表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/78

第71話 魔王のリサイクル、あるいは魂の救済

 魔王アーク・デーモンの力は圧倒的だった。

 彼が放つ『虚無の波動』は、あらゆる物質を原子レベルで分解し、精神をも蝕んでいく。


「ぐあああっ! シールドが持たん!」

 スペックが膝をつく。

 カトレアの剣も折れ、ルナの魔力も尽きかけている。


『終わりだ。……塵に還れ』

 魔王が最後の一撃を放とうとしたその時。


「まだだ! パンドラ、サレク! 準備はいいか!?」

 アランが叫ぶ。


「いつでも!」

「論理回路、接続完了!」


 アランは懐から『マスターキー(黒い箱)』を取り出した。

 クローネ博士とサレクが改造した、対ヴォイド用最終兵器だ。


「これは『自爆スイッチ』じゃない。……『分離プログラム』だ!」


 アランはキーを起動し、魔王に向かって投げた。

 キーが空中で展開し、幾何学的な光の檻となって魔王を包み込む。


『な、何だこれは!? 力が……抜けていく!?』


「貴様の中にある『ヴォイド・イーターの因子』だけを抽出し、データ化して保存する! ……残るのは、ただの『迷える魂』だけだ!」


 パンドラが歌い出す。

 彼女の歌声が、魔王の精神に干渉し、ヴォイドとの結合を解いていく。


『やめろ! 私は完全なる存在に……!』


「完全なんてつまらないわよ! ……もっと悩み苦しんで、足掻きなさい!」


 光が強まり、魔王の体から黒いヴォイドが引き剥がされていく。

 その霧はキーの中に吸い込まれ、封印された。

 後に残ったのは、禍々しい鎧を失い、半透明の霊体となった本来の『アーク・デーモン(ただの悪魔)』の姿だった。


「……はぁ、はぁ。……何をした?」

 悪魔は呆然と自分の手を見つめる。


「お前を『リサイクル』したんだ」

 アランが近づく。

「ヴォイドの力は没収だ。……だが、お前の『魂』までは消さない」


「……私を殺さないのか? 私は多くの星を滅ぼしたぞ」


「償ってもらうさ。……これからはウチの『メンタルヘルスケア部門』の責任者としてな」


 アランは手を差し出した。

「お前は絶望を知り尽くしている。……だからこそ、絶望している奴らを救えるはずだ。……どうだ? 地獄よりキツイ仕事だが、やりがいはあるぞ」


 悪魔はアランの手を見つめ、やがて自嘲気味に笑った。

「……フン。人間とは、どこまでも強欲な生き物だ。……悪魔さえも使い潰すか」


 彼はアランの手を取った。

 魔王の敗北。そして、新たな「社員」の誕生。


 だが、その時。

 封印されたはずの『マスターキー』が、不吉な赤色に点滅し始めた。


『警告。……外部からの強制アクセスを検知。……データ転送中』


「なっ!? 誰だ!?」

 サレクが叫ぶ。


 モニターに映し出されたのは、銀河の彼方、暗黒領域のさらに奥から送られてくる信号だった。

 そして、その発信源は――。


『……サンプル回収。……実験ハ、次ノ段階へ』


 冷徹な機械音声。

 ヴォイド・イーターを生み出し、古代文明を滅ぼした真の黒幕『創造主ザ・クリエイター』が、ついにその存在を現したのだ。


 戦いは終わっていなかった。

 魔王はただの「実験台」に過ぎなかったのだ。

 アランたちの視線は、再び銀河の外、深淵の彼方へと向けられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ