第68話 最後の3日間、それぞれの夜
決戦まであと3日。
フォート・オメガの地下深く、臨時の研究所では、クローネ博士とサレクが不眠不休で『マスターキー』の改造を行っていた。
「くそっ、コードが複雑すぎる! 古代人のプロテクトは鉄壁だ!」
博士が苛立ちを露わにする。
彼のカエルの皮膚は乾燥し、目は充血している。
「論理的に解析します。……このサブルーチンを迂回すれば、自壊プログラムの対象を『ヴォイド因子のみ』に限定可能です」
サレクの手は止まらない。彼のサイボーグ化された指先からは煙が出ている。
「無理をするな、サレク。……お前が倒れたら誰が計算する」
「総裁こそ。……貴方が倒れたら、誰が号令をかけるのですか」
アランがコーヒー(激マズだがカフェインは最強)を差し入れる。
技術班は限界ギリギリだ。
一方、格納庫では、ガルドとカトレアが兵士たちを鼓舞していた。
「いいか野郎ども! これが最後の喧嘩だ! ……勝って、美味い酒を飲むぞ!」
「武器の手入れを怠るな! 剣の一振り、弾の一発が銀河を救う!」
彼らの声には力があるが、その裏には隠しきれない不安が見える。
兵士たちの中には、家族への遺書を書いている者もいた。
そんな中、意外な訪問者が現れた。
虚空教団の元司祭、深海で戦ったあの美女だ。
彼女は捕虜として収容されていたが、今は拘束を解かれ、静かに佇んでいた。
「……なぜ、私を自由に?」
「人手が足りないんでね」
ルナが答える。
「それに、アンタもヴォイド・イーターのことは詳しいっしょ? ……神様が暴走して、信者まで食おうとしてるんだ。止めるの手伝ってよ」
「……ふん。神への冒涜ね」
元司祭は冷笑したが、その目は真剣だった。
「いいでしょう。……あの魔王のやり方は美しくない。私が『正しい祈り(弱点)』を教えてあげるわ」
昨日の敵は今日の友。
総力戦に向け、あらゆる戦力が集結していく。
そして、最後の夜。
アランは一人、展望デッキで星空を見上げていた。
そこへ、パンドラがやってきた。
「……眠れないの? マスター」
「ああ。……武者震いってやつかな」
「嘘つき。……胃が痛いんでしょ?」
パンドラはクスクス笑い、アランの隣に並んだ。
「ねえ、マスター。……この戦いが終わったら、どうする?」
「そうだな……。まずは長期休暇を取る。温泉に行って、泥のように眠るんだ」
「私も行くわ。……背中流してあげる」
「お前は女湯だろ」
他愛のない会話。
だが、それが何よりも愛おしい。
パンドラはアランの手を握った。
「……約束よ。必ず生きて帰って、一緒に温泉に行くの」
「ああ。約束だ」
指切りげんまん。
幼い約束が、二人の、そして銀河の未来を繋ぐ楔となる。
夜が明ける。
警報が鳴り響く。
敵の総攻撃が始まったのだ。
準備は整った。後はやるだけだ。
「総員、発進! ……オペレーション・ラグナロク、開始!!」
アランの号令と共に、リサイクル・ユニオン全艦隊が、死地へと飛び立った。




