The Red Sisters
お化け屋敷の看板を見て、急に書きたくなって書きました。
ある所に、美しい三姉妹がいました。
三人が仲良く並んで歩けば、誰もが振り返るほどでした。
しかし長女は、自分だけ少し口が大きいのを気にしていました。そこで二人の妹に相談し、整形手術を受けることになりました。
しかし運の悪いことに、その医者はやぶ医者でした。
彼女の口は、耳の方まで裂けた形になってしまいました。
もう、長女を美しいと言う者はいませんでした。
しばらくして、次女は交通事故に遭ってしまいました。
一命は取り留めたものの、彼女の顔は酷いことになってしまいました。
医者からも、「その耳まで裂けてしまった口だけは治すことができない」と言われました。
もう、次女を美しいと言う者はいませんでした。
そんな二人の姉の姿を見続けた三女は、とうとう心が壊れてしまいました。
「わたし、お姉ちゃんたちの妹だから」
二人に笑いかけると、目の前で、手にした鎌で自分の口を裂いてしまいました。
もう、三女を――三姉妹を美しいと言う者は、どこにもいませんでした。
三姉妹は、自分たちをこんな風にした者を、掌を返したように自分たちから離れていった者を怨みながら、灯油を被り、火を点けました。
真っ赤な炎の中で、三人は大きく裂けた口を三日月の形に歪めて、嗤っていました。
「あたし、綺麗?」
呼び止められて、少年は振り返った。
声の主は、赤いロングコートで大きなマスクをつけた女性だった。
「あたし、綺麗?」
少年はうなずく。
すると、女性はマスクに手をかけて、
「これでも……綺麗?」
ぞっとするような声音で、マスクの下を見せた。
少年は少し考えると、ゆっくりと女性の髪に触れた。
「うん、綺麗だよ」
女性は驚いたようにその手を振り払うと、ものすごい速さでどこかへ走り去った。
「私、綺麗?」
学校からの帰り道、今度は肩をたたかれた。
赤いタートルネックで大きなマスクをつけた、若い女性だった。
「私、綺麗?」
少年はうなずく。
すると、女性はマスクに手をかけて、
「じゃあ……これでも?」
絡み付くような声音で、顔を近づけた。
少年は首をかしげ、そっと女性の手に触れた。
「うん、綺麗だね」
女性は動揺したように後ずさると、風のようにどこかへ走り去った。
「わたし、綺麗?」
病院を出て歩いていると、そう話しかけられた。
赤いスカートで大きなマスクをつけた、少女だった。
「ねえ、わたし、綺麗?」
少年はうなずく。
すると少女はマスクに手をかけて、
「これでも? これでも綺麗だって言える?」
心なしか苛立ったような声音で、肩をつかんだ。
少年は、そんな少女に微笑みかけ、
「うん、綺麗な声だよ」
少女は目を見開くと、
「なっ、何よ!」
持っていた鎌を振り上げた。
少年は微笑んだままだ。
「やめなさい」
いつの間にか、赤いロングコートの女性が、少女の手をつかんでいた。
「お姉ちゃん!」
「落ち着いて」
赤いタートルネックの女性も言った。
少女は少年を睨み付け、
「だってこの子が! この子が逃げたり叫んだりしないから、斬れないの!」
彼を突き飛ばした。少年は、なすすべもなくしりもちをつく。白杖がカランと音を立てた。
「……仕方ないのよ。だって、この子は――」
慎重に立ち上がる少年を見やり、ロングコートの女性――長女は言った。
少年は焦点の合っていない目を三人に向け、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。僕、ほとんど目が見えないんです」
少女――三女は、はっと息を呑んだ。
「だから、あなたたちの顔が綺麗かどうかは分からなかったんです。でも、髪とか手とか声は綺麗だったから、つい」
照れくさそうに笑う少年を眩しそうに一瞥し、タートルネックの女性――次女はつぶやいた。
「……顔だけで判断しない人も、いるのよ」
「そうよ。だから」
長女は、三女の頭に優しく手を置いた。
「もう、やめましょう?」
「……っ」
三女はうつむいたが、やがて小さくうなずいた。
その瞬間、三人の身体が淡く輝いた。そして、足元からさらさらと消えていく。
「あの、ね」
何も見えていない少年に、三女が最後に話しかける。
「その……声綺麗って言ってもらえて、嬉しかった」
少年も微笑み返した。
だが、すでに三人の姿はなかった。
それ以来、『人が何者かに口を斬り裂かれる事件』は、起こらなくなったという。
突っ込み所は満載かもしれませんが、見逃してください。書きたかっただけなんです。感想などもいただけると嬉しいです。