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クリスマスに会えたら  作者: 牛尾
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家でテレビを見ながらくつろいでいると、携帯が鳴った。

だれだろう?

携帯のディスプレイを見れば、田野倉先輩だった。

「もしもし?先輩?」

『こんばんは、チエちゃん。今大丈夫?』

「大丈夫ですよ。今は」

『だと思った。隣の部屋で美和子もたぶん同じ番組見てるからさ』

「はは、お姉と好みが一緒ですからね」

お姉と私はお笑いに目がない。お気に入りの芸人さんが出てるときはテレビの前から離れないのだ。

『ちょっとお願いがあるんだけど……』

お願い、と言いつつも先輩は慣れたように、今回のミッションについて私に話す。

先輩の要件は確かに私が適任だし、そんな苦になることではなかったのでその“お願い”を私は快く引き受けた。

『助かるよ』

「将来のお兄さんとお姉のためなら時間作るくらい何でもないですよ」

『チエちゃんそう言って後でなんか請求したりしない?』

「……先輩、私のことなんだと思ってるの?しませんよ!今回は!さすがに!」

『学生時代を思い出すとちょっと信用できないな』

「お姉呼び出す代わりに学食のデザート1週間奢らせたことまだ引きずってるんですか。だってあれはアフターサービスありの、食べてる最中恋愛相談会っていう特典があったじゃないですか」

『はは、冗談だよ。そのことに関しては今でもお礼したいぐらい感謝してる』

その後も先輩は2,3私をからかうようなことを話して、電話を切った。

約束したのは木曜日の夜。

私はその日が楽しみになった。


  *  *  *


駅前で佇む長身の人物を見つけて走り寄る。

「田野倉先輩!こんばんは」

私が声をかけると先輩は振り返り笑顔を浮かべた。

「チエちゃん、久しぶり」

高校時代の部活の先輩であり、今は姉の婚約者である先輩から頼まれたミッション。

今日は姉のクリスマスプレゼント選びに付き合うのだ。

「お久しぶりです。お姉元気してます?」

「元気だよ。たまにはうちに顔見せてよ、喜ぶからさ」

「え~~、だって同棲してる姉カップルの家になんか遊びに行きたくないですよ。当てられちゃうもの」

「そんなことはないと思うけどなぁ、むしろ俺が二人の仲の良さに妬くよ」

「ふふ、まぁ当然ですね」

私は姉と仲が良い。両親が共働きだったため二人で分担して家事をこなしていたし、どちらかが病気になれば寝ずに看病した。子供時代にそうして過ごしたせいか、別々に暮らしても自然と連絡は取り続けている。

先輩と私は自然にデパートに向かって歩き始めた。

「今日は急に呼び出してごめんね。でもプレゼント、チエちゃんも一緒に選んでもらった方が喜ぶと思うんだ。今回はちょっと特別だしね」

「そうかなあ……先輩が選んだものなら何でもきっと喜びますよ、お姉は。でも婚約して5年でやっと結婚か。先輩のんびりし過ぎじゃないですか?婚約まではかなり早かったのに」

「それを言われるとなんとも返せないんだけど。子供がきっかけになったのは確かだね」

お姉のお腹の中には今赤ちゃんがいる。

5ヶ月で、まだそんなに目立たないけど悪阻には結構悩まされたみたいだ。

高校卒業してすぐ婚約し、一緒に暮らし始めた二人は、この度妊娠をきっかけに結婚することになったわけ。

「赤ちゃんのことがなかったらまだ結婚しなかった?」

「なんか一緒に暮らして長いからそういう書類的なものはどうでもよくなっちゃったとこあったから。どうだろね」

「実質結婚してるようなもんだもんね」

「うん。でも結婚式もするし、けじめがついていいかなと思ってるよ」

「結婚式すごい楽しみ!お姉、絶対キレイだよ!」

「俺もそう思う」

「うわ、ノロケだ」

私たちは冗談をまじえながらデパートの中を見て回った。

先輩はお姉ちゃんに指輪を買う。改めてプロポーズをするから。

すでに婚約はしているし結婚指輪は二人で選ぶから特に深い意味はないのだけどサプライズプレゼントするらしい。

私は可愛いマタニティウェアを買った。先輩に持っていってもらう。

クリスマスまでに会えれば良いんだろうけど、お姉は結構忙しいみたいだし。

私も黒うさぎでのアルバイトがあるから、予定が合わない。

「次に会えるのは年末かな?」

「そうですね、私も実家帰る予定だし。でも先輩は実家に帰らなくていいの?」

「帰るけど年明けてからね。うち母さんが美和に会うの楽しみにしてるんだよ。やっと出来た孫だからか知らないけど。あんまり美和を実家に置いとくとたぶん食べすぎて良くないと思うし」

私は高校生のときに先輩んちにお邪魔した時のことを思い出した。

女の子が欲しかったと言うおばさんにご馳走を振舞われたな……。

確かにお姉も沢山食べさせられるかもしれない。

「あー、おばさんの料理美味しいしね。体重増えすぎもよくないですからね」

「そうそう。その辺分かってるんだか……」

「分かってるんじゃないですか?親は経験済みですから。先輩心配しすぎ。それにお姉だって分かってますって」

「そうだけど……」

先輩は結構過保護だ。お姉は幸せ者だなぁと思ってちょっと嬉しくなる。

家族が幸せなのは良いことだ。

「それよりチエちゃんは?彼氏とかいないの?」

「いませんよー、どうせ」

「出来たら言うんだよ、どんな人か美和子と見に行くから」

「お姉は邪魔するから嫌」

「チエちゃんをとられると思ってるんだよ。じゃあ気になる人は?」

ぱっと浮かんだのは照れて慌てる七海。

「いる。なんか……、すごく可愛い人がいて気になってるかも?」

「可愛いの?」

「凄く照れ屋ですぐ顔赤くなるんです。でね、ケーキ作るのすごい上手なんです」

「へえ」

「見た目は普通に格好良いですよ」

「そうなんだ。チエちゃんが格好良いなんて言うの珍しくない?」

「うーん、そうかも?そのギャップがツボだったというか」

「なるほどね」

そんな話をしながらご飯を食べて先輩と別れた。

自分で話しながら気付いたのだけれど、私は結構七深がお気に入りみたいだ。

今まで回りにいなかったタイプかもしれない、と思う。

先輩とは付き合いが長いけれど、照れているところなんてあまり見たことないし。

お姉のことで相談にのっているときも冷静に自己分析までしていた。

先輩は物腰穏やかで何事にも動じないって言えば聞こえは良いけど、本心を見せないというか……ちょっと胡散臭い。

お姉が先輩の告白を受けて付き合うってなったとき、少し心配になったぐらいだ。

まぁ先輩の相談にのっていたので先輩がお姉のことを大好きだっていうのは知っていたから、反対はしなかったけど。なんだかんだ頼りになる先輩だったし。

彼氏、か。

クリスマスまでに作る!って言うのは優希のセリフだけど、確かにこの季節独り身は寂しいなと感じてしまった。

イルミネーションで飾られた駅前は、クリスマス気分で浮かれている人と、道を急ぐ冷えきった人の温度差が激しい。

私はどっちに見えるのかな、と自分用に買った雑貨のクリスマスツリーの描かれた紙袋をぎゅうっと抱きしめていた。

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