第76話 スパチャは弾薬、コメントは魔法
銀河外縁部。
創造主が送り込んだ白い巨人『エディター・レギオン』の大軍勢に対し、リサイクル・ユニオン艦隊が布陣していた。
「カメラ回ってるか!? 俺の勇姿を撮り逃すなよ!」
ガルドが専用機『ブラック・ジャック・カスタム』のコクピットで叫ぶ。
彼の機体には、無数の小型カメラドローンが追従している。
『ガルドさん頑張れー!』
『海賊王かっこいい!』
『スパチャ(ミサイル補給)送ります!』
配信画面に流れるコメントの数々。
それらは単なる文字ではない。
ルナとサレクが開発した『想念変換システム』により、応援コメントは物理的なエネルギーへと変換され、ガルドの機体に供給されるのだ。
「うおおお! 力がみなぎるぜぇぇ!」
ガルドがトリガーを引く。
普段の3倍の出力で放たれたビームが、エディターの群れを薙ぎ払う。
「見ろ! これが『人気』だ!」
一方、カトレアも負けていない。
彼女は優雅に剣を振り、敵を斬り伏せながらカメラにウインクする。
『カトレア様尊い……』
『騎士道精神に乾杯!』
『投げ銭(バリア強化)します!』
彼女の機体を包むシールドが、黄金色に輝く。
鉄壁の防御。
「主よ、見ていてください! この身が砕けるまで、貴殿と民衆を守ります!」
戦場は、巨大なライブ会場と化していた。
視聴者の熱狂が、そのまま戦力になる。
創造主の冷徹な論理に対し、人間たちの熱い感情が対抗する。
だが、敵も黙ってはいない。
エディターたちが合体し、超巨大な砲塔へと変形する。
狙いは、配信の中継サーバーとなっている『ネオ・アーク』だ。
『……ノイズ源ヲ断ツ。……サーバー破壊』
極太の消滅光線が放たれる。
直撃すれば、配信が止まり、俺たちの力も消える。
「させないわ!」
パンドラがネオ・アークの艦上で歌う。
♪私を信じて! みんなの声が、盾になる!
彼女の歌声に応え、銀河中から膨大な「祈り」が集まる。
それが物理的な障壁となり、ネオ・アークを包み込んだ。
ズドォォォォォン!!
光線が障壁に激突し、弾け飛ぶ。
無傷だ。
「すげぇ……。みんなの想いが、物理攻撃を防いだ……」
アランは震えた。
これが、リサイクル・ユニオンの真の力。
ゴミ溜めから始まった俺たちが、いつの間にか銀河中を巻き込み、神様さえも驚愕させるほどの「絆」を築いていたのだ。
『……理解不能。……計算外ノエネルギー増幅』
創造主の声に、初めて焦りのようなノイズが混じる。
「計算できるわけないだろ!」
アランが叫ぶ。
「これは『感情』だ! 効率も論理も関係ない、ただの熱量だ! ……お前の計算式には、最初から変数が足りなかったんだよ!」
戦いの流れが変わった。
押されているのは創造主の方だ。
だが、追い詰められたシステムは、なりふり構わぬ最終手段に出ようとしていた。
銀河の中心核。
そこにある超巨大ブラックホールを利用し、銀河全体を物理的にリセットする『強制初期化プログラム』の起動だ。
「……まずい。奴ら、銀河ごと自爆する気か!?」
次なる戦場は、銀河の中心。
時間との勝負が始まる。




