②
「オラ!てめぇら!静かにしろ!」
男がそう言って怒鳴ると車内を沈黙させる。二人の男はそれを確認すると再び男は怒鳴った。
「この列車は我々が占拠した貴様らはおとなしく我々の人質になってもらうぞ。妙なマネをしてみろ。脳天(のうてん)に風穴開けられたくなかったらおとなしくするんだな」
その様子を見ていたゼルはあきれた表情でため息を漏らす。
これでは計画がめちゃくちゃだ。ダフと連絡がない今、あまり下手なマネはできない。だが、あの男たちの言いなりになれば自由に動くこともできない。まったく・・・なぜこんな時に限って想定外のことがおきるんだ・・・・ゼルは心の内でそう思った。
すると、隣にいた欄が「ポンッポンッ」とゼルの肩を叩く。ゼルはそれに気づき欄に視線を向けた。
「お兄さん。仕事を無事に成功しないといけないネ。だからここは一度お互いに協力したほうがよろしいネ」
欄の言うとおりだ。ここで任務を失敗させるわけにはいかない。ここはこいつと協力することが最善の策だろう。
ゼルはそう思い、「わかった」と一言そう言った。
「それじゃあ契約成立ネ」
欄はうれしそうな表情でそういうと、その声に気付いたのか男が二人に視線を向けた。
「オイ!そこの二人!一体なにをしている!」
『ドタッ!ドタッ!』と騒音を車内に響かせ、ゼル達の前まで走ってきた。欄達の目の前まで走ってきた男は鋭い目つきで欄を見る。
「貴様!一体何をしていた!」
そう言うと、持っていた銃を欄に突きつける。欄はしぶしぶといった表情で両手を大きく上に上げた。
「大丈夫ネ。何もはなしてないよ」
欄は笑いながら男の方に視線を向けた。
そして、男はなにかに気づきあたりを見回す。
「あと一人男がいたはずだ!男はどこに・・・」
その時、「ドンッ!」という鈍い音が響くと、さっきまで立っていた男が床に崩れ落ちる。
「どうした!?」
その異変に気づいたもう一人の男は欄たちの所に向かって走ってきた。
男が目の前に来たと同時に、欄は服の中に隠していた銀色に鋭く光る剣を取り出した。そして男はそれに気づき欄に銃口を向ける。
だが、それより速く剣は男の胴体を真っ二つに切り裂いた。
「ボトッボトッ」と肉片が飛び散り、真っ赤な血が噴水のように噴出し辺りに飛び散った。さっきで生きていた男も数秒でただの肉片へと変えられたのだ。
欄は何事もなかったかのように血痕のついた剣をハンカチで拭き始める。
「お兄さんは何か武器は持ってないの?」
「武器は今は持ち合わせていない」
ゼルは冷静に返答する。それを聞いた欄は「う~ん」とうなりながら何かを考えているようだ。ゼルはそれを見ながら呆れた表情を見せた。
「そうだ!じゃあこれを使うといいネ!」
欄はゼルに何かを投げた。ゼルはそれをうまくキャッチすると、それに視線を向ける。欄が渡された物は先ほど男が使っていた拳銃だった。ゼルは弾数を確認する。
その銃は撃ってそんなに時間が経っていないため、銃口からは火薬の臭いがツンと鼻を刺激する。
「銃の使い方は分かる?」
欄にそう聞かれゼルは「ああ」と返答する。『ガチャ』と音をたて銃の安全装置を外し,
ゼルは入念に銃の弾数を確認する。
「じゃあ、お兄さん。私と協力するなら『お兄さん』じゃ私言いにくいよ」
欄ははっきりしない口調でそう言うと、ゼルは軽いため息をついた。
「俺の名はゼルだ。これで文句はないだろ?」
ゼルはめんどくさそうな表情をしながらそういった。
「オッケーオッケー、全然文句はないよ。協力するなら名前は必要ネ」
欄は笑顔でそう言うと、先ほど使用した剣の血痕を完全に拭き取った。
「おい、この老夫婦はどうする」
ゼルはそう言ってこの車両に乗っている老夫婦に指を差す。指をさした老夫婦は今の状況を把握できていないのか。呑気(のんき)にお茶を飲んでいた。
「その二人はそっとしといていいネ。今の状況を把握してないみたいだし……」
さすがの欄も少し呆れ気味な表情でそういうとゼルも同じく頷いた。
「確かにそうだな。それならさっさと先に進むぞ。まだこいつらの仲間がこの先いるだろうしな」
ゼルは受け取った銃を再度確認し欄にそう言った。欄は明るい表情で「了解ネ♪」と返事をする。ゼルは欄の再び呆れた表情を見せ、次の車両に向かった。