プロローグ
ーーマモンーー
目の前に広がる白い雲が、白い天との境目を曖昧にする。遠くには天使の軍勢が待ち構えていた。
「準備は整っているようですな」
「随分と小賢しくなったものよ」
バアル様は呆れながら言った。足元では中級悪魔が下級の群れを率いて布陣し、白い雲が黒に覆われていく。
次第に天使との距離が縮まり、その数の多さが見えてきた。およそ二十万の軍勢が天を埋め尽くす。
「どうやってこんなに増えたんだ?」
「煉獄を回避する方法でも編み出したのでしょうか?」
「後で確認せねばなるまい」
天使を目にした下級達が逸り、歯を鳴らす音が群れ全体に広がっていく。天使の放った矢が我慢できずに飛び出した群れの先頭を射貫いた。
「参りましょう」
「全軍突撃ィー!」
バアル様の声が天に響き、黒い雲が動き出した。天使が放つ矢の雨に打たれ次々と脱落していくが、怯まず突き進んで行く。五万の群れが四倍の軍勢に飲み込まれた。黒い雲が瞬く間に白く塗替えられていく。
「何かおかしいです」
「チッ、ルシフェール! 加護を消せ!」
バアル様の大声が天を震わせ、天使達の動きが鈍った。
「マモンよ、ルシフェルの居場所を聞いてこい。モロクとレヴィアタンも行って、さっさと終わらせろ」
「はっ!」
巨大な二人と共に、天使の軍勢に向かう。下級の群れは先程よりも耐え、天使と押し合っていた。
「モロクは右端、レヴィアタンは左端に」
二人は無言で向きを変え、群れを囲おうとする端に飛び込んだ。円形に押し込まれていた群れが横に広がっていく。
(加護無しでは所詮こんなものか)
群れの中心に追いつく。
「一気に終わらせるぞ」
「マモン様、手こずって申し訳ありません」
中級が雄叫びを上げ、体が赤く高揚する。他の中級達も同様に叫び、群れ全体に伝染した。軍勢を押し込み、前に進み始めた下級をかいくぐって進む。先頭に近づくと、天使の残骸が次々と上から降って来た。下級達は降りかかる残骸を気にせず突き進む。
(これでは先頭で戦う方が楽だな)
加速して先頭に躍り出た。
「悪魔どもめ、天界は渡さん!」
あちこちから天使達の怨嗟が聞こえてくる。立ちはだかる天使を薙ぎ払い軍勢の奥に進んだ。軍勢を抜けると、少し間を空けた天使達が見える。
(やはりメタトロンもミカエルも居ないか)
「主よ、我らをお助け下さい」
この期に及んで祈りを口にしている数体を斬り伏せた。
「ルシフェル様はどこだ?」
「悪魔になど教えるものか!」
腕を斬り落とし、もう片方の肩に剣を突き刺す。
「ギャァー」
「お前は見所があるな。地獄で共に働こうではないか」
「そ、それだけは、、」
「居場所を言えば楽にしてやるが」
「くっ、エ、エデンのそ、」
首を斬り、残りの天使も片付ける。振り返るとモロクとレヴィアタンが軍勢を蹴散らしながら近づいて来ていた。
煉獄の入口、そびえ立つ門の前に石板がある。バアル様と共に、書かれている文を読む。
「「汝の罪の数だけ煉獄の火にXXX、XXXXのみが光へと至らん」」
「誰がこんなことを。消された部分には何が?」
「火に焼かれ、耐えた者のみ」
「ルシフェル様、メタトロン、ミカエルですか」
「書き換えられるのは、父上と我の他にその三人しかおらぬ」
バアル様がため息をつき、石板に爪を立てた。
「「汝の罪の数だけ煉獄の火に焼かれ、耐えた者の半分が光へと至らん」」
「これでどうだ?」
「そんなんでいいんですかね?」
「どうせ、’目詰まりを起こしてたから’とかだろ」
「はぁ。光へと至らなかった残り半分のことを書かないと、本当に目詰まりを起こしますよ」
「「残り半分は記憶を消し、地上へ還る」」
「さぁ、エデンの園に行こう」
気が逸るバアル様の後を追う。




