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第8章 忘年会

地元客で賑わっていた大衆酒場も、ラストオーダーを告げる声が響くと、ざわめきは次第に薄れ、客たちはそれぞれの夜へ帰っていった。


蒼汰のいる十人掛けテーブルでは、20代から60代まで幅広い年代が混ざり合い、賑やかな空気が漂っていた。

その中央で、司会の笠井が椅子を引き、みんなの視線を集めるように立ち上がろうとしていた。


「それでは、宴もたけなわではございますが、そろそろ締めのお時間です!ここで、柏崎チームからリーダーへプレゼントがありますので、拍手でお迎えくださーい!リーダー、逃げないで前に来てくださいね!」


笠井がそっと目配せすると、参加者の中でひときわ体格のいい男性――「なっちゃん」と呼ばれている――も立ち上がり、どこか照れくさそうな表情を浮かべる柏崎へプレゼントを手渡す。


「かっしーさんが退職してからというもの、寂しくて寂しくて……正直、仕事が手につきません!でも、俺たち柏崎チームは、これからもかっしーさんの意思を受け継いで、最高の製品を作っていきます。どうかこれからもお元気で!そして――ハッピーバースデー!」


全員がどっと笑った後、音程の定まらない「バースデーソング」が店内に響き渡った。


「みんな、今日は本当にありがとう!一年ぶりに会えたやつもいて、懐かしかった!店長、いつも遅くまで付き合ってくれてありがとうございます。また次回もお世話になります!それから、蒼汰くん。君のおかげで、今年の忘年会は最高だった。忘年会なのに、忘れられない日になったよ」


座って聞いていたメンバーの何人かが、満面の笑みでうなずく。


「じゃあ、プレゼントは帰ってから見るからな!サンキュー!今年もお疲れさん!これにて、柏崎チーム解散!」


柏崎の号令に、全員が「おう!」と声を揃える。

そこからはまるでスイッチが入ったように、空気がざわっと動き出した。

各々がダウンジャケットやバイクウェアを着込み、忘れ物の有無を指差しで確認しながら、荷物を肩に掛ける。

帰る素振りを見せつつも、まだ名残惜しそうに軽口を叩き合い、笑いながら袖を引く者もいる。


そうして、賑やかさを引きずったまま、一行はゆるゆると店を出ていった。


「本日はありがとうございました。自分のような部外者にも、こんなに良くしていただいて……ごちそうにまでなってしまって、恐縮です」


蒼汰の遠慮がちな礼に、笠井が笑って返す。


「何言ってんの!蒼汰くんが連絡くれなかったら、あのサプライズ成立してないからね!ありがとう。そうだ、東京に住んでるんだっけ?今夜はもう遅いし、柏崎さんの家に泊まっていくんだよね?」


「いえいえ、まだ終電は――」


蒼汰が言い終える前に、柏崎が割って入る。

「ああ、もうその予定だ。忘年会の最中にざっくり事情は聞いたが……まあ、この酔い具合だと明日には全部きれいに飛んでる自信があるからな。ちょうどいい、今日写真で見せた俺の自慢のバイク、明日見せてやるよ」


「おっ!それは大仕事!かっしーさんのバイク話は一回火がつくとしばらく止まらないからね。健闘を祈る!」


最後に「じゃあ、来年も頼むぞ!」と声を上げ、笠井は笑いながら手を振り、夜の闇に溶けていった。

蒼汰はその背中に小さく頭を下げ、半ば勢いに任せられるように柏崎と同じタクシーへ身を滑り込ませた。


「お邪魔します」


駅からタクシーで20分。

柏崎の家は、寝静まった住宅街の一角に建つ、落ち着いた茶色の外壁に、小さめの庭が付いた2階建てだった。

玄関の脇には、自動車がゆったり置けるほどのスペースがあり、その奥にはさらに車庫が続いていた。


玄関の鍵が回る音とともに扉が開くと、冷たい空気がゆっくりと流れ出た。

靴箱の上には、飲みかけのコーヒー缶や旅先の土産らしいものが置かれている。


「ちょっと散らかってて悪いな。客間があるから、今夜はそこを使ってくれ。笠井や中澤――ああ、今日“なっちゃん”と呼ばれていた、大柄の彼だ――が来たときにも泊まってる部屋だ」


柏崎は慣れた手つきでストーブを点け、炎が灯るまでじっと見つめる。

やがて、灯油の匂いと柔らかい熱が漂いはじめ、部屋がゆっくりと息を吹き返すように温まっていった。


就寝前、蒼汰は雄也から届いていた生存確認のメッセージに目を通し、ひとまず無事だとだけ返信した。

今日の出来事を胸に抱えたまま横になったが、数日ぶりに心の緊張がゆるみ、自然とまぶたが閉じると、深い眠りに吸い込まれていった――

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