、CIAのIってどういう意味か知ってるか。これは、お前の弱点でもある。だから聞いて欲しい。CIAのIはIntelligenceつまり知力だ。彼らは情報を集めるだけでなく、それを徹底的に知性を使って分析する。その結論は俺の知る限り全てが最善手だ。ウォーターゲート事件、スノーデン事件と何度も組織解体の危機に陥りながらも、彼らはその度ごとにむしろ自らの力を強めてきた。奇跡といえるほどに。泉、お前は世界の誰より情報を収集できる力がある。だが、それは世界で1番情報の海で溺れるリスクがあるということでもある。俺はいつまでも、お前の(そば)にいられるとは限らない。高校を卒業すれば、みんな進路は違うだろう。もし、お前が困った自体に陥ったとき、「知力を使って分析すること」このことを覚えていて欲しい。」

 そんな蔵人の言葉を泉は多い出す。



「蔵人くんは私が知力を使って分析する訓練をしてくれようとしてくれている。私のことを心配してくれているからこそ!頑張らなきゃ!」

 心の中でつぶやき、泉は懸命に考える。




「!!わ、分かったわ!」

 嬉しさに泉は叫ぶ。


「《HYPER CUBE》で不可能なことが記憶にあるはずがない!そういうことでしょ!」

 泉は嬉しそうに蔵人に言う。


「ああ、その通りだ。」

 蔵人も、(ねぎら)うように嬉しそうに(うなず)く。



「じゃあ、蔵人くん、これから証明を開始するわ。」泉は一拍置く。


「時雨はゲームオーバーする『前』にホワイトナイトからPure Sublimity Whiteってチャットを受けた。他方、京介さんは、ゲームオーバーした『後』でPure Sublimity Whiteってチャットを受けている。だけど、《HYPER CUBE》ではゲームオーバーになった瞬間、バトルチャットはロックされるから、バトルチャットを受信することは不可能。そんな不可能なことが京介さんの記憶にあるはずがない。でも、京介さんはそれを現実に起こった事実として記憶している。そうすると京介さんは、記憶の改竄という特殊()能力(キル)をかけられたし、同時に、ホワイトナイトが記憶の消去、改竄という精神系統の特殊()能力(キル)保持者だと証明できる。そんなホワイトナイトにより蔵人くんは「『強制転送』で移動させられたけど、その後についての記憶を保持していない。そうすると、この記憶消失も、夢ではなく、ホワイトナイトの特殊()能力(キル)によるものだといえる。

 よって、蔵人くんの記憶消失の原因は、後者、すなわち、ホワイトナイトによる消去、改竄という特殊()能力(キル)をかけられたとの原因によるQ.E.D」

 泉は自信に満ちた笑顔で証明終了を告げる。


「さすがDr.Intelligence。正解だ。」

 蔵人も、笑顔で泉の頭を撫でる。

 期待に(こた)えられたという嬉しさから泉の瞳からは、1筋の涙が零れていた。




                ◇




「なあ泉。ホワイトナイトは、記憶消去、改竄、感情操作、誤認誘導といった特殊()能力(キル)を有している。つまり心理(メンタル)掌握(アウト)という特殊()能力(キル)の保持者なんだ。そして、ホワイトナイトは、俺が彼奴(きゃつ)心理(メンタル)掌握(アウト)特殊()能力(キル)を持っていることに気づいていることを知らない。そこに俺がつけ入る隙があるんだ。そこを起点にして、俺は罠をかけてホワイトナイトを追い詰めようと思う。そこで協力して欲しいんだ。」と蔵人。


「もちろん協力するよ!蔵人くんのためなら、私は何だってできるもん。《HYPER CUBE》を運営してるイリュージョン・アーツ株式会社にハッキングかけてホワイトナイトのユーザーデータを入手してみる。人類の存亡がかかってるんだから、緊急避難として違法性も阻却されるはずだから。」泉は蔵人に訴える。


「・・・前に粟山さんがユーザーデータはインターネットから隔離されたスタンドアローンのPCにあると言ってたが、可能なのか?」

「え?スタンドアローンなら、いくら私でも無理だよ・・・」

 泉は肩を落とす。



「いや、そんなことを頼むつもりじゃないんだ。なあ泉。今後、おそらくホワイトナイトは俺との再接触を試みる。そして、俺に心理(メンタル)掌握(アウト)をかけてくるだろう。そこを逆に手玉にとるんだ。」と蔵人。



「え?」

 泉は不思議そうに蔵人を見つめる。


「ホワイトナイトはこれから俺の感情を操作することで、俺がホワイトナイトにとって都合のよい行動をとるようにするだろう。例えば、俺がホワイトナイトから攻撃を受けても、無抵抗なままでいるという行動をとらせるかもしれない。同時に、ホワイトナイトは、俺が『感情操作されていない』という風に俺を思いこませる感情操作をしてくるに違いない。俺が後で自分の行動に疑問を持つことを封じるためにな。そこに俺は罠を張る!」

 自分の戦略に自信を持つ蔵人は、瞳を輝かせて泉を見る。



「泉は、これから毎日、放課後にこの部屋で、俺に『蔵人くん、感情操作されてる?』と聞いてくれ。それだけでいいんだ。感情操作されていないが、俺はあえて『感情操作されている』と逆の答えをするから。これがデフォだ。だが、俺が、もし本当に感情操作されてしまったとする。そうすると、俺はお前の問いに『感情操作されていない』と答えるだろう。そう答えたとき、俺はホワイトナイトに感情操作されているということになる。だが、それは同時にホワイトナイトが俺の罠にかかったということになるんだ!」と蔵人。



「分かったわ。蔵人くん。でも、この部屋でいいの?だとすると、ホワイトナイトはこの学校の私たちの近くにいるってことになるはずじゃ・・・」


 泉は言い終わらないうちにコンピ研の部室がノックされ、扉が開かれる。

 そこに立っていたのは、長身に細身の体型。モデルのような顔立ち。透き通るように白い肌。そしてロングの銀髪。




 謎の転校生、2年の白河院京子、その人だった。

「し、白河院先輩?」

 泉は言葉を失う。


次の更新は2015年1月1日元旦です。

いよいよ蔵人と謎の転校生白河院先輩の対峙です。


【重要なお知らせ】

現在、作者にはハイパーキューブ《HYPER CUBE》Darker Than Crimson Red編とハイパーキューブ《HYPER CUBE》Pure Sublimity White編という2つの作品があります。この2つを1つにまとめることとしました。

現在はハイパーキューブ《HYPER CUBE》Darker Than Crimson Red編という名前になっている作品を、ハイパーキューブ《HYPER CUBE》と名称変更し、こちらに2つの作品を統合します。


Pure Sublimity White編のみしかブックマークされていらっしゃらない読者の方々は、こちら↓


http://ncode.syosetu.com/n9406cj/


の方をブックマークいただけることを推奨いたします。新たな感想、評価等ございましたら、それもこちらへお願いいたします。来年1月1日以降の更新は、こちらで行われることとなるからです。



読者の方々には、何度もご迷惑とお手間をおかけして、誠に申し訳ありません。

最初から、「章管理」というものを活用し、このようにすべきでした。全ては作者の不勉強と不見識に起因するものです。謹んで、お詫び申し上げます。


なお、引っ越し作業は、本日から大晦日にかけて、少しづつ行う予定です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ