第72話 魔王の消滅、そして真の黒幕
魔王アーク・デーモンの消滅と同時に、彼が率いていたヴォイド・デーモンの大軍勢もまた、統率を失い霧散していった。
パンデモニウムの空には、久しぶりに澄んだ星空が戻っていた。
「……終わったのか?」
カトレアが折れた剣を杖にして立ち上がる。
「ああ。……勝ったんだ、俺たちは」
ガルドが空に向かって拳を突き上げる。
通信回線からは、銀河中の兵士たちの歓喜の声が溢れ出した。
だが、アランたちの表情は晴れなかった。
彼らの前には、封印されたはずの『マスターキー』が赤く明滅し、空中に不吉なホログラムを投影していたからだ。
『警告。……データ転送完了。……「創造主」へのアクセスを確認』
ホログラムに映し出されたのは、機械とも生物ともつかない、無機質な「目」の紋章だった。
「これは……?」
サレクが解析を試みるが、端末がエラーを吐く。
「未知の言語コードです。古代銀河文明よりも古い……あるいは、別の宇宙の……」
その時、アランの横にいた元魔王(今は半透明の霊体)が、震える声で言った。
『……奴だ。……私にヴォイドの力を与え、唆した存在』
「何だと?」
『私はただの悪魔だった。……だが、ある日「声」が聞こえたのだ。「力を欲するか? 進化を望むか?」と。……その声に従い、私はヴォイドを取り込んだ』
魔王は悔しげに拳を握る。
『私は利用されていたのだ。……奴らにとって、この銀河はただの「実験場」に過ぎなかったのだ』
実験場。
アランは戦慄した。
ヴォイド・イーターによる捕食も、魔王による精神汚染も、全ては何者かが仕組んだ「進化の実験」だったというのか。
「……パンドラ、何か知ってるか?」
アランが問うと、パンドラは青ざめた顔で首を振った。
「記憶にないわ。……でも、私のコアが恐怖している。……あいつは、私を作った古代人よりも、もっと上位の存在よ」
その時、ホログラムの「目」がギョロリと動き、アランたちを見据えた。
『……実験終了。……結果ハ「失敗」。……サンプル(人類)ハ、想定外ノ進化ヲ遂ゲタ』
機械的な音声が響く。
『……リセットヲ推奨。……次ナル実験ノタメニ、コノ銀河ヲ「初期化」スル』
初期化。
それは、全生命の抹殺を意味していた。
「ふざけるな!」
アランが叫ぶ。
「俺たちはデータじゃない! 生きている人間だ! 勝手にリセットなんてさせてたまるか!」
『……抵抗ハ無意味。……我ハ「創造主」。……全テノ始マリニシテ、終ワリ』
通信が切れる。
同時に、銀河の彼方、暗黒領域のさらに奥から、計り知れないエネルギー反応が接近してくるのを、ヴィクトリアが感知した。
『マスター! 超巨大な質量反応です! ……大きさは、銀河系そのものに匹敵します!』
絶望的なスケール。
だが、アランは笑った。不敵に、そして挑戦的に。
「上等だ。……相手が神様だろうが創造主だろうが、ウチのシマ(銀河)を荒らす奴は客じゃない」
アランは仲間たちを見渡した。
傷ついたカトレア、ガルド、ルナ。そして、新たに加わった元魔王。
彼らの目には、恐怖ではなく、戦意が宿っていた。
「行くぞ。……これが最後の仕事だ。『神殺し(デバッグ)』の時間だ!」
リサイクル・ユニオンの戦いは、神話の領域へと突入する。




