表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に一生分の休みを。  作者: 桜庭つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

月下の独白

言い渡された通り、桜はあてがわれた部屋から一歩も出ずに夜を迎えた。

行灯の小さな火だけが頼りの、暗い室内。

(……はぁ。やっぱり、そう簡単に信じてもらえないよね……)

やり場のない寂しさに耐えかねて、桜はそっと縁側の障子を開けた。

空には、冷たく澄んだ大きな月が浮かんでいる。あまりに美しい景色が、逆にここが自分の居場所ではないのだと突きつけてくるようだった。

桜は膝を抱え、小さくぽつりと呟いた。

「……会えたのは、嬉しいんだけどな。……だって、本物の先生なんだもん」

自分の手を見る。命(有給)を分け与えたところで、彼との心の距離が縮まるわけではない。今の自分は、彼にとって「警戒すべき素性不明の客」でしかないのだ。

「……頑張らなきゃ。先生のために……私はここに来たんだから」

月明かりの下、桜は自分の影を見つめながら、耐えきれずにポツリと涙を零した。

――その姿を、少し離れた廊下の影から、久我宗介が見つめているとは知らずに。

「監視」という名目ではあったが、彼は夜の静寂の中で、今日一日の出来事を静かに整理していた。

あのような凄惨な場所に、護身の術も持たぬ女性がなぜ現れたのか。そして、なぜ自分の命を救い、こうして涙を流しているのか。

(……私のため……?)

久我は暗闇の中で己の手を見つめた。

利害も、血縁も、仕える主従の関係さえない。そんな見ず知らずの他人が、ただ「自分のため」だけに、すべてを投げ打つような顔をして泣いている。

合理的に考えれば、何らかの意図があるはずだ。しかし、彼女の零した涙は、月光を反射してあまりに清らかに光っていた。

その無防備で、打算を感じさせない悲しみに、久我は胸の奥を静かに突かれたような、名状しがたい戸惑いを覚える。

(やはり、理解できないな。君は……一体、何者なんだ)

久我は足音を立てず、静かにその場を去った。

思慮深い軍師の心に、正体不明の「揺らぎ」が生まれた夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ