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第64話 帰り道は、行きより怖い

 始祖の星を離脱し、暗黒領域を抜けて銀河への帰路についたアーク・ノヴァ。

 だが、その道中で待ち構えていたのは、予想を遥かに超える敵の包囲網だった。


「レーダー反応多数! ……囲まれています!」

 オペレーターが悲鳴を上げる。


 闇の中から現れたのは、かつて遭遇したヴォイド・デーモンたちの群れ。

 だが、様子が違う。

 以前は「半透明な人型」だった彼らが、今はそれぞれ異なる形態へと進化していたのだ。


 全身が鏡面装甲で覆われた『重装型』。

 四本の腕を持ち、ビームサーベルのような触手を操る『近接型』。

 そして、巨大な砲塔を背負った『遠距離型』。


「なっ……! あいつら、クラスチェンジしてやがる!」

 ガルドが叫ぶ。


「学習したのね……。私たちの戦術に合わせて、個体を最適化してきたんだわ」

 パンドラが歯噛みする。


 敵の指揮官個体が、テレパシーで語りかけてくる。

『……帰サナイ……。ソノ「鍵」ハ……我ラガ頂ク……』


 ズドォォォン!!

 遠距離型からの一斉射撃。

 アーク・ノヴァのシールドが激しく揺れる。


「迎撃だ! ルナ、聖銀弾は!?」

「在庫切れっすよ! さっきの迷宮で使い切っちゃった!」


 最大の武器がない。

 物理攻撃は重装型に弾かれ、精神攻撃は彼らの共有ネットワークによって分散されてしまう。


「くそっ、じり貧だ!」

 アランが操舵席を叩く。

「スペック、転送で逃げられないか!?」


「不可能です。敵が空間干渉フィールドを展開しており、ワープ座標が固定できません」


 完全に狩りの陣形だ。

 このままでは、マスターキーごと沈められる。


 その時、医務室から通信が入った。

 回復中のサレクだ。


『……総裁。……一つ、提案があります』


「サレク! 無理をするな!」


『敵のネットワークは強固ですが……逆に言えば、全てが繋がっているということです。……私が以前接続した「バックドア」が、まだ生きているかもしれません』


「バックドア?」


『はい。……私が洗脳されていた時に埋め込まれたパス。……これを使えば、敵の指揮官個体に、私の意識を「憑依」させることができるかもしれません』


 敵を乗っ取る。

 だが、それはサレク自身が再びヴォイドの汚染に晒されることを意味する。


「ダメだ! リスクが高すぎる!」

 アランが即座に却下する。


『ですが……このままでは全滅です。……私を信じてください。……今の私には、貴方たちがくれた「非論理的な強さ」があります』


 サレクの声は静かだが、力強かった。

 アランは迷い、そして決断した。


「……わかった。時間は3分だ。それ以上は強制切断する!」


「感謝します」


 サレクが接続を開始する。

 アーク・ノヴァから放たれたデータ信号が、敵の指揮官個体を直撃する。


『ガ……アァァァァ!?』

 指揮官が苦しみだす。

 その動きが止まり、統率を失った周囲のデーモンたちが混乱し始める。


「今だ! 一点突破!」

 アランが叫ぶ。


「行くぞオラァァァ!」

 カトレアが艦首砲座に飛び乗り、手動でトリガーを引く。

 主砲が敵陣の中央を貫き、脱出ルートをこじ開ける。


「抜けた!」


 包囲網を突破し、アーク・ノヴァはワープ空間へと逃げ込んだ。

 サレクの接続も切断される。

 彼は鼻血を出して倒れたが、その顔には微かな笑みがあった。


「……借りは返しましたよ、総裁」


 だが、安心はできない。

 敵は明らかに進化している。

 銀河に戻れば、さらに強大になったヴォイド・デーモン軍団が待ち構えているだろう。

 マスターキーの改造を急がなければならない。

 アランたちの帰還は、新たな激戦の幕開けでもあった。


(続く)

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