第75話 全銀河ライブ配信、視聴率は命の数
エディターの襲撃を受け、アランたちは緊急会議を開いていた。
「敵の能力は『存在の抹消』。……認知度が低いものから消される」
サレクが淡々と要約する。
「つまり、無名の兵士や辺境の惑星ほど、消されやすいということです」
「対策は?」
カトレアが問う。
「簡単だ。……有名になればいい」
アランがニヤリと笑った。
「作戦名『オペレーション・バズ』! ……全軍、および全市民の生活を、24時間体制でライブ配信する!」
「はぁ!?」
全員が絶句する。
「見られていれば消せないんだろ? なら、銀河中を『監視カメラ』だらけにして、互いに見張り合うんだ。……『あそこのパン屋のおっちゃん、今日も元気だな』ってな」
「プライバシーの侵害も甚だしいですけどぉ……」
リズが苦笑する。
「でも、背に腹は代えられませんね。……やりましょう!」
***
数日後。
リサイクル・ユニオンのネットワークは、かつてない賑わいを見せていた。
『こちら第3艦隊! 今日のランチはカレーです! みんな見てくれ!』
『辺境の農家です。トマトが赤くなりました! ポチッと応援よろしく!』
『カトレア様、剣の稽古配信中! スパチャ(支援物資)お待ちしてます!』
軍事機密もへったくれもない。
誰もが自分の存在をアピールし、互いに「いいね」を送り合う。
その膨大なデータ量と相互観測の網が、創造主の干渉を弾き返していた。
そして、その中心にいるのは、もちろんパンドラだ。
『みんなー! 生きてるー!? 今日も私が守ってあげるから、チャンネル登録よろしくねっ☆』
彼女のライブ視聴者数は、兆を超えている。
彼女が歌うたびに、銀河中の人々の精神が同調し、強固な「存在の結界」が形成されていく。
その様子を、虚空の彼方で見つめる存在がいた。
創造主だ。
『……理解不能。……個体ガ、互イヲ観測シ、存在ヲ補強シ合ッテイル』
冷徹なシステムである創造主にとって、「絆」や「共感」といった不確定要素はバグでしかない。
だが、そのバグが、システムによる削除を拒絶している。
『……修正ヲ要スル。……「観測者」ヲ潰セバ、結界ハ崩壊スル』
創造主の標的が決まった。
銀河の中心で歌う、パンドラだ。
ズズズ……ン!
銀河の外縁部に、超巨大なエディターの群れが出現する。
今度は隠密行動ではない。
正面からの、物理的な侵攻だ。
「来たぞ! 視聴率(命)を守れ!」
アランが叫ぶ。
カメラの向こう側とこちら側。
全銀河を巻き込んだ、史上最大のエンターテインメント戦争が始まる。




