二人の教え子
廊下に出ると、そこにはすでに二人の小さな影が待ち構えていた。
「わっ、出てきた! 先生、姉ちゃん起きたの!?」
「陽、大きな声出しちゃダメだよ……あ、おはようございます」
元気いっぱいに飛び出してきたのは陽。その後ろで、少し気恥ずかしそうにぺこりと頭を下げたのが凪だ。
アニメの画面越しに何度も見た、久我が命に代えても守りたかった宝物たち。その本物を前にして、桜の胸がぎゅっと熱くなる。
「おはよう。二人とも、サクラ君を驚かせてはいけないよ」
久我は苦笑しながら、子供たちの頭を優しく撫でた。
「紹介しよう。今日からここで一緒に暮らすことになった、イトウ・サクラさんだ。しばらく私の手伝いをしてくれるから、仲良くしてくれ」
「ねえ姉ちゃん、その黒い服なに? 忍者の仲間!?」
「陽、失礼だよ……。サクラさん、どこから来たんですか? このあたりじゃ、そんな格好の人、見たことないから……」
キラキラとした好奇心の瞳が四つ、桜に向けられる。
自分のような不審者をどう説明すればいいのかと桜が戸惑っていると、隣から久我の穏やかな声が助け舟を出した。
「彼女は、遠い国から来て、私を手伝ってくれることになったんだ。この村の言葉も少し不自由かもしれないけれど、とても心優しい方だよ」
久我はあえて多くを語らず、けれど断定的な優しさを持ってそう告げた。
彼自身、まだ彼女の正体を掴みかねている。だが、子供たちに不安を与えないよう、そして桜がこの家に居やすいようにという、彼なりの細やかな配慮だった。
「先生のお手伝いかぁ。ふーん、よろしくね、姉ちゃん!」
「サクラさん、よろしくお願いします」
「あ……はい! よろしくお願いします、陽くん、凪くん」
二人の名前を呼ぶと、子供たちは嬉しそうに顔を見合わせた。
久我は、そんな三人のやり取りを満足そうに眺めている。
「さて、挨拶が済んだら朝餉にしよう。サクラ君、この子たちは好き嫌いが多くてね。君からも少し注意してやってくれないかな」
「えっ、先生、それ言わないでよ!」
「陽が人参残すからだよ……」
賑やかな笑い声が、古い寺子屋に響く。
戦場の静寂と雨が嘘のような、あまりに穏やかな朝。
(……この子たちが笑っている。先生が、笑っている……)
桜は、この運命の重みを噛み締めながら、久我の横を歩き出した。
自分がこの世界に来て、彼の命を繋いだことで生まれた、この温かな時間。
有給休暇は、あと七十ニ日。
この尊い景色を、一日でも長く、何があっても守り抜くのだと彼女は心に誓った。




