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特撮ヒーローで勝負!

 昼過ぎ。

 別荘では、勇気と愛、そして勝利が食事の支度をしていた。

 愛の持ってきた大量のレトルトカレー(賞味期限切れ)、勝利が大量に持ってきた鶏のささみを使ったスモークチキン(鶏のささみは良質のたんぱく質が含まれています)、元気がパーキングエリアで買い込んだ大量の菓子(ポン中は覚醒剤が切れると甘い物を大量に食べることがあります)、勇気が箱買いしたカップラーメン、勝利のプロテインなどが現在使用できる食材だ。

 とりあえず、昼はレトルトのカレーをシチューにして、その中に鶏のささみを入れて食べよう、ということになった。

 そこで、勇気と愛がシチューを作りはじめる。まあ作るといっても、ただ温めて、お湯を足すだけなのだが。

 勝利はその横で、鶏のささみを細かく切っている。いや、素手て細かくちぎっている。

「ちょっとー、包丁で切った方が早いんだけど!包丁使って欲しいんだけど!」

 見かねた愛が忠告する。しかし――

「何を言っている。これは料理をしつつ指を鍛えるという、一鳥一石なテクニックよ」

 勝ち誇った顔で、ささみを細かくちぎる勝利。

「それ一石二鳥……あと一朝一夕だから……字も意味も違うから……」

 勇気が呟く。

 だが、勝利の耳には届かない。

「さーて、午後は上腕三頭筋のトレーニングだぜ!やってやるぜ!」



 その頃マリアは、ソーニャのそばについていた。

 まだ、ソーニャの表情は暗い。

「しこしこ、大丈夫であるか?」

 マリアは心配そうに訪ねる。

「……はい」

「ううう……しこしこ、マリアが今から物真似をするである。よーく見て欲しいである」

 マリアは立ち上がった。そして、頭をポリポリ掻き始める。

「ふー、まったく商売人は大変である」

「……」

 困惑するソーニャ。

 マリアはキラキラした目で、ソーニャを見ている。

 ソーニャは決断した。

 心を鬼にしなくてはならない、と。

「全然わかりません。誰のまねですか?」

 マリアは、何かを失敗してしまった顔になる。

「ううう……ジュドーである」

「……ジュドーって誰ですか?」

「マリアの友だちである……」

「私はジュドーさんを知りません。どうやって当てればいいんですか?」

 ソーニャは真剣な顔で、マリアに抗議する。

「ううう……気がつかなかったである……ごめんなさいである……」

 マリアの顔が、今度は飼い主からはぐれたチワワのような、悲しそうなものへと変わった。

 だが次の瞬間――

 なにかを思いついたらしく、パッと表情が明るくなる。

「次は、しこしこの番である。しこしこの物真似が見たいである」

「はい?」

 ソーニャは、その大きな瞳に困惑の色を浮かべ、マリアを見る。

「しこしこの物真似が見たいである。物真似して欲しいである」

 繰り返すマリア。

「……いやです」

 ソーニャは頬を赤らめ、プイッと横を向いた。

「えー!何でであるか!どうしてであるか!」

 マリアは拳を握りしめ、真剣な顔で抗議する。

「……なんで私が物真似しなきゃいけないんです?する理由がありません」

 ソーニャは冷たい口調で返す。

「ううう……」

 マリアは唇を噛みしめ、悔しそうに下を向く。

 だが次の瞬間――

 仰向けに横たわり、大の字になるマリア。

 そして、

「物真似するである!しこしこの物真似が見たいである!」

 とわめきながら、凄まじい勢いと迫力で駄々をこね始めた。

 あまりの出来事に、固まるソーニャ。

「や、やめてください!子供じゃないんだから!」

 気を取り直し、怒鳴りつけるソーニャ。

 だが、マリアは止まらない。

 両手両足をバタバタさせながら、子供みたいに駄々をこねまくる。

「物真似するである!しないといけないである!」

「……わかりましたよ。やります」

 ソーニャは顔を真っ赤にしながら、口を真一文字に結ぶ。

 一瞬、間が空き――

「バ、バブー……」

「ばぶう?何であるか?誰のまねであるか?全くわからないである」

 いぶかしげな表情に変わるマリア。

「ハ、ハーイ……」

 ソーニャはそう言った後――

 顔を両手で覆い、崩れ落ちた。

「!しこしこ!大丈夫であるか!」

 慌てて駆け寄り、抱き起こすマリア。

 しかし――

「大丈夫です……放っといてください……」

 ソーニャは耳まで赤く染め、顔を両手で覆い、首を横に振っている。

 時代劇に出てくる、美形の若侍に迫られている町娘のような様子でイヤイヤをしている。

「大丈夫ではないである!顔が赤いである!熱があるかもしれない――」

「大丈夫です!もう私、マリアさんとは遊びませんから!」

 そう言って立ち上がり、部屋を出ていくソーニャ。

 マリアはオロオロした顔で、後に続いた。




 勇気と愛、そして勝利はテーブルの上にカレーシチューの皿を並べていた。

 だが――

「しこしこー!待って欲しいである!マリアと遊ぶである!物真似はやめて腕相撲するである!」

「勝てるわけないじゃないですか!」

 声と同時に、ソーニャが入ってくる。

 顔を真っ赤にして、明らかに拗ねたような顔つきでリビングに入り、ソファーに座る。

 続いてマリアが入ってくる。

 すまなそうな顔をして入ってくる。

 しかし、テーブルに並べられたカレーシチューの皿を見るなり、表情が一変する。

 目がらんらんと輝き、筋肉が震える。

「おおお……かれえである……かれえがスープになっているである……」

 マリアは勇気と愛の顔を見る。

「食べて……いいのであるか?」

「もちろん」




 食べ終わった後は、勝利が食器を洗っていた。

 残りのメンバーは、まだリビングにいる。

「あ、あの……正義さんから連絡は……」

 ソーニャがためらいがちに、勇気に聞く。

「連絡は……まだない。でも……大丈夫だよ。正義はああ見えて、すごく面倒見がいいんだから。必ずいい知らせを持ってくるから、安心――」

「いい知らせですか……どんな知らせ……ママはどうしてるんだろう……」

 ソーニャの言葉が途切れた。

 表情が暗くなる。

 その時――

「ねえ、ソーニャちゃんに聞いて欲しいことがあるの……」

 勇気が真剣な表情で言った。

「あたしはね、正義と同じ小学校だったの……あいつは昔から面倒見が良くて、困っている人を見たら放っておけない性格だったんだよ……」

 そう、勇気と正義は幼なじみだった。

 小学校が同じで、家が近いこともあり、二人はよく一緒に遊んだ。

 やがて勇気は、私立の女子中学校に進学する。

 しかし勇気は、そこにいた金持ちのお嬢様グループから陰湿なイジメを受けるようになった。

 そんな勇気をいつも励まし、時には体を張って助けてくれていたのが、学校の違う正義だった。

「正義はね、今までずっとあたしを助けてくれた。もし……ソーニャのママに何かあったら……そして、ソーニャが正義を恨むなら……あたしが一生かけて償う……あたしがソーニャを助ける……正義があたしにしてくれたようにね……」

「あたしも、なんだけど。あたしもソーニャを助けるんだけど」

 愛も、そう言った。

 言葉そのものはいつもと変わりなかったが、その口調、そして表情からは、力強い決意が感じられた。

 元気は何も言わず、黙って横を向いている。

 ふと思った。

 オレは……こいつらみたいにはなれない。

 オレは汚れきったポン中だからな……。

 オレみたいな奴には……悪役がお似合いだ……。


「よお、テレビ観ようぜテレビ。今から面白いの始まるぞ」

 マリアですら黙って聞いていたくらいの良い雰囲気を、勝利のとぼけた声がぶち壊した。

 勝利はそのままズカズカ入ってきて、テレビのスイッチを入れる。

 と、画面には大きな滝をバックに、白いふんどし姿の男が仁王立ちしている映像が写し出される。

 その男は強壮ドリンク剤のような小瓶をどこからともなく出現させ、中身を一気飲みする。

 画面が、何やら奇妙にゆがみ、若干ではあるが不快な音楽が流れ――

 男の姿が、ウルト〇マンにアメフトのプロテクターを装着したような何者かに変わる。

『ちょーぜつりーんじん!スペルマン!』

 テレビから聞こえてきた奇怪な絶叫。

 そして、主題歌とおぼしき狂気めいた曲。

『イクぞ発射!ザーマン帝国やっつけろ〜!オレがスペルマ〜ン!』

 勇気と愛と元気の顔がひきつった。

「ちょ、ちょっと!別なの観た方がいい――」

「み、観たいである!」

 愛の言葉を、マリアがさえぎる。

 キラキラした目で、テレビに写るヒーローを見つめている。

 ソーニャも目を丸くしてヒーローを見ている。

 元気は大島渚をブン殴った時の野坂昭如のような目で、勝利をにらむ。

 てめえ……とんでもねえ事しやがって……なんだこの下ネタヒーローは、というセリフを目で訴える。

 正義なら、一瞬で察しただろう。

 だか、勝利には通じなかった。

「なんだ元気、どうしたんだよ?どっか具合でも悪いのか?」

 真顔でそんなことを聞いてくる勝利。

 元気はあきらめて、この微妙な名前のヒーローの活躍を見守ることにした。


「おおお……スペルマン凄いである!カッコいいである!」

 ハイテンションで、夢中になって観ているマリア。

 ソーニャも目を輝かせ、ヒーローの活躍を真剣に観ている。

 そんなマリアとソーニャを、お父さんのような優しい表情で見守る勝利。

 そんな勝利を、意外そうな目で見ている元気。

 家族で一緒にいる時に、ラブシーンが流れている映画を観ている時のような、凄まじい居心地の悪さを感じている勇気と愛。


『スペルマン・ストレートパーンチ!スペルマン・スピンキーック!』

 テレビ画面の中で大暴れするスペルマン。

『最後のとどめだ!スペルマン・ソープ!』

 叫び声と同時に、手のひらを相手の怪人に向けた。すると大量の泡が発生し、凄まじいスピードで怪人を襲う。

 怪人は、あっという間に泡まみれになった。

 どういう効果がその泡にあるのか不明だが、もがき苦しむ怪人。

 やがて断末魔の悲鳴と共に、怪人は爆発した。

「おおお……凄いである……スペルマン凄いのである……」

 感極まったように呟くマリア。

 さらに、

「スペルマン、か……」

 ソーニャも、感嘆のため息をもらす。

「……」

 元気は、見事に固まっている。

 勇気と愛も、同様の有り様だ。


『戦闘不能にゃならないぜ〜!超絶倫!超絶倫人スペルマ〜ン!』

 陽気な曲調ではあるが、同時に製作者の大きなお友だちへのメッセージも感じさせるEDが終了した。

「オレは、この特撮ヒーロー番組を製作した奴らだけは絶対に許さん……こいつらは間違いなく、全てを計算した上で放送してやがる……これはひどい」

 元気は誰にも聞こえないように、一人呟いた。



「か、かつどん……遊ぶである!外でスペルマンごっこするである!」

 目を輝かせ、勝利の前に立つマリア。

「あー、いいぜ。外でやるか。ソーニャも一緒にどうだ?」

「あ……いや、いいです……」

 ソーニャはぎこちない笑みを浮かべながら、丁重に断る。

 しかし――

「そう言うなよ。みんなで遊ぼうぜ」

 勝利はソーニャを軽々と抱えあげ、外に連れて行った。

「あ、あの!ちょ、ちょっと――」

「家の中にいたって、外にいたって同じだろ。それによ、お前のママは、お前に明るく笑っていて欲しいんじゃないのかな」

 勝利はそう言って、笑ってみせた。




 その頃。

 正義は車の中で、じっと待っていた。

 士郎とは連絡がついた。すぐにこちらに向かうと言っている。

 士郎がこちらに到着するのは、四、五時間後だ。

 それまで、どうするか……。

 とりあえず、このまま待つか……。





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