第70話 魔王の問い、社長の答え
魔城パンデモニウム。
その内部は、有機的なパイプと無機質な金属が入り混じる、異形の迷宮だった。
アーク・ノヴァは強行着陸し、アランたちは魔王の玉座を目指して走っていた。
「……静かね」
パンドラが周囲を警戒する。
城内には敵の姿がない。罠か?
「いいえ。……招かれているのです」
サレクが言う。
「魔王は、我々と対話、あるいは決闘を望んでいるようです」
巨大な扉が開く。
広大な玉座の間。
そこに、魔王アーク・デーモンが一人、静かに座っていた。
ヴォイドと融合し、神々しくも禍々しい姿になった彼は、グラスを傾けて俺たちを見下ろした。
『……よく来たな、人間。そして、出来損ないの兵器たちよ』
「魔王! 観念しろ!」
ガルドが武器を構える。
『観念? ……何をだ?』
魔王は薄く笑った。
『私はこの銀河を「救済」しているのだぞ。……争いを無くし、全ての意識を一つに統合する。それこそが、究極の平和ではないか?』
「……平和だと?」
アランが一歩前に出る。
「個性を殺して、ただのデータになることが平和かよ。……そんなの、死んでるのと同じだ」
『死とは安らぎだ。……貴様ら人間は、生きる苦しみに喘いでいる。労働、格差、老い、病……。私が全てから解放してやるというのに』
魔王の言葉には、ある種の真理が含まれていた。
永遠の安らぎ。それは誰もが一度は願うことかもしれない。
だが、アランは首を振った。
「余計なお世話だ。……俺たちは、苦しむために生きてるんじゃない。苦しみを乗り越えて、美味い飯を食うために生きてるんだ!」
アランは懐から、ポケットに入っていた『アランまんじゅう(試作品)』を取り出し、かじりついた。
「……んぐっ。……甘すぎるな。リズに言っとかないと」
『……何だそれは』
「俺たちの『生きた証』だ。……不完全で、甘くて、ちょっと不格好なな」
アランはまんじゅうを飲み込み、魔王を指差した。
「お前の言う完璧な世界には、こんな美味いもんはないだろ? ……だから俺は、お前の『救済』を拒否する!」
『……愚かな』
魔王が立ち上がる。
『ならば、力で証明しよう。……どちらの進化が正しいか!』
魔王の体が膨張し、異形の怪物へと変貌する。
最終決戦。
だが、これはただの殴り合いではない。
「完璧な虚無」対「不完全な混沌」の、思想をかけた戦いだ。
アランは叫んだ。
「総員、かかれ! ……俺たちの『泥臭い強さ』を見せてやれ!」




