第65話 閑話 深淵の玉座、魔王の憂鬱
銀河の東側、『虚空領域』の最深部。
そこには、惑星の残骸を積み上げて作られた、巨大で禍々しい城塞が浮かんでいた。
『魔城パンデモニウム』。
ヴォイド・イーターと精神体悪魔の融合体、ヴォイド・デーモンたちの本拠地である。
薄暗い玉座の間。
玉座に座るのは、漆黒の金属鎧と、燃えるような霊体のマントを纏った『魔王』だ。
彼は、手元のワイングラス(中身は恐怖の感情エネルギー)を揺らしながら、退屈そうに頬杖をついていた。
『……遅い』
低く、重々しい声が広間に響く。
『人間どもの船一隻、なぜ沈められぬ。……我が軍はここまで無能だったか?』
玉座の前に跪いているのは、3体の幹部たちだ。
1体目は、全身が刃物で構成された長身の悪魔。『斬撃将軍』。
『申し訳ありませぬ、魔王様。……奴らは予想外の力を持っています。特にあの「歌う盾」と「魔法の弾丸」……。我々の計算外の兵器です』
2体目は、巨大な脳髄が空中に浮いているような姿の悪魔。『知略参謀』。
『フン、力押ししか能がないからだ。……奴らの強みは「結束力」と「リサイクル(再利用)」。……敵の技術を奪い、自分のものにする貪欲さこそが脅威なのだ』
3体目は、美しい女性の姿をした悪魔。だが、その背中からは無数の蜘蛛の脚が生えている。『蠱惑の女帝』。
『あら、私はあの総裁ちゃん、気に入ったわよ。……あんなに美味しそうな「ストレス」を抱えた魂、久しぶりだもの。……ふふっ、捕まえてペットにしたいわ』
魔王はグラスを置いた。
『……アラン・スミシー。……ただの人間にしては、よくやる』
魔王は知っていた。
彼らが『始祖の星』へ行き、『マスターキー』を手に入れたことを。
あれは、自分たちヴォイド・デーモンにとっても致命的な弱点となりうる。
『だが、奴らは誤算をしている』
魔王が立ち上がる。
その背後にあるスクリーンに、現在育成中の『最終兵器』のシルエットが映し出された。
それは、プラネット・イーターさえも凌駕する、銀河サイズの怪物だった。
『我々は、ただの捕食者ではない。……この宇宙の「進化の終着点」だ。物理と精神を融合させ、完全なる生命体へと至る。……奴らの持つ鍵ごときで、我々の進化は止まらぬ』
魔王は幹部たちを見下ろした。
『総員、出撃準備だ。……奴らが戻ってきた時が、この銀河の最期となる。……アラン・スミシーに、最高の「絶望」をプレゼントしてやろう』
幹部たちが一斉に頭を下げる。
『御意! 魔王様に栄光あれ!』
虚空領域の全戦力が動き出す。
その数は、数億。
リサイクル・ユニオンの想像を絶する大軍勢が、静かに牙を研いでいた。




