↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

死神様とのショートライフ

作者: 夜乃氷空
掲載日:2026/08/11

今回は、ちょっぴり変わった死神と女子高生のお話です。


「山野いちご」という名前のせいで、まさかの勘違いから死んでしまった主人公・いちご。


しかも、迎えに来た死神はまさかのポンコツ……。


果たして、いちごの第二の人生(?)はどうなってしまうのか。


笑えて、少し切なくて、最後にちょっぴり余韻が残るようなお話にしてみました。


それでは、どうぞ。

私の名前は山野いちご(やまのいちご)。



刃爾魔里ノ村(はじまりのむら)で生まれ育った女子高生よ。



この間、私は死んじゃったの。



でも、今はこうして元気に生きているわ。



この村はとっても小さいけど、自然が豊かなの。もちろん、学校もあるよ。



「いちごー! おはよう!」



 朝の校門前、聞き慣れた声に振り返ると、そこには幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた少年がいた。私の好きな人+幼馴染の畑野麦(はたけのむぎ)。



「おはよう、麦」



「今日も早いじゃん」



「麦こそ」



「俺はいつもこの時間だって」



 そう言って笑う彼と並んで、私は校舎へ向かう。



 刃爾魔里ノ村は、とても小さな村だ。



 田んぼや畑が広がり、少し歩けば森や池もある。



 都会みたいに大きな店もないし、遊ぶ場所だって限られている。



 それでも、私はこの村が好きだった。



 朝は鳥の声で目が覚めて、学校へ向かう途中には季節の花が咲いている。



 放課後には友達と駄弁って、帰り道に麦とくだらない話をする。



 そんな、どこにでもありそうな高校生活。



「なあ、いちご」



「ん?」



「今日の数学、小テストあるの知ってる?」



「……え?」



「やっぱり忘れてたか」



「聞いてない!」



「いや、先生が昨日言ってたって」



「昨日は眠かったんだもん!」



「それは知らんって」



 麦が呆れたように笑う。



 私は頬を膨らませながら、鞄から慌てて教科書を取り出した。



「あと十分しかないじゃん!」



「だから朝、早く来いって言っただろ」



「麦が一緒に勉強してくれればいいのに!」



「なんで俺が」



「幼馴染特権」



「そんな特権ねぇよ」



 くだらない会話をしながら教室へ向かう。



 授業を受けて、友達と話して、昼休みにはお弁当を食べる。



 放課後になれば、また麦と一緒に帰る。



 いつも通り。



 何も変わらない一日。



 ……の、はずだった。



 いや。



 正確には、少し前まではそうだった。



 だって私は――



 この間、一度死んでいる。



 原因は、ものすごく単純だった。



 放課後、村の池の近くを歩いていたとき。



 私の目の前を、一匹のトンボが飛んでいた。



「……あれ?」



 妙に人懐っこいトンボだった。



 私が歩けば、そのトンボも少し先へ飛ぶ。



 私が止まれば、向こうも空中で止まる。



「待ってよー!」



 面白くなって、私はトンボを追いかけた。



 そして、そのトンボが池のほうへ飛んでいったので――



「えっ」



 足を滑らせた。



 そのまま私は池に落ちた。



 冷たい。



 動けない。



 鼻に泥が入ってくる。苦しい。



 手足を動かそうとしても、うまく力が入らない。



 水の中で、声すら出せない。



 「む…ぎ……たす、け……」



 そこで、私の意識は途切れた。



 ……そう。



 私の死因は、トンボを追いかけて池に落ちたこと。



 我ながら、もう少し何かこう……なかったのかと思う。



 ちなみに、そのトンボ、実は普通のトンボじゃなかった。



 私を迎えに来た死神だったらしい。



 しかも本人は、私を「山野いちご」という名前から果物?野菜?だと勘違いしていた。



 その結果――



「山野いちご……? ばっかもん! ここは賞味期限切れの野菜の来るところだッ!!!人間を連れてくるなッ! お前の目は節穴かッ!! ベテラン死神!! 聞いてるのかッ! お前には罰としてこのいちごの見守りをしてもらうッ!」



地獄のホワイト企業(?)のオフィスに、上司の怒号がすさまじい音量で響き渡った。



白い着物の私の目の前で、黒いローブを着たベテラン死神が、借りてきた猫のように小さくなってガタガタと震えている。



その手には、「天界本日のお迎えリスト(農産物の部)」と書かれたタブレット。



画面には、スーパーの棚で賞味期限を迎えようとしていた、あの瑞々しくて甘い果物の『イチゴ』の画像が映し出されていた。



「ひ、ひえぇぇ……! す、すみませんボス! 漢字で『山野いちご』って書いてあったから、てっきり山奥に自生しているワイルドな野いちごの一種かと……っ!」



ワイルドな野いちごってwww



「わけがあるかボケェッ! どこをどう見たらこの女子高生が植物に見えるんだッ! ほら、さっさとその子を現世に戻して、寿命が尽きるまで責任を持って護衛してこいッ!!」



ドゴォン!! と激しい雷の音と共に、私の意識は急激に浮上した。



「……んっ」



気がつくと、私は一昨日に眠りについたはずの、自分の部屋のベッドの上にいた。



カーテンの隙間から、眩しい朝の光が差し込んでいる。



自分の体をペタペタと触ってみる。



うん、ちゃんと温かいし、心臓も動いている。



生き返ったんだ。



「はぁ……。まさかこの私が、こんな減給もののペナルティを受けるなんて……」



ほっと息を吐いた瞬間、部屋の隅の空気から、さっきのベテラン死神がすうっと姿を現した。……ただし、なぜか身長が三十センチくらいに縮んでいて、頭にはイチゴのヘタみたいな緑の帽子をかぶらされている。



「あの……死神さん?」



「……これからは君の影に潜んで、二十四時間体制で見守らせてもらうよ、山野いちご(人間)さん。ちなみに僕の好物は、本物のイチゴ(練乳がけ)だ。テッドと呼んでくれ。よろしく」



こうして、果物と間違えられて生き返った私の、ちょっとおかしな「死後(?)の元気な生活」が始まったのだった。



 それからしばらくの間、私の日常には、小さな死神が一人増えた。



「いちご、止まって」



「ん?」



 学校からの帰り道。



 横断歩道の前で立ち止まると、私の影からひょこっとテッドが顔を出した。



「右見て、左見て。もう一度右」



「お母さんか何かなの?」



「君を一度死なせた死神だよ。説得力はあるだろう?」



「説得力の方向がおかしい」



 信号が青になった。



 私は歩き出そうとしたが、テッドが慌てて私の服を引っ張る。



「待って!」



「えっ?」



 次の瞬間、曲がり角から自転車が勢いよく飛び出してきた。



「うわっ!」



 テッドが私の影から飛び出し、両手を広げる。



 すると、自転車の進行方向がほんの少しだけ逸れ、私のすぐ横を通り過ぎていった。



「……」



「……」



「今の、テッドがやったの?」



「そうだけど」



「すご」



「君が感心している場合じゃないよ」



 テッドは小さな身体で腕を組み、深刻そうな顔をした。



「君は一度死んでるんだから、普通の人より気をつけてもらわないと困るんだ」



「普通の人よりって……私、そんなに危なっかしい?」



「トンボを追いかけて池に落ちる人間が何を言ってるんだい」



「それは……」



 反論できなかった。



「まあ、僕が守るから大丈夫だよ」



 そう言って、テッドは笑った。



「君が寿命を迎える、その日まではね」



「……寿命?」



「ああ」



 その言葉を聞いた瞬間。



 テッドの表情が、ほんの少しだけ曇った。



「……どうしたの?」



「いや」



 テッドは何でもないように首を振った。



「なんでもないよ」



 それからも、テッドは私を守り続けた。



 階段では「走らない」



 道路では「左右確認」



 池には「近づかない」



 そして、



「トンボを見つけても追いかけない!」



「もう分かったって!」



 そんな毎日が続いた。



 私は、すっかりそれが当たり前になっていた。



 テッドがいる。



 学校に行く。



 友達と話す。



 麦と帰る。



 昨日までと何も変わらない。



 ……そう思っていた。



 ある日の放課後。



「じゃあな、いちご」



「うん。また明日ね」



 いつもの帰り道。



 麦と並んで歩いていた。



 夕暮れの村は、オレンジ色の光に包まれている。



 田んぼの向こうから風が吹いてきて、麦の髪が揺れた。



「なあ、いちご」



「なに?」



「最近さ」



「うん」



「なんか、変じゃない?」



「え?」



「いや……なんとなく」



 麦が私を見る。



「前より、俺のこと見るようになった気がする」



「……っ」



 心臓が跳ねた。



「そ、そんなことないし!」



「そう?」



「そう!」



「ふーん」



 麦が笑う。



 その笑顔を見ていると、胸の奥が少し苦しくなった。



 言わなきゃ。



 ずっと言えなかったこと。



 生きているうちに、ちゃんと伝えたかったこと。



「……麦」



「ん?」



 私は足を止めた。



 麦も立ち止まる。



「どうした?」



 私は一度だけ息を吸った。



 そして。



「……すき」



「……え?」



 麦が目を丸くする。



「いちご、今……」



「……」



 顔が熱い。



 恥ずかしい。



 でも、言えた。



 たった二文字。



 それだけなのに、胸の奥がいっぱいになった。



「俺も――」



 麦が何かを言いかけた。



 その瞬間だった。



「危ない!」



 遠くから、テッドの声が聞こえた。



 振り返る。



 そして――。



 ほんの数秒後。



 私の意識は、途切れた。



「……え?」



 目を開けると、そこには見慣れた景色があった。



 白い天井。



 黒いローブ。



 そして、私を見つめる小さな死神。



「……テッド?」



「……」



 テッドは何も言わなかった。



 ただ、俯いている。



「どうしたの?」



「……ごめん」



「え?」



「ごめん、いちご」



 その声は、今まで聞いたことがないくらい小さかった。



「君の寿命は……本来より少し短くなっていたんだ」



「……え?」



「一度、死者として地獄に送られた。その分だけ、君の寿命が削られてしまった」



「だから……僕がどれだけ守っても……僕は……君を守るって約束したのに」



 そこで、私はようやく気づいた。



 自分の身体に、いつもの温かさがない。



 心臓の音も聞こえない。



 そして何より。



 私はもう、現世にはいなかった。



「……そっか」



 私は小さく笑った。



「私、また死んじゃったんだ」



「……うん」



「今度は、テッドのせいじゃないよ」



「でも……」



「いいの」



 私は笑った。



 悲しくない、と言えば嘘になる。



 もっと麦と話したかった。



 もっと学校に行きたかった。



 もっと、この村で暮らしたかった。



 でも。



「最後に、言えたから」



「……何を?」



「秘密」



 私はそう言って、少しだけ笑った。



 そのとき、遠くから閻魔様の怒鳴り声が聞こえてきた。



「お前ェェェェェェッ!! またこっちに連れてきたのかァァァッ!!」



「ひ、ひえぇぇぇぇっ!こっ、今回は違いますぅっ!」



 テッドが飛び上がる。



私のライフは高校で幕を閉じた。



が、私の死後の生活は、もう少しだけ続くらしい。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!


『死神様とのショートライフ』、いかがだったでしょうか?


最初は「名前をイチゴと勘違いされて死ぬ」という、かなりアホらしいところから始まるお話ですが、最後には少しだけ切ない結末になりました。


ちなみにタイトルの「ショートライフ」は、短い人生という意味だけではなく、いちごとテッドが過ごした短い時間にもかけています。


一度死んでしまったいちごを守るため、今度こそ失敗しないように奮闘するテッド。


でも、いちごの寿命そのものが縮んでいたため、最後まで守り切ることはできませんでした。


それでも、最後にいちごが麦へ「すき」と伝えられたことだけは、きっと意味のあることだったんじゃないかなと思っています。


……まあ、死後の世界では閻魔様にまた怒鳴られているみたいですが(笑)


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
珍しい。 バッドエンド気味だ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。