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結論から言うと、俺は頼みを受けることにした。ただし条件付きでだ。
その条件は、二度目の人生を与えること。
つまり、生き返るのだ。少女たちは俺に救われる予定なのに、その俺が救われないなんておかしな話だからな。
さっそく俺は異世界……ハルルと言われる世界に向かわされた。
「そこまではいいんだ、そこまでは。だけどなんで………」
辺りは草原が広がっている。建物一つなくていい景色だ。
「なんで草原のど真ん中に放り出すだよぉぉぉぉぉぉぉッ‼」
それはついさっきの話だ……
「異世界で少女たちを救って欲しいんだ」
「………………は?」
異世界……だと…?
「君は異世界を信じない人間かい? だったら説明する」
「あ、ああ……」
「君は、あの時こうしておけば失敗しなかったのに、と思ったことはあるか?」
たくさんある。失敗がない人生なんてない。人間誰しもやり直したいことがある筈だ。
「つまり君は、地球が誕生し人類が生まれる時間軸に生きている。ということだ」
「お、おい。その言い方だと違う世界があるみたいじゃないか……おかしいだろそんなの!」
「どこがおかしいんだ? 人間は自分の理解を超えた出来事が起こると自分が一番正しいと思い込むことがある。人間は事実から目を背け自分の考えの中で生活している。みんなが正しいと言っているから正しいってのはおかしいだろ?」
言われると反論はできない。人間の社会では正しいのかわかりもしないのに人間の都合で正しくなってしまったものもある。
「お前は……何者だよ?」
「並行世界。一つの選択から生まれる世界。そしてそれらは決して交わることのない違う時間の世界。そして交わることのない世界を繋ぐことができる存在がいる。それがボク、時空の住人ってわけさ」
つまり俺を、違う時間軸の世界に行って少女を救えと……
「簡単にお前の要求をまとめろ」
「今、少女たちは運命に飲まれかけている。本人たちの知らないまま時が流れ変化が無ければ彼女たちは……死ぬ」
「別にダメなのか? 人間がいつか死ぬのはおかしくないだろ」
残酷かも知れないが、知りもしない少女のためにわざわざ時空を超えて救いに行く義理もない。
「彼女たちに死なれては困る」
「それはお前の都合だろう。俺にメリットはない」
俺は死んでしまったんだ。どうせ生き返ることもない。ならさっさと楽になりたい…
「いや……もし君がボクの頼みをきいてくれるなら、君の願いを叶えよう」
俺は聞いた言葉信じれず聞き返す。
「………なんだって?」
「君の願いを叶えよう」
聞き間違いではない。なら願いは一つだ。
「ならもう一度人生を歩ませろ……と言ったら?」
「それが望みなら叶えよう」
マジかよ。もう一度人生を楽しめるなら死んでなどいる場合ではない。
「わかった……やる!」
「そうか……ありがとう。じゃあさっそく行こうか」
空間に黒い穴があく。ちょうど人間一人通れる大きさだ。
「え、ちょッ⁉」
俺が喋るまえに、男は俺を穴へ押し込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
そして今に至るわけだが………
「やあ、無事に辿りついたみたいだね」
上空にさっきの男が現れる。
「どこがだよ!」
いきなり押し込まれて出た先は草原のど真ん中。
「さて、君にはこれから長期にかけて少女たちを運命から解放してもらう」
「長期ってどれくらいだよ?」
ま、1年くらいだろう。
「君次第だが……10年以上はかかるな」
考えが甘々だったようだ……
「大丈夫。この世界にいる間、ボクとの記憶は消すから。つまり君は異世界から飛んできた、ただの青年だ」
そんなことより幾つか疑問がある。
「待て、ここの世界の言葉とか俺は知らないぞ」
「安心してくれ。そこはボクの力で、言語は日本語。通貨は円にしとくよ」
便利な力だなおい。
「じゃあ最後だ。運命から解き放つって言うが、俺は何をすればいいんだ?」
「君たちの世界に、ギャルゲーってあるだろ? それと同じように少女たちを落としてくれればいいさ」
「ま、ま待てよ! 俺にできるわけないだろそんなこと‼」
自慢じゃないが彼女なんか出来た試しがない。
「別に意識で落とす必要はないさ。君が勝手に無意識に落とすから」
「意味がわらないんだが……」
「それじゃあ記憶を消すよ。そろそろボクは戻らないといけないからね」
「お、おい! ちょっとまーー」
「頑張れよ……龍聖」
そう言って男は俺の記憶とともに消えた……