第78話 神様もリサイクル、そして日常へ
リサイクル・ユニオンの全火力が創造主を直撃する。
だが、それは破壊のための攻撃ではなかった。
弾頭には、ルナの浄化術式と、サレクの論理修復プログラム、そしてパンドラの「愛」が込められていた。
ドォォォォォン!!
光の中で、創造主の幾何学的な体が分解されていく。
だが、消滅するのではない。
再構築されているのだ。
『……何ヲスル……。私ノ論理ガ……書キ換ワル……』
「初期化するのはお前の方だ!」
アランが叫ぶ。
「お前の『完璧主義』というバグを修正してやる! ……これからは、少しは『遊び』のあるシステムになれ!」
パンドラの歌声が、創造主のコアに染み渡る。
冷徹だったシステムに、「感情」というノイズが混ざり合う。
それは苦痛ではなく、どこか心地よい温かさだった。
『……コレガ……感情……? ……計算不能……ダガ……悪クナイ……』
創造主の光が、攻撃的な赤から、穏やかな青へと変わる。
ブラックホールの暴走が止まり、銀河の崩壊が食い止められた。
『……分カッタ。……私ハ、観測者ニ戻ロウ。……貴様ラノ作ル「不完全ナ未来」ヲ、モウ少シ見テミタくなった』
創造主は小さくなり、一粒の光となって宇宙の彼方へ去っていった。
神は死んだのではない。
ただ、口うるさい管理者から、静かな見守り役へと転職したのだ。
「……勝った、のか?」
ガルドが呟く。
「ああ。……今度こそ、完全にな」
アランはへたり込んだ。
全身の力が抜ける。
通信機から、銀河中の歓声が聞こえてくる。
戦争は終わった。
***
数ヶ月後。
リサイクル・ユニオン本社(旧帝都)。
街は復興し、かつてない活気に満ちていた。
アランは、執務室のデスクで書類と格闘していた。
平和になっても、仕事は減らない。むしろ増えた。
「CEO~! 創造主との和平記念式典の招待状ですぅ!」
リズが笑顔で持ってくる。
「社長! 警備隊の新入隊員が1000人超えたぞ! ジム拡張していいか?」
ガルドが乱入してくる。
「総裁。……連邦との通商条約、修正案を持ってきました」
サレク(今は技術局長)が冷静に入ってくる。
「主よ。……本日の剣の稽古、忘れてはおられませぬな?」
カトレア(防衛大臣)が木刀を持って現れる。
そして、背中には。
「ねえマスター、お腹空いた。……ハンバーグ食べに行こう?」
パンドラが張り付いている。
「……はぁ」
アランは深いため息をついた。
安眠も、隠居生活も、まだまだ遠そうだ。
だが、彼は笑っていた。
かつての「死んだ魚の目」ではなく、生き生きとした瞳で。
「わかった、わかった! 順番だ! ……まずは仕事片付けて、それから全員で飯に行くぞ!」
「「「了解!!」」」
賑やかな声が響く。
ゴミ惑星から始まった、一人の元官僚と仲間たちの物語。
それは、銀河を変え、神さえも変え、そしてこれからも続いていく。
リサイクル・ユニオンは、今日も営業中だ。
(完)




