第6章 交渉
雄也が2品目のあつあつ鉄板ハンバーグを食べ終えようとしたころ、蒼汰は覚悟を固め、店の外へ出た。
吐く息が白く揺れる中、スマートフォンを握りしめ、笠井の番号を押す。
電話に出た声は、どこか癖のある中年男性のもの。
最初こそ訝しんでいる気配があったものの、今は自分がこの番号の所有者であること、そして、柏崎宛に届いた情報を本人に直接伝えたい旨を告げると、拍子抜けするほどあっさり承諾を得られた。
「雄也、連絡取れた。びっくりするくらいすんなり話が進んだよ……逆に怖いけど。当日、一緒に来られる?」
そう告げると、雄也はすぐさま“だから言ったろ”という表情で、得意げに顎を上げた。
「いや~よかったよかった!一緒に行きたい気持ちは山々なんだけどさ、その日、大阪に出張なんだよ。残念だなあ、ほんと」
言葉とは裏腹に、どこか肩の荷が下りたような表情を浮かべる雄也を横目に、蒼汰はひとり、決戦の時を待つ戦士のように、忘年会へ向けて静かに闘志を燃やしはじめていた。
12月20日。
蒼汰は在宅勤務としていたが、作業はほとんど進まなかった。
意識の大半は別の場所にあり、今夜起こりうる事態を、頭の中で幾度となくシミュレーションしていた。
仕事仲間の集まりの場。
“仕事”って一般的な仕事と捉えて良いのか?あるいは黒寄りのグレーなのか?いや、完全に黒という可能性だって捨てきれない。
もし数人の男性相手だとすると…集団暴行されるのか?逃げ道を確保しておかないといけない。
そもそもタイマンだとしても今の筋力じゃ敵う気がしない…
気づけば数ヶ月、理由を並べては、年会費だけしっかり払っているジムを避け続けてきた自分に、思わず苦笑するしかなかった。
待ち合わせは19時。
形式どおりなら10分前、丁寧さを求めるなら15分前――そう考えていたが、今夜ばかりは事情が違った。
師走の金曜日の夜。電車が遅れる理由は混雑以外にもいくらでもある。
蒼汰は、念のためという名の不安に押されるように早めに家を出た。
結果、到着時刻は約束の40分前。
店先に立った蒼汰は、行き交う人波を見つめながら、胸の奥の緊張がじわりと広がっていくのを感じていた。
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