第73話 神様対策マニュアルと、悪魔の再就職
創造主による「銀河初期化宣言」から数日。
リサイクル・ユニオン本社は、勝利の祝賀ムードから一転、戦時体制の強化に追われていた。
執務室にて。
アランは頭を抱えていた。
「……相手は銀河サイズの超存在か。物理攻撃が効くのかさえ怪しいな」
「論理的に考えれば、勝率はゼロです」
サレクが冷徹に告げる。
「ですが、相手が『システム』である以上、必ず『バグ(弱点)』が存在するはずです」
「バグか……。それを見つけるには、敵の情報がもっと必要だ」
アランは視線を移した。
そこには、半透明の霊体となった元魔王が、気まずそうに浮いていた。
名前はまだない。(面倒なので『部長』と呼ぶことになった)
「おい、部長。創造主について知ってることは?」
『……詳しくは知らぬ。奴らは高次元に存在し、我々下位種族には干渉するだけだ』
部長(元魔王)が答える。
『だが、奴らが使う「初期化プログラム」には、膨大な精神エネルギーが必要だということは知っている』
「精神エネルギー?」
『ああ。奴らは銀河中の生命から「恐怖」や「絶望」を吸い上げ、それを燃料にして世界を作り変えるのだ』
なるほど。
つまり、俺たちがビビればビビるほど、敵は強くなるわけか。
「……なら、対策は決まったな」
アランはニヤリと笑った。
「作戦名『オペレーション・ノー・フィアー(恐怖ゼロ)』! ……全銀河の民衆を、徹底的に『ポジティブ』にする!」
「はぁ!?」
リズが目を丸くする。
「部長! お前の仕事だ!」
アランは元魔王を指差した。
「お前は恐怖を操るプロだろ? なら、逆に『恐怖を取り除く』のも得意なはずだ」
『……私に、人間どもを癒せと言うのか?』
「そうだ。……今日からお前は『銀河メンタルケア公社』の初代総裁だ。部下(悪魔たち)を使って、全住民のストレスケアを行え! 恐怖を感じさせないくらい、幸せにしてやれ!」
悪魔を天使のように使う。
究極のブラック……いや、ホワイト活用術だ。
『……フン。魔王だった私が、カウンセラーとはな』
部長は苦笑したが、満更でもなさそうだった。
『いいだろう。……私の「洗脳技術」を平和利用すれば、全銀河をハッピーな脳みそにすることなど容易い』
「おい、洗脳はするなよ! あくまでケアだ!」
こうして、元魔王による大規模なメンタルケア事業が始まった。
同時に、技術班ではサレクとクローネ博士が、創造主に対抗するための『次元干渉兵器』の開発に着手した。
アランは窓の外を見上げた。
見えない敵が迫っている。
だが、俺たちには「結束」と「笑顔」という武器がある。
神様相手に、どこまで通用するか。
リサイクル・ユニオンの、最後の挑戦が始まる。




