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生まれ変わったら、木になりたい

作者: 道上 萌叶
掲載日:2025/12/30

全ての原因が人間にあるわけでは無い。



 生まれ変わったら、ウイルスになりたい。

 増殖する間もなく、熱やアルコールや乾燥によって死滅する、弱いウイルスになりたい。

 人間は大変だ。生が長すぎる。

 人生100年時代とか、やってられない。

 何故周りの人達は、不老不死を求めるのだろう。100年とわ言わなくても、数十年生きるだけでも充分長いのに。

 その点、ウイルスはいい。

 人の目に見えるものではない。

 生き物の体内から出て仕舞えば、数時間の命だ。人のように数十年もの長すぎる時を過ごさなくても良い。

 何も考えず、増殖できる環境なら増殖して、最期は空中を漂って、誰に認識されることなく立ち去りたい。


 生まれ変わったら、ダニになりたい。

 ウイルスと同じように、小さくて、認識されにくいものほど好ましい。

 ウイルスは大変だ。生物の体外に出てしまったら、風に飛ばされてしまう。

 その点、ダニはいい。

 他の生き物にくっついていれば、飛ばされる心配もない。

 卵から孵って、ご飯を食べて、時には卵を産み落とす。そして数ヶ月後には、他の生き物から認識されることなく、ひっそりと立ち去りたい。


 生まれ変わったら、猫になりたい。

 自由な野良猫となって、その足で色んな世界を見てみたい。

 ダニは大変だ。生き物の毛に生まれて、世界が見えない。いつも同じところしか見えない。

 その点、猫はいい。

 自由なその身で、色んな場所まで歩いていける。色んな景色を楽しむことができる。

 自由に足を運んで、お気に入りの景色を見つけたい。そして最期は、誰からも気付かれることなく、静かに立ち去りたい。


 生まれ変わったら、鳥になりたい。渡り鳥がいい。

 鳥の姿になって、空から世界を見てみたい。

 猫は大変だ。高い木に登ってしまうと、下りられなくなる。

 その点、鳥はいい。

 大きな翼を持って、自由に空を飛ぶことができる。

 自由に空を飛び、色んな世界を見て回りたい。そして最期は、暖かい南の大地で、ひとりで立ち去りたい。


 生まれ変わったら、魚になりたい。

 魚となって、自由に泳ぎながら、海の世界を見たい。

 渡り鳥は大変だ。季節が変わる前に、数千キロもの距離を渡らなければならない。

 その点、魚はいい。

 自ら羽ばたかなくても、潮の流れに沿って泳ぐだけだ。

 海流に身を任せ、美味しい餌を食べ、鳥の姿では見ることのできない、海の世界を見たい。そして最期は、海底に沈んで、誰に気付かれることもなく、寂しく立ち去りたい。


 生まれ変わったら、亀になりたい。

 亀になって、ゆったりとした時を過ごしたい。

 魚は大変だ。バランスを取るために、常にヒレを動かしていなければならない。

 その点、亀はいい。

 陸の上でも呼吸できる。厚い甲羅もある。ずっと動かずに、甲羅の中で安全に眠ることができる。

 泳ぐことが嫌になったら、陸に上がって、ゆっくり眠りたい。そして最期は、甲羅の中で眠るように立ち去りたい。


 生まれ変わったら、人間になりたい。

 人間になって、いろんな体験をしてみたい。

 亀は大変だ。のんびりしていたら、いつも夜になっている。

 その点、人間はいい。

 いつも忙しそうにしているのに、いつも楽しそうだ。

 色んな楽しみを見つけて、おいしいものを食べて、色んな所に行ってみたい。そして最期は、すべてに満足して立ち去りたい。


 生まれ変わったら、木になりたい。

 選ぶことができるなら、桜の木がいい。

 誰もが見ることのできる、公園の木じゃなくていい。簡単には立ち入ることのできない山に、ひっそりと生える桜の木になりたい。

 人間は大変だ。悪役なのに、ヒーローにもなる。

 地球環境を破壊している悪役の人間は、地球環境を守るために働くヒーローになる。

 生き物の絶滅の原因になる人間は、絶滅危惧種を保護するヒーローになる。

 人間は役割を持ち過ぎている。

 本来、人間は寂しい生き物だ。他の生き物に嫌われる、狡賢くて寂しい生き物だ。

 それなのに、人間は他の生き物を求める。共に暮らそうとする。

 自分の身を守るために、他の生き物と共存するものはいる。でも、人間は、身の安全のために他の生き物を求めてはいない。心の安寧のために、他の生き物を求めている。

 人間は、他の生き物のことを考えなければならない。たとえ嫌われていたとしても。

 その点、木はいい。

 何もしなくても、色んな生き物が寄ってくる。

 何も考えなくても、常に他の生き物に寄り添うことができる。

 ただ存在しているだけで、他の生き物と共存することができる。


 春。蜂が、鳥が、蜜を求めてやってくる。

 夏。鹿が、猪が、狐が、狸が、木陰を求めてやってくる。

 秋。虫が木の実を求めてやってくる。

 冬。蛇が、リスが、熊が、冬眠の為にやってくる。


 季節が巡り巡って、初めは小さな種だったのに、いつしかそこになくてはならない大きな存在になる。

 木の周りはいつも賑やかだ。他の生き物の温もりがある。

 木となった私は、最期まで生き物達に寄り添われて、温かく過ごしたい。



 生き物には、それぞれ良いことも悪いこともある。

 私達は、自分にないものを持っている他の生き物に、常に憧れている。

 それでも、私達はこの世にウイルスとして、ダニとして、猫として、鳥として、魚として、亀として、人間として生を受けた。

 憧れることは自由だ。でも、憧れても、今それになることはできない。

 それなら、私達は、他の生き物から憧れる今を、目一杯楽しんで生きようではないか。

 そして最期は、やっぱり私は私で良かったと、満足してこの世を立ち去りたい。

桜の木もいいけど、ナラの木もいいな。

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