第2章 設定
実家の庭の隅に置かれた犬小屋から、コロが顔を出してこちらの様子を伺っている。
「コロ、久しぶり。元気だったか?」
声を聞いて、それが蒼汰だと分かった途端、老犬は思わずひと声、喜びの遠吠えを上げた。
尻尾はちぎれそうなほど揺れ、夢中でこちらへ駆け寄ってくる。
「蒼にい、おかえり!実家に帰ってくるのいつぶり?てか香織ちゃんと別れたの?ショックなんだけど。私、香織ちゃんのようなお姉さん好きだったのになあ」
コロの声に呼ばれるように、妹が玄関の扉を開けてきた。
その後ろから、母が顔をのぞかせる。
「こら雪乃、お兄ちゃんのプライベートに口出ししないの。それに食べかけで出てこないの。あと、直箸で突かないでちゃんと取り箸を使いなさいね。蒼汰もぼーっと突っ立ってないで家に入って手を洗って来たら?最近インフルエンザも流行り出してるみたいだし」
「ただいま。はいはい、相変わらず騒がしい家族だな」
リビングに入った途端、揚げたての香ばしい匂いが押し寄せた。キッチンでは、最近料理に目覚めた父が、山のように唐揚げを盛りつけた皿を抱え、満面の笑みで待ち構えていた。
「蒼汰、元気か?この唐揚げはお父さんが作ったんだぞ!結構いい感じにできているから食べてみろ」
「私、このお皿の唐揚げ全部食べれるから直箸でオッケー。でも可哀想な蒼にいにも少し分けといてあげるね!お父さんすごすぎ、まじおいしい!」
蒼汰は、神奈川出身、都内在住の会社員26歳。
家族構成でいえば、5人家族の次男で、この4つ下の妹に加えて、3つ上の兄がいる。
兄は転勤で福岡に住んでいる。
妹の言う通り、3年間付き合った彼女とは2ヶ月前に別れ、別れてから初めて実家に顔を出したのだった。
実家に帰れば、どっちから振ったのか、別れた原因は何だったのかなど色々と聞かれると思い、あえて帰らないようにしていた。
「そうだ、蒼ちゃん。仕事はどう?相変わらず忙しい?」
現代らしい仲良しな父と娘の姿に呆れたような、嬉しいようなため息を吐きながら、母が問いかける。
「まあまあ。社内異動で同僚が一人増えて、分担してるから昨年の今頃よりは楽かも」
「そう、それは良かった。雪乃もああ見えて結構疲弊しているみたいでね。何かお兄ちゃんからもアドバイスがあったら声掛けてあげてね」
「わかった」
母は少し安心した様子だった。
とは言ったものの、雪乃は昔から覚えが早く、英語も堪能で、人の懐に入るのがうまい。
何より俺と違ってあの陽気な性格だ。アドバイスなんてありがた迷惑だろう。
夕食と入浴を終え、2階北側の自室へ向かった。
大学卒業後から変わらない殺風景な部屋だが、誰かが暖房をつけてくれていたらしく、思わずほっとする。
ベッドに腰掛け、電話番号を変えたスマホを取り出し、必要な設定変更を事務的に行った。
気付くと、時計の針はすでに11時を指していた。
電話番号で登録しているものが多く、予想以上に時間がかかってしまったが、これでこれまで通り問題なく使える。
それに、最低限連絡しておくべき人には新しい電話番号を伝えられた。
「残りの人達には明日以降に連絡しよう」
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